4 / 21
桜ノ国編
4.桜ノ逃走
しおりを挟む
大和と別れて自分の自室に戻った私は、そのまま寝床に倒れ込む。
(今日は色々なことがありすぎて疲れたわ…少しだけ休もう…)
私は、夜に備えて少しだけ仮眠することにした。
--目を覚ますと、既に辺りは暗くなっていた。
(少しだけ眠るつもりが、長く寝てしまったみたいね)
「失礼します。桜姫様、お食事の用意が出来ました」
侍女が御前を持ってきたが、今の私は喉に通らなかった。
御膳には色とりどりの豪華な料理が並べられている。
「ごめんなさい。お腹がすいてないからこれは下げてください」
「畏まりました」
そして刻一刻と時間が過ぎ、約束の時間を知らせる鐘の音が鳴り響く。
ゴーン ゴーン ゴーン
私は平包に最小限に纏めた荷物と、被衣と呼ばれる布を頭からすっぽりと被る。
顔を隠すには最適だった。
音を立てないように襖を開けて、誰もいないのを確認する。
私は細心の注意を払いながら、小走りで目的地に向かう。
現在、桜ノ国は、梅ノ国に占領された花笠村の奪還を目指して、梅ノ国と激闘を繰り広げている。
そのため多くの兵士たちは戦場に駆り出されており、宮殿内の警備は手薄だった。
「大和…!」
桜庭園に着くと大和は既に到着していて、約束の桜の木の前で私を待っていた。
「桜姫、必ず来てくれると信じてました」
桜の花の隙間から射し込む月明かりに照らされた大和の顔は、いつもより妖艶で美しくみえた。
「綺麗…」
私は思わず呟く。
「はい。夜に見る桜も昼に見る桜とはまた違った美しさで、とても素敵ですよね」
「そ、そうね」
「さあ、誰かに気付かれぬうちに早く行きましょう」
大和は手を差し出す。
私は迷わずその手を掴んだ。
***
桜ノ国の宮殿は頑丈な塀に囲まれており、宮殿の外に出るには門をくぐらなきゃいけなかった。
「どうしょう…あれじゃ外に出られないわ」
だか門には見張りの番人が交代で、昼夜問わず監視していた。
「あまり姑息な手は使いたくありませんでしたが、やむを得ませんね」
そう言うと大和は、薬箱から何かを取り出して、それを竹筒に入れる。
「大和…?」
「桜姫は、ここで待っていてください」
「ち、ちょっと…」
(行ってしまった…大和は何をするつもりなのかしら)
私はただ、見守ることしかできなかった。
大和は番人に話し掛けると、先程の竹筒を渡す。
番人はそれを受け取ると、口に含んだ。
暫くすると番人は、ふらりと蹌踉めきだし、そのまま地面に倒れた。
私は顔が真っ青になる。
急いで二人の元に駆け寄った。
番人は、仰向けに倒れたままピクリとも動かない。
「し、死んでる…」
私はショックで地面にへたり込む。
(ま、まさか大和が……!?)
「ちゃんと生きていますので、安心してください。端くれとはいえ僕は医師ですよ。無闇に人を殺めたりしません」
クスリと笑う大和。
「ほ、本当に?」
「はい。ただ眠り効果があると言われている薬草を、乾燥してすり潰して粉末状にしたものを、先程の水に混ぜて飲ましただけです」
「な、なんだ…よかった…」
胸をほっと撫で下ろす。
(そうよね…心優しい大和がそんなことする訳ないというのは、ずっと一緒にいた私が分かっているはずじゃない)
少しでも疑った自分が恥ずかしかった。
「実はこの番人は僕の知り合いでして…眠気を覚ます新薬を作ったから、ぜひ試して欲しいと頼んだら、疑いもせず快く飲んでくれました」
「何だか悪いことをしてしまったわね…」
「はい…ですが彼には悪いですがもう少しの間、眠っていて貰いましょう」
「本当に申し訳ないわ」
私は眠っている番人に、手を合わせて謝った。
大和は、私の手を取り立ち上がらせる。
門の前には、通称・桜雲橋と呼ばれる長い橋が架かっていた。
「この橋を渡ると王都です。城下町は何があるかわからないので、絶対に僕から離れないでください」
私は大和の手を強く握り閉める。
大和は、大丈夫だよと応えるかのように、私の手を更に強く握り返した。
(今日は色々なことがありすぎて疲れたわ…少しだけ休もう…)
私は、夜に備えて少しだけ仮眠することにした。
--目を覚ますと、既に辺りは暗くなっていた。
(少しだけ眠るつもりが、長く寝てしまったみたいね)
「失礼します。桜姫様、お食事の用意が出来ました」
侍女が御前を持ってきたが、今の私は喉に通らなかった。
御膳には色とりどりの豪華な料理が並べられている。
「ごめんなさい。お腹がすいてないからこれは下げてください」
