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本編
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後日、いろいろ分かったことがある。
雅貴が引っ越し先を知っていたのは涼子が教えたのだと言うこと。
「そういえば、この前まで涼子と噂になってたよね、あれは何?」
訊ねると、雅貴はこの上なくイヤそうに顔をゆがめた。
「ああ、佐藤さんね……。あの人のことは、何も話したくない」
口を割ろうとしない雅貴を「後ろめたいことがあるんでしょ」と脅して実咲は無理矢理聞き出した。
それによると、実咲の引っ越し先や電話を聞き出そうとして、ようやく待ち合わせをして話をさせてもらえると思ったら、合コンの現場を見せつけられたりとか、結構いろいろな仕打ちをされたらしい。その上ようやく話を聞いてもらえるかと思えば、どういうつもりか問いただされて、納得のいく答えが返ってくるまで「そんなんじゃ会わせるわけないでしょ」とだめ出しを受けていたりだとか、さんざんだったと雅貴がぼやいた。
「俺は、最近、佐藤さんの顔を見ただけで、体がこわばるようになったよ」
あながち冗談でもなさそうなその重い声と表情に、実咲はぶっと吹き出す。
それを見て、雅貴も、仕方なさそうに笑った。
「まあ、おかげで、見えたこともいっぱいあったし、良かったとは思うけどな……」
不承不承といった様子でそう締めくくった。
持つべき物は、強者の親友である。
実咲の知る限りでは、雅貴と一度別れた後、涼子は本気で雅貴を嫌っていたように思う。
それぐらい、実咲の気持ちを真剣に考えてくれているのが分かった。
雅貴に合コン現場を見せつけたというのも、たぶん、「仕返し」の一環だろう。
それが一番きいたらしいので、涼子の作戦がちというか、棚からぼた餅というか、良い方向に転んだことを、心から感謝した。
特に、実咲を訪ねてきた夜のことは、かなり不満があったらしく、涼子に対しての恨み辛みがこもっていた。
雅貴は、あの日、ようやく涼子から実咲の家の住所を聞いたらしい。そして、早めに仕事を切り上げていくと、仕事はとっくに終わっているはずの実咲がいない。すると、凉子はわざわざ電話までかけてきて「今日も合コン」だと電話口でいったのだという。ご丁寧に店の名前まで言うので迎えに行って見ると、実咲が男と二人だけで店から出てくるという場面に遭遇する羽目になった。
「絶対、あれは俺に見せつけるために狙ってやったことだ」
憎々しげに呟く雅貴に、実咲は吹き出しそうになるのを必死でこらえる。
「佐藤さんだけじゃない。実咲は実咲で楽しそうにあの男と話しているし。家まであの男がくっついていってたら、俺は間違いなくあの男に喧嘩を売ってたね」
「……そんな事を自信満々に言われても……」
実咲は笑うのをこらえながら、あの時を思い出す。
「そうね、でもまあ実際、楽しかったしね? 優しそうで、誠実そうで、感じいい人だったし?」
実咲はからかいながらいやみったらしく語尾を上げて雅貴の顔をうかがった。
「すみませんねぇ、感じ悪くて誠実さに欠けてて」
少しすねたように雅貴がぼやく。
「おかげでその後、声をかけられないまま後をつけるみたいになって、変に考える時間が出来たもんだから、実咲の部屋に行くのにも勇気がいったし、とにかく、電気が消える前に行こうって、悶々と窓見てた。佐藤さんのせいでさんざんだった」
わざとらしいぐらい嫌そうにため息をついた雅貴を見て実咲は笑う。
「なに、その、ストーカーっぷり」
「知らなかったの? 最近の俺の趣味、実咲のストーカーって」
雅貴が笑った。
実咲も一緒に笑う。
少しずつ、少しずつ、以前のような関係を取り戻していた。
でも、二人で一緒にいるのが当たり前になっているのが、友達だっただけの以前とは違うところ。
そして、少しだけ、雅貴が変わった。
以前は割と、人の気持ちを優先して気がきく、人の手を煩わせない人だったのに、最近は、なんというか……、だらけているなーと思う。気が抜けているというか、わがままになったというか、甘えているというか。
甘えてきて、こちらの様子を時々うかがって、どこまで大丈夫か探っている様な気がする。それを受け入れると、ほっとした様子で笑う雅貴がちょっと可愛いかも、とか思う。
以前はセックスの時以外あまり触れてこなかったのに、今は何でもないときにすぐに触れてきたり、べたべたとくっついてきては、ただ存在を確かめるようにしまりのない顔でほおずりをしてきたりする。たぶん反動もあるだろうから、そのうち落ち着くだろうけど、今のそういう雅貴の態度は素直にうれしいし安心するから、実咲は甘えてくる彼に身をまかせている。
いろいろと、女性に対して気が張っていたところが抜けたのかも知れない、などと、実咲は自分の都合の良いように解釈している。
女性関係は、雅貴ファンの同僚による噂によると、ずいぶんとストイックになっているらしい。実咲からすると、以前の方が人当たりは良かったが隙がなく、ある意味ずっとストイックだった気がするのだが。とはいえ、「アレは絶対に本命の彼女ができたんだよ!」とか言うのを聞くと、一体どっからそんな情報を仕入れてくるのかと思いつつ、少しくすぐったいような、うれしいような気持ちになるのだ。
以前は気持ち悪いほどに出来過ぎだった雅貴が、些細なことでいろいろと手がかかるようになり、何となく、思いも寄らない方向に変わったような気がするけど、その代わり、とても自然に一緒にいられるようになったように感じている。
そして、なんでもない話をしながらいつものように手をつないで歩く。そんななんでもないことが小さな幸せ気分を運んでくる。
これから先、どうなるかは分からない。でも、できれば、このまま一緒にいられればいいなと実咲は願う。
……そして、いつか……。
実咲は純白のドレスをそっと想像する。
そんな日も来るかも知れない。
そう思えるようになった今を、心から嬉しく思う。
ちらりと雅貴の顔を横目で見上げて、つないだ手の感触を確かめるように、握る手に少しだけ力を入れる。
実咲は、そんな小さな幸せを噛み締めながら微笑んだ。
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