桜姫 ~50年後の約束~

雨宮よひら

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桜ノ国編

3.桜ノ告白

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あの日以来、私の中で大和の存在が以前に増して大きくなった。
兄としてではなくて、一人の異性としてみるようになっていたのだ。
それが恋だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。


紅華妃にどれだけ嫌味を言われても、叱責されても、罵倒されても、大和がいたから私は今まで耐えてこれた。

あの日、大和が〝ずっと一緒だ〟と言ってくれたから、その言葉だけを信じて生きてきた。




---だけど、現実は何て残酷なのだろうか。


いつか父上が大和のことを認めてくれるかも知れないだなんて、淡い期待を抱いていた自分が愚かだった。

(滑稽だわ)

一筋の涙が頬を伝う。

(結局、願いなんてただの迷信に過ぎなかったじゃない…大和の嘘つき…)

私は、嗚咽を漏らしながら顔を手で覆った。

「やっぱり、ここにいましたか…」

背後から優しい声がする。
振り返らなくても私は、すぐに誰だかわかった。


「……あなたは、私が辛いときはいつも駆け付てくれる」

「当たり前ではありませんか。何年一緒にいると思ってるんですか?」


ゆっくりと振り返ると、大和が立っていた。
成績優秀の大和は幼き頃からの夢を叶えて、現在は宮廷医師の元で、医師見習いとして働いてる。

「大和…うぅ…」

「まったく泣き虫なのは、相変わらずですね」

大和はとめどなく流れる私の涙を指で拭った。
昔は私と変わらない背丈だったのに、今は私が大和を見上げてる。

「……大和…私…薔薇ノ国の皇子と…」

「すべて存じ上げております…ですからそれ以上はもう、何も言わないでください……」

苦渋な表情をする大和の手は、怒りで震えていた。


「私…大和と離れたくない…」


「それは僕も同じ気持ちです……桜姫、一緒にここから逃げましょう!!」


私は、自分の耳を疑った。
(逃げる?何を言ってるの?)


「正気ですか?もし失敗したらあなたは、どうなるかわからないのよ」

「僕は本気です。命を賭ける覚悟はできてます」

大和は、私の肩を強く掴んだ。
その眼差しは真剣そのもので、決して冗談などではないというのが見て取れた。


--長い沈黙が流れる。

私は、大和のことが好きだ。
それは紛れもない事実である。

今まで大和の優しさに、どれだけ救われてきたのか分からない。
大和がいたから私は今、こうして立ってられる 。


大和のいない未来なんて、果たして生きてたって意味があるのだろうか?

(私は、大和と一緒に逃げたい…!!)

そう強く思った。

だがもし見つかったら、ただでは済まないであろう。
最悪の場合、大和は誘拐罪で死刑も有り得る。
自分のせいで大和の身に、危険が及ぶかも知れないと思うと怖かった。

だけど悪いことばかり考えても仕方ないのだ。
良いことだけを考えよう。
明るい未来だけを見据えて生きていくんだ。
(大和と二人で……!!)
私は、一縷の望みに掛けることにした。

「私、大和に着いていく」

「そう言ってもらえて僕は今、とても幸せです」

「だって私は、あなたのことが好きだもの。どこまでも一緒よ」


話の流れで思わず告白してしまった。
恥ずかしさで顔が赤くなる。


「……今まで一介の見習い医師に過ぎないため、ずっと黙っておりましたが、もう遠慮はしません。僕も桜姫のことをずっと前から好…いや…愛しております!!」


「大和……」

二人の想いが一つに重なった瞬間だった。
視線と視線が絡まり合う。
どちらともなく唇を重ねる。
初めての接吻は、桜の味がした。


「では決行は今夜、零時の鐘がなる時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。このことは決して誰にも知られないように、気をつけてください」

「分かったわ」


今夜、零時……
私は生まれ育った宮殿を抜け出す。
腹を括ったら、不思議と不安はなくなった。
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