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3 これ、なんてフラグ…?

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 魔王を倒す旅に出た勇者は、いくつもの苦難に出会い、傷つき悩みながらそれを乗り越えてゆく。
 挫折しそうな出来事が何度もあった。死んでしまった方が楽だろうと思えるような敵と対峙した。けれど、彼にはこの旅をやめることが出来ない理由があった。
 その想いだけを心のよりどころに、彼は歯を食いしばりながら戦い続けた。
 そして数多の苦難を乗り越えて一回りも二回りも成長した勇者は、国を立って数年、ついに魔王と対峙した……。

 早……!!

 なんという絵本ペース…!! 絵本で言うなら、勇者の苦労は見開き2ページ程度……!!
 人の血と涙の苦労が文字で数行で表せられる程度に凝縮というか縮小されてしまったことに涙を抑えきれずにいると、あれ? と気付く。

 今まで上でふよふよ見てただけだったのに、なんか目の前に勇者がいる。
 あ、もしかしてそこで、ようやく私が登場?!
 って分かったとたん、私は、自分の体がとてもおかしな事に気付いた。

 手がない。足がない。
 ……目がない、口がない……血も涙もない。
 これは、あれか? わたしに流れる血は、お前達が死への黄泉路へ旅立つとき。お前の血潮がわたしの血となり……とか何とか口上を言ったらかっこよくね?
 とか現実逃避をしたくなったぐらいには困惑している。

 私は、魔王の持っている魔剣だった。

 ……人ですら、なかった……だ、と……?

 ジョージ、アレどころか、ナニもなかったよ……。

 ……………。はぁ?! 魔剣?! なにそれ?! あのとき選んだ男はなに?! なにって目の前の勇者だったよね!
 だから約束が違うと、あれほど……!!

 とりあえず、全力で腹を立ててみたけれど、叫ぼうにも叫ぶ口もなければ、訴える相手もいない。
 人を勝手に転生させたあのヤロー、どこだよ。ていうか、あのヤローって誰だ……!!
 もう、怒りを覚える先も不明とか、なんだよこの状況!! 地団駄踏みたいけど踏む足がねぇ!! ちくしょう!!

 腹が立ったので、とりあえず魔剣の私は勇者の味方をしてみた。だって一応、出発時から彼の頑張りを見てるし(見開き二ページ相当)、私が転生するつもりだった愛着もあるしね! それに魔王より勇者の方が好みだったしね! あの選んだときの絵とは違って!!(ここ重要)

 ……そう、魔王は好みじゃなかったんだよ。魔王ってば背後に薔薇が飛んでる割に顎が割れてたしね。耽美系か肉弾系かどっちかにして。両方とか、ヤダ。ちょっと存在そのものがうざい(最重要事項)

 結果。魔剣である私が使い手の魔王に逆らったために、魔王は勇者に負けてしまった。

 楽勝……!! さすが絵本ペースなストーリー運び!

 よし、世界は救われた! やったね、勇者! 優しい魔剣とかマジ可愛いし! 薔薇色の刀身とかみんなうっとりするレベルっていうか!
 とりあえず、自分を全力で褒める。何もすることないから、そのくらいはテンション上げていきたいよね!

 魔王を倒した勇者が、とても大切な宝物を手に取るようにして、魔剣わたしを手に取った。

 あ、勇者、もしかして私のこの美しさ、分かっちゃったりなんかする?!

 って思ってたら、魔剣の姿が消えてゆく。
 え? マジ、ちょっと待って。え、魔王死んだら私も死ぬの?
 そして透けた魔剣からだが、勇者の手を離れどこかに吸い込まれてゆく。
 
 少し離れたところで「姫!!」と叫ぶ声がする。

 は? 姫? 誰が?

  勇者が必死の形相で魔剣わたしに駆け寄ろうとしている。

 「姫、わたしは必ずあなたを……!!」

 私を、なに……?
 そこで、私の意識は途絶えた。




「……誰が姫……」

 って思ったら、自分のツッコミの声で目が覚めた。

 夢かよ!! と、朝っぱらから全力でツッコミながら、私は学校へ行く準備をする。今日は高校の入学式だ。夢なんかにかまってられない。面白かったけど。姫呼びされたけど、魔剣だったし……。

 ……魔剣だったし……。

 だから約束が違うと……。

 ふつふつと怒りがこみ上げてきたけど気持ちを入れ替え、真新しい制服を着て、高校生としての一日目だ。
 よくわからない校内を、きょろきょろしながら進む。その時、後ろから声がした。

 「姫……!」

 聞き覚えのある声だった。振り返ると、会ったことないけど見たことのある青年が高校の制服を着て、わたしに駆け寄ってきていた。

「……え?」

 だって、あれは、夢で……。混乱して立ち尽くしている内に、その人に抱きしめられた。

 「姫……やっと、会えた」

 夢の中の、勇者だった。

 だから、誰が姫だと……。

 高校の制服がなんかコスプレっぽい……って頭の片隅で思いながら、どっちからつっこんだら良いか分からないまま、私の高校生活が幕開けようとしていた。


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