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真麻一花

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 どうしようもないことが思い出されて、実咲は自分の考えの甘さを後悔する。
 友達としているだけなら、雅貴はいい奴だと思えるのに。その気持ちは今も変わりなく実咲の胸の中にあった。けれど、その思いがなおのこと、自分をそんな勘違いへと追い込んだのだのかもしれないと思えた。
 好きだという気持ちを打ち砕いてもおかしくないほどに、雅貴の女の人に対する誠意のなさに実咲は嫌悪を覚えていた。

「そうだよ、最低だよ」

 実咲は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
 最低の男だと、心底思うのに。そして、その最低さに傷つけられたのに。
 なのに、それでも気持ちが変わらないのは、どうしてなのか。
 考えるだけで胸がつまった。
 深いため息がこぼれた。それには深い自嘲がこもっていた。

「もしかしたら……って、期待してるのかな」

 声に出してつぶやいてみた。
 それはあまりにも白々しく、滑稽に響いた。
 私は信じていたいのかもしれない。
 自分は特別だと、以前のように一人の人間として雅貴が自分を認めてくれていると。そして、いつかそのうち、自分の事を女性として好きになってくれるかもしれないと。
 そんな風に考えながら、実咲は笑った。
 笑わないと押しつぶされそうだった。
 考えた内容が、あまりにも現実不可能に思えて。考えた内容をあり得ないと否定する感情ばかりが押し寄せてきて。

「前向きに、か」

 涼子の言葉を思い出し、ふっと息を吐く。
 期待し続けて、何か進展があるというのか。雅貴が自分を本心から受け止めようとするように変わるとでも言うのか。
 友達として今も一緒にいたのなら、こんな風に、決別がこれから先に見え隠れするような事態にはならなかったのだろうか。

「なんで、好きなのかなぁ」

 今更、どうしようもないことをつぶやいてみる。声に出してみると、何となく心が落ち着いた。けれど、何か変化が起こるわけでもない。
 見切りはつけているはずなのに、それでも、未だに薄情さの裏にあるかもしれない女性への誠実さを雅貴に求めている。
 もし自分がもう一度雅貴を信頼して、それで以前のような信頼し合える関係を取り戻せるのなら。
 考えて、実咲は自分をいさめるように軽く首を振った。

 きっとそんなことは起こらない。雅貴にとって友達でなくなった自分は他の女と変わらないのだから。

 確かに、雅貴はいつものように簡単に実咲と別れようとはしなかった。けれどそれはただの気まぐれに過ぎないだろうと実咲は思っている。こうして再び付き合うのは、別れたくないのではなく、ただのゲームのような物なのだから。

 思い起こせば、つきあい始めていつの間にか以前のような軽口をたたくような楽しい会話が二人の間になくなっていた。
 突き放されているんじゃないか、そう感じる瞬間がまた訪れるのではないかと、怖くて逃げていた。
 ろくに会話もなくセックスをしていた。実咲は雅貴の目を他に向けさせないために必死で自分を飾っていた。
 そこまで考えて実咲は我に返った。

 ああ、そうなんだ……。

 そのことに気がついた瞬間、涙がこみ上げてきた。

 特別であるはずがない。私は、友達ですらなくなっていたのだから。

 実咲は、自分が雅貴の周りにいた女性達と同じ存在になっていることに気付く。着飾って、雅貴の気を引く彼女たちと。
 ようやく気付いた気分だった。頭でわかっていたことが、ようやくすとんと自分の中に落ちてきたような感覚。

 私は特別じゃない。雅貴が私に執着しているわけでもない。ただの遊び、ゲームでしかない。
 そうだ、そういうことなんだ……。

 気付いた事実に胸が押しつぶされそうになる。

 無理だよ、涼子。

 実咲はすがるように親友を心の中に思い描く。

 この状況を変えられるほどの力は、私にはない。私にできる事なんて、変わればいいと思いながら何もできずに、せいぜい強がって、なんでもないふりして雅貴と最後のゲームに付き合うくらい。ゲームが終わったときに、鼻で笑って、なんでもないふりをしていられるよう予防線を張るぐらい。
 私にできることは、自分が傷つかないように、雅貴を信じないようにするだけ。
 こんなんじゃ何も変わらない、分かっていても、それ以外のことはできそうにない。
 無理だよ。

 心の中で親友に話しかける。前向きにと言って発破をかけてくれたその言葉さえ、今の実咲には重かった。

 私に、雅貴を変える力はない。
 結果は、きっと変わらない。

 絶望が実咲を包み込んだ。
 実咲は息を吸った。

 もう、いい。何も変えられないのなら、何も変わらなくていい。

 雅貴との関係の終着点を見た気がした。
 でも、それでも一緒にいたい、少しでも長く。
 雅貴が飽きて、最後通知を突きつけてくれる、そのときまで。
 実咲は深く長い息をついた。

 今だけ、ゲームが終わるその時まで、それを覚悟して雅貴と一緒にいられることを考えよう。

 何も考えず、今までのように不安から目をそらして。

 私には、きっと何も変えられない。自分の気持ちも、雅貴の気持ちも。だから、今だけは一緒に……。

 実咲は暗鬱とした絶望の中、自嘲した。

 せめて、友達のままでいられたらよかったのにね。



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