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薔薇ノ国編
15.薔薇ノ殺意
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あの晩餐会以降、私はメリナ様やチェリッシュ様、更にはその取り巻きの令嬢たちから、陰湿な嫌がらせを受けることになる。
王宮内の人目につかない場所に呼び出されて、罵声を延々と浴びせられたり、すれ違った際に足をかけられて転倒したこともあった。
だけど私は、決して涙を流したりなどしなかった。
それはマーニャの存在があったからだ。
メリナ様の私に対する振る舞い見た他の女中たちですら、私を蔑み、陰口を叩いていたが、マーニャだけは変わらず接してくれた。
どんなに傷つくことを言われても、マーニャはそれを否定して、私の為に涙を流し、時には怒り、慰めてくれる。
マーニャがいるから私は、挫けずにいられた。
けれど---
そんなある日、事件は起こった。
この日いつものように私に出された食膳の毒味をしていたマーニャが突然、悲鳴を上げた。
「いた…っ…」
「マーニャどうしたの……って何よその血は!?」
口元を押さえるマーニャの白い手の隙間から、赤い鮮血がポタポタと滴る。
(もしかして…ど…毒!!?どうしょう…マーニャが…マーニャが…)
私は、混乱し慌てふためく。
「桜姫様、落ち着いてくださいませ。私は大丈夫でございます。ただお食事の中に硝子の破片が混入していたらしく、取り出す際に唇を切ってしまいました」
そう言うとマーニャは、キラリと輝く硝子の破片を私に差し出した。
「いったい誰がこんな酷いことを……」
私はすぐにある人物が頭に思い浮かんだ。
(ってメリナ様しかいないわよね……私だけならまだしもマーニャにまで……もう我慢の限界よ。絶対に許せないわ!)
私は怒りに任せて勢いよく部屋を飛び出すと、メリナ様を探して広い王宮の中を捜索する。
***
「メリナ様!!」
「あら、あなたの方から出向くなんて、珍しいこともあるのね」
色とりどりの薔薇の花が咲き誇る庭園で、白い大理石の柱と屋根で造られた、小さな丸い建物の中で、メリナ様は優雅にお茶をしていた。
私は脇目も振らずにメリナ様に詰め寄る。
「マーニャに謝ってください」
「ちょっと何を仰ってるのかわからないわ。どうしてこのわたくしが、使用人如きに謝らなきゃいけなくって?冗談はおよしになって」
メリナ様は、馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。
だが今回ばかりは、食い下がる訳にはいかなかった。
「メリナ様のせいでマーニャは怪我をしたのですよ。危うく飲み込んでしまうところでした」
「いったい、なんの事かしら」
「とