3 / 21
桜ノ国編
3.桜ノ告白
しおりを挟む
あの日以来、私の中で大和の存在が以前に増して大きくなった。
兄としてではなくて、一人の異性としてみるようになっていたのだ。
それが恋だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
紅華妃にどれだけ嫌味を言われても、叱責されても、罵倒されても、大和がいたから私は今まで耐えてこれた。
あの日、大和が〝ずっと一緒だ〟と言ってくれたから、その言葉だけを信じて生きてきた。
---だけど、現実は何て残酷なのだろうか。
いつか父上が大和のことを認めてくれるかも知れないだなんて、淡い期待を抱いていた自分が愚かだった。
(滑稽だわ)
一筋の涙が頬を伝う。
(結局、願いなんてただの迷信に過ぎなかったじゃない…大和の嘘つき…)
私は、嗚咽を漏らしながら顔を手で覆った。
「やっぱり、ここにいましたか…」
背後から優しい声がする。
振り返らなくても私は、すぐに誰だかわかった。
「……あなたは、私が辛いときはいつも駆け付てくれる」
「当たり前ではありませんか。何年一緒にいると思ってるんですか?」
ゆっくりと振り返ると、大和が立っていた。
成績優秀の大和は幼き頃からの夢を叶えて、現在は宮廷医師の元で、医師見習いとして働いてる。
「大和…うぅ…」
「まったく泣き虫なのは、相変わらずですね」
大和はとめどなく流れる私の涙を指で拭った。
昔は私と変わらない背丈だったのに、今は私が大和を見上げてる。
「……大和…私…薔薇ノ国の皇子と…」
「すべて存じ上げております…ですからそれ以上はもう、何も言わないでください……」
苦渋な表情をする大和の手は、怒りで震えていた。
「私…大和と離れたくない…」
「それは僕も同じ気持ちです……桜姫、一緒にここから逃げましょう!!」
私は、自分の耳を疑った。
(逃げる?何を言ってるの?)
「正気ですか?もし失敗したらあなたは、どうなるかわからないのよ」
「僕は本気です。命を賭ける覚悟はできてます」
大和は、私の肩を強く掴んだ。
その眼差しは真剣そのもので、決して冗談などではないというのが見て取れた。
--長い沈黙が流れる。
私は、大和のことが好きだ。
それは紛れもない事実である。
今まで大和の優しさに、どれだけ救われてきたのか分からない。
大和がいたから私は今、こうして立ってられる 。
大和のいない未来なんて、果たして生きてたって意味があるのだろうか?
(私は、大和と一緒に逃げたい…!!)
そう強く思った。
だがもし見つかったら、ただでは済まないであろう。
最悪の場合、大和は誘拐罪で死刑も有り得る。
自分のせいで大和の身に、危険が及ぶかも知れないと思うと怖かった。
だけど悪いことばかり考えても仕方ないのだ。
良いことだけを考えよう。
明るい未来だけを見据えて生きていくんだ。
(大和と二人で……!!)