「畏まりました」
そして刻一刻と時間が過ぎ、約束の時間を知らせる鐘の音が鳴り響く。
ゴーン ゴーン ゴーン
私は平包に最小限に纏めた荷物と、被衣と呼ばれる布を頭からすっぽりと被る。
顔を隠すには最適だった。
音を立てないように襖を開けて、誰もいないのを確認する。
私は細心の注意を払いながら、小走りで目的地に向かう。
現在、桜ノ国は、梅ノ国に占領された花笠村の奪還を目指して、梅ノ国と激闘を繰り広げている。
そのため多くの兵士たちは戦場に駆り出されており、宮殿内の警備は手薄だった。
「大和…!」
桜庭園に着くと大和は既に到着していて、約束の桜の木の前で私を待っていた。
「桜姫、必ず来てくれると信じてました」
桜の花の隙間から射し込む月明かりに照らされた大和の顔は、いつもより妖艶で美しくみえた。
「綺麗…」
私は思わず呟く。
「はい。夜に見る桜も昼に見る桜とはまた違った美しさで、とても素敵ですよね」
「そ、そうね」
「さあ、誰かに気付かれぬうちに早く行きましょう」
大和は手を差し出す。
私は迷わずその手を掴んだ。
***
桜ノ国の宮殿は頑丈な塀に囲まれており、宮殿の外に出るには門をくぐらなきゃいけなかった。
「どうしょう…あれじゃ外に出られないわ」
だか門には見張りの番人が交代で、昼夜問わず監視していた。
「あまり姑息な手は使いたくありませんでしたが、やむを得ませんね」
そう言うと大和は、薬箱から何かを取り出して、それを竹筒に入れる。
「大和…?」
「桜姫は、ここで待っていてください」
「ち、ちょっと…」
(行ってしまった…大和は何をするつもりなのかしら)
私はただ、見守ることしかできなかった。
大和は番人に話し掛けると、先程の竹筒を渡す。
番人はそれを受け取ると、口に含んだ。
暫くすると番人は、ふらりと蹌踉めきだし、そのまま地面に倒れた。
私は顔が真っ青になる。
急いで二人の元に駆け寄った。
番人は、仰向けに倒れたままピクリとも動かない。
「し、死んでる…」
私はショックで地面にへたり込む。
(ま、まさか大和が……!?)
「ちゃんと生きていますので、安心してください。端くれとはいえ僕は医師ですよ。無闇に人を殺めたりしません」
クスリと笑う大和。
「ほ、本当に?」
「はい。ただ眠り効果があると言われている薬草を、乾燥してすり潰して粉末状にしたものを、先程の水に混ぜて飲ましただけです」
「な、なんだ…よかった…」
胸をほっと撫で下ろす。
(そうよね…心優しい大和がそんなことする訳ないというのは、ずっと一緒にいた私が分かっているはずじゃない)
少しでも疑った自分が恥ずかしかった。
「実はこの番人は僕の知り合いでして…眠気を覚ます新薬を作ったから、ぜひ試して欲しいと頼んだら、疑いもせず快く飲んでくれました」
「何だか悪いことをしてしまったわね…」
「はい…ですが彼には悪いですがもう少しの間、眠っていて貰いましょう」
「本当に申し訳ないわ」
私は眠っている番人に、手を合わせて謝った。
大和は、私の手を取り立ち上がらせる。
門の前には、通称・桜雲橋と呼ばれる長い橋が架かっていた。
「この橋を渡ると王都です。城下町は何があるかわからないので、絶対に僕から離れないでください」
私は大和の手を強く握り閉める。
大和は、大丈夫だよと応えるかのように、私の手を更に強く握り返した。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
孤独な公女~私は死んだことにしてください
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【私のことは、もう忘れて下さい】
メイドから生まれた公女、サフィニア・エストマン。
冷遇され続けた彼女に、突然婚約の命が下る。
相手は伯爵家の三男――それは、家から追い出すための婚約だった。
それでも彼に恋をした。
侍女であり幼馴染のヘスティアを連れて交流を重ねるうち、サフィニアは気づいてしまう。
婚約者の瞳が向いていたのは、自分では無かった。
自分さえ、いなくなれば2人は結ばれる。
だから彼女は、消えることを選んだ。
偽装死を遂げ、名も身分も捨てて旅に出た。
そしてサフィニアの新しい人生が幕を開ける――
※他サイトでも投稿中
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる