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第一話・・・日々の僕

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 「お~い上村・・・悪いけど川島プレスから○○受け取って、荏原溶接へ渡して午後4時までに仕上げてくれるように伝えといて。何か有ったら、車の無線か、あっちから電話入れてもらって」

 「えーっ?!今11時だから・・・山井さん、仕上げ16時ってギリギリじゃないですか!頑張って走りますけど、何かあったらお願いしますよ・・・じゃあ行ってきます」


 僕は上村太一。今日も元請会社の生産ラインに納入する、自動車部品の元になる部材を仕上げる為に、△△市を東西南北の端から端まで走り回る。

 (山井さんから言われているモノの指示は、今のところ16時まではハッキリしているけど、その後はどうなるのかなぁ?・・・納品の予定が組まれなかったなら、晩御飯は家で食べれるよなぁ、食べたいなぁ・・・山井さん、しばらく発注書作りで動けないから、多分今日も無理だ(涙))

 僕が勤務している浜海産業での上司である山井さんは、僕の4歳年上で役職は主任。自動車メーカーのT社系・H社系の元請4社を担当者として抱えている。

 僕が入社したのは先月・・・それよりも以前は、山井さんが1人で発注して、下請けの間を走り回って、納入するモノを仕上げてから、そのまま元請へ納品する1日が続く毎日で、1ヵ月のうち半分以上が午前様の帰宅だったそうだ。

 「それでもなぁ・・・お前が入社したから俺の午前様がなくなったんだ。親父やおふくろに文句言われなくなったから、お前には感謝してるんだぜ!(爆笑)」

 「ハハハ・・・(乾いた笑い)」(なんて会社に入っちゃったんだろう(涙))

 ・・・まぁ入社したからには、ある程度の期間、仕事をやり切らなきゃ此処で働いている事自体、言ってしまえば、働いている時間と経験が全て無駄になるから、現在のところ下手に辞められない。

 平日のサイクルは本当に地獄みたい・・・それでも土日は元請のラインが動かないから、日曜日はもちろん、土曜日は隔週で休み・・・だから、何とか体が動いてくれる。

 平日がコンナだから、休みになる土曜日と日曜日の前の夜は・・・

 「お~い上村太一君、重大な業務だ」

 「ゲッ?!もしかしてM製作所へ納入ですか?それとも隣県のT製作とか・・・」

 「いやいや甘いなぁ・・・もっと大事なことだ。まずは飯を食える新しいところへ行くぞ!案内しろ!」

 「じゃあ・・・その後は何ですか?」

 「決まってるだろ!飲みに行くぞ!お前のホームグランドなら何処でも良いからな!よろしく(笑)」

 「りょ~かいで~す・・・でも、なんで?」

 「それは決まってる!俺とお前の家は同じ方向だし、他の会社の連中と比べるとなぁ、会社があるこの辺から自宅が遠過ぎるだろ?」

 「そうですよねぇ・・・」

 「今まではなぁ、メシを食うにしても、飲みに行くにしても、みんなに付き合って、会社から近いこの辺ばっかりだったんだぜ。他の土地の匂いを持ち込めてるのは、お・ま・え、だけなんだよ!お前と飲むときはなぁ、無理に自分のテンション上げなくて済むしな」

 ・・・こんな感じで、ほぼ毎週飲みに付き合わされている。

 今回は『ジャンダラ』・・・

 「だけど何時も感じるけど・・・お前さぁ、良くもまぁ、こんなにキレイな娘がいて、雰囲気が落ち着く店ばっかり知ってるよなぁ」

 「ここの娘たちってキレイは勿論だけど、話しててすごく楽でしょ?僕とっては、女性の事がチョット苦手気味だから”話しやすい事”が1番大事なんですよ」

 「えっ?!お前何言ってんだよ!そんな感じ全然しないぜ!」

 「この店に初めてきて、ユキちゃんと話した時なんか・・・キレイ過ぎるから吃音って(どもって)ましたもん」

 「太一っちゃん、よく言うわよ!!!あの日の事は、目の前で起こった大事件みたいに覚えてるわよ!いきなり入ってきてね、カウンターにドッカリと座ってさぁ『僕、この店初めてですけど良いですか?』って・・・どこが吃音って(どもって)るのよ?!私、よ~く覚えてるんだから!(笑)」