私は、一縷の望みに掛けることにした。
「私、大和に着いていく」
「そう言ってもらえて僕は今、とても幸せです」
「だって私は、あなたのことが好きだもの。どこまでも一緒よ」
話の流れで思わず告白してしまった。
恥ずかしさで顔が赤くなる。
「……今まで一介の見習い医師に過ぎないため、ずっと黙っておりましたが、もう遠慮はしません。僕も桜姫のことをずっと前から好…いや…愛しております!!」
「大和……」
二人の想いが一つに重なった瞬間だった。
視線と視線が絡まり合う。
どちらともなく唇を重ねる。
初めての接吻は、桜の味がした。
「では決行は今夜、零時の鐘がなる時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。このことは決して誰にも知られないように、気をつけてください」
「分かったわ」
今夜、零時……
私は生まれ育った宮殿を抜け出す。
腹を括ったら、不思議と不安はなくなった。
兄としてではなくて、一人の異性としてみるようになっていたのだ。
それが恋だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
紅華妃にどれだけ嫌味を言われても、叱責されても、罵倒されても、大和がいたから私は今まで耐えてこれた。
あの日、大和が〝ずっと一緒だ〟と言ってくれたから、その言葉だけを信じて生きてきた。
---だけど、現実は何て残酷なのだろうか。
いつか父上が大和のことを認めてくれるかも知れないだなんて、淡い期待を抱いていた自分が愚かだった。
(滑稽だわ)
一筋の涙が頬を伝う。
(結局、願いなんてただの迷信に過ぎなかったじゃない…大和の嘘つき…)
私は、嗚咽を漏らしながら顔を手で覆った。
「やっぱり、ここにいましたか…」
背後から優しい声がする。
振り返らなくても私は、すぐに誰だかわかった。
「……あなたは、私が辛いときはいつも駆け付てくれる」
「当たり前ではありませんか。何年一緒にいると思ってるんですか?」
ゆっくりと振り返ると、大和が立っていた。
成績優秀の大和は幼き頃からの夢を叶えて、現在は宮廷医師の元で、医師見習いとして働いてる。
「大和…うぅ…」
「まったく泣き虫なのは、相変わらずですね」
大和はとめどなく流れる私の涙を指で拭った。
昔は私と変わらない背丈だったのに、今は私が大和を見上げてる。
「……大和…私…薔薇ノ国の皇子と…」
「すべて存じ上げております…ですからそれ以上はもう、何も言わないでください……」
苦渋な表情をする大和の手は、怒りで震えていた。
「私…大和と離れたくない…」
「それは僕も同じ気持ちです……桜姫、一緒にここから逃げましょう!!」
私は、自分の耳を疑った。
(逃げる?何を言ってるの?)
「正気ですか?もし失敗したらあなたは、どうなるかわからないのよ」
「僕は本気です。命を賭ける覚悟はできてます」
大和は、私の肩を強く掴んだ。
その眼差しは真剣そのもので、決して冗談などではないというのが見て取れた。
--長い沈黙が流れる。
私は、大和のことが好きだ。
それは紛れもない事実である。
今まで大和の優しさに、どれだけ救われてきたのか分からない。
大和がいたから私は今、こうして立ってられる 。
大和のいない未来なんて、果たして生きてたって意味があるのだろうか?
(私は、大和と一緒に逃げたい…!!)
そう強く思った。
だがもし見つかったら、ただでは済まないであろう。
最悪の場合、大和は誘拐罪で死刑も有り得る。
自分のせいで大和の身に、危険が及ぶかも知れないと思うと怖かった。
だけど悪いことばかり考えても仕方ないのだ。
良いことだけを考えよう。
明るい未来だけを見据えて生きていくんだ。
(大和と二人で……!!)
私は、一縷の望みに掛けることにした。
「私、大和に着いていく」
「そう言ってもらえて僕は今、とても幸せです」
「だって私は、あなたのことが好きだもの。どこまでも一緒よ」
話の流れで思わず告白してしまった。
恥ずかしさで顔が赤くなる。
「……今まで一介の見習い医師に過ぎないため、ずっと黙っておりましたが、もう遠慮はしません。僕も桜姫のことをずっと前から好…いや…愛しております!!」
「大和……」
二人の想いが一つに重なった瞬間だった。
視線と視線が絡まり合う。
どちらともなく唇を重ねる。
初めての接吻は、桜の味がした。
「では決行は今夜、零時の鐘がなる時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。このことは決して誰にも知られないように、気をつけてください」
「分かったわ」
今夜、零時……
私は生まれ育った宮殿を抜け出す。
腹を括ったら、不思議と不安はなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
孤独な公女~私は死んだことにしてください
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【私のことは、もう忘れて下さい】
メイドから生まれた公女、サフィニア・エストマン。
冷遇され続けた彼女に、突然婚約の命が下る。
相手は伯爵家の三男――それは、家から追い出すための婚約だった。
それでも彼に恋をした。
侍女であり幼馴染のヘスティアを連れて交流を重ねるうち、サフィニアは気づいてしまう。
婚約者の瞳が向いていたのは、自分では無かった。
自分さえ、いなくなれば2人は結ばれる。
だから彼女は、消えることを選んだ。
偽装死を遂げ、名も身分も捨てて旅に出た。
そしてサフィニアの新しい人生が幕を開ける――
※他サイトでも投稿中
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる