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1 いや、よくわからんし。

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 気がつけば、私は数人の男女と共にその場にいた。

 そこは、なにもない空間だった。どこもかしこもが真っ白でカベも天井もない、かろうじて床はある。みんな私と一緒で何がなにやら分からないといった様子でうろうろと歩いているから。でも、私は気付いてしまった。真っ白で、本当に床が存在しているのかは不明だ。だって、誰にも影がない。

 変な状況で、変な場所で、私たちはへんてこな選択を迫られる事になる。

 真っ白な辺り一面に、いくつかの絵が現れた、と、同時に、私たちは声ならぬ声を聞いた。
 曰く、そこに載っている絵の中の一人に生まれ変われ、と。

 なんじゃそりゃ。

 意味が分からない。
 絵には、いかにも漫画の勇者や姫という風情の男女が描かれている。いや、漫画って言うより、絵本っぽい。
 その中の人物に生まれ変われる、ということらしい。いや、生まれ変わらせられる(強制)って事だ。

 ええぇ……、どれも嫌だなぁ……。

 だってどう考えても、どれも大変そうなんだもん。何より、絵がしょぼすぎて魅力が何一つないんだけど……。

 そう、それは大問題だった。

 絵が、しょぼいのだ。

 昔の絵本風の、地味かつ単純、色気も美しさもない、素朴な、子供に分かりやすい絵ばかりなのだ。いくら絶世の美女という設定であろうと、この絵の顔になるのかと思うと、全力で萎える勢いだ。

 と、私がドン引きしている内に、残りの男女が次々と選んでゆく。
 えええ?! なんでそんなに即決なの?! 悩めよ、迷えよ、困惑しろよ!! なんだよ、みんな適応能力高すぎだよ!

 ある女の子はお姫様を、ある男の子は騎士を。ある男はマニアックにドワーフを、そして次々にその場から消えてゆく。
 彼らの選んだ選択肢を見ながら、「あんなん選ぶのか」とか「あれは、まだましかなぁ……」とか思っていたら、彼らと共に選ばれた絵も消えてゆく。

 あああああ! 私がドン引きしている内に、「まし」な選択肢がほとんどなくなってきた……!

 残ったのは、男キャラ二人と女キャラ一人。
 しゃあない、この残った微妙な姫を選択するか……と思ったところで、脇にいたのそりとしたちょっといかつい感じの男が、ぶっとい腕をもちあげ、ごつくて毛深い指先でその唯一残った姫を選択しやがった。
 大事なところなのでもう一度言わせてもらう。


 この男、残っていた 最 後 の 女 キ ャ ラ を 選 択 し や が っ た!!


 えええ?! おま、TS転生希望?! うわ、ひっでぇ!!!

 思わずガン見する。ごっつい男はチラッとわたしを見た。
 あ、もしかして考え直してくれる?
 って思った直後、真っ白の空間には、私だけが取り残されていた。男キャラの絵二人と共に。

 ようジョージ、元気かい? 俺は、もう、真っ白だよ……。
 マイケル、君は笑顔だが俺の心の中は、土砂降りさ……。

 心の中で絵の二人に話しかけてみたが、返事はない。
 どっちがジョージでどっちがマイケルかは、この際どうでも良いことだった。

 私の無言のひとにらみは、なんの役にも立たなかった。迷いなくあの野郎は姫にTS転生しやがったようだ。ていうか遠慮しろよ。迷えよ。

 そして残った絵はどちらも男。もう、どうでもいいや、一番顔が好みそうなので……と、勇者を選んだ。

 お前に引き続き、私もTS転生か……。

 姫を選んだごつい男を思い出しながら、人生の無常について考えてみる。

 いつまでも、あると思うなアレとナニ。

 無常とはよく言った物だ。先人すばらしい。
 無情な無常っぷりにため息が出るわ。
 なんか、人生いろいろ詰んだ気がする。
 いや、転生するんだから、詰んだどころかスタートだけどねー……。あはははー。……はぁ。スタート前から、わたしの人生、詰んだ。

 しかも顔が好みといっても……「この絵では、きっとかっこよく描かれているんだろうな」っていうすごい微妙な「好み」だったけど、そこはもう追求しないことにした。

 望んでもいないのに、TS転生獲得おめでとう。

 心の中で、自分自身に合掌した。そして、白い空間は消え去った。


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