 「わあっ?!びっくりしたぁ・・・ユキちゃん、乱入しないでよ。僕ってさぁ、そんなに図太いキャラのイメージじゃないでしょ?」

 「おぅ、やっぱり嘘はいけないなぁ?太一君?そうだよね?ユキちゃん?」

 「まぁ・・・太一っちゃんは色んな人を連れてきてくれるから、今回は庇ってあげるわよ。山井さん、太一っちゃんて、どーも変に繊細過ぎて、緊張を突き抜けるとねぇ、鈍感な人と同じ態度になっちゃうみたいなのね(笑)わたしねぇ、最近この事に気が付いちゃったのよねぇ」

 (ヤバい!これ以上ユキちゃんに居座られると・・・僕・・・どうなっちゃうのかなぁ?・・・)

 「ユキちゃん、あっちで高橋さんの相手お願いね。太一っちゃん、良かったわねぇ・・・高橋さんが助けてくれて。ユキちゃんのスイッチが入る寸前だったわね(笑)」

 「は~い。山井さん、太一っちゃん、また来るから待っててね・・・はーと」

 「ユキちゃん、言葉でいうハートはいらないから(笑)」

 「ハイハイ・・・山井さん、太一っちゃんを縛り付けといてね(笑)」

 「おぅ!解った!俺はキューピットになるぜ(爆笑)」

 ユキちゃんとママさんがつられて爆笑・・・ユキちゃんは席を離れていく。

 「太一っちゃん、頑張ったわね(笑)太一っちゃんは、一人で来る時のおしゃべりは静かだものね。」

 「うん、そうだね。大体好きに歌わせてもらってるもんね」

 「だけど、太一っちゃんの歌は有線と同じだから、歌ってる時の存在感がないのよねぇ(笑)太一っちゃん、勿体無いわよ。どんな話題にだって、結構深いところまでついていけるし、歌もうまいし・・・私には、割と心開いてくれてる感じがするけど、ユキちゃん達とは、話を合わせるだけだもの」

 「えっ?!ママさん、太一ってさぁ、人付き合いをソツ無く熟す(こなす)ヤツだと思ってたけど、そんな感じなの?」

 「そうよぉ・・・太一っちゃんは、根本的に性格がブキッチョ(不器用)よね?」

 「そうだよね、僕って・・・ママさん、そこまで解ってくれてると嬉しいよ」

 「ママさん、他の娘も呼んでみてよ。太一のヤツがどんな反応するのか?改めて観察したいからさぁ(笑)実はさ、俺がこれだけ平気で酒を飲めるようになったのも、太一のお陰なんだよね。コイツの化けの皮が剥がれるのを見てみたいんだよなぁ(笑)」

 「山井さんは体育会系大学出身でしょ?だから、その頃から飲めていたんでしょ?」

 「う~ん、俺は勢いだけで飲んじゃうからさぁ。太一が入社する前なんか、俺の昇進祝いの飲み会の時の事だけど、俺って飲み過ぎちゃって、血を吐いて酔っぱらってる同僚に病院へ運ばれたからなぁ(笑)」

 「「山井さん?!笑って話すことじゃないでしょ?!」」

 「それを踏まえてなぁ・・・俺さぁ、太一と飲んだときは、どれだけ飲んでも次の日残んないんだよ(笑)」

 「そりゃそうよ。太一っちゃん、入れるボトルが贅沢だもん。他の店なら2万円くらいのボトル入れてるもん。次の日に残らないのは当り前よ!」

 「じゃあ、なんでこんなに安いの?」

 「だって太一っちゃん、良い酒屋さん知ってるもん。そこを紹介してくれたお陰で、仕入れがチョットだけでも安くなったからキックバックよ!(笑)あぁ、他の娘呼ぶの無理よ・・・店の中見て頂戴。太一っちゃん来ると、暇な時でも、殺人的に忙しくなっちゃうのよ。残念ね山井さん、ゴメンね。チョット、太一っちゃん!あからさまにホッとした顔しないの!!!(笑)」

 「よ~し太一君!ラストまでこの店に決定だな!」

 「ゲッ!早く帰って寝たかったのに・・・」

 「ありがとね。山井さん、太一っちゃん」

 ・・・こうして僕の一週間の締めくくりが、お酒の席で終わってしまうのである。






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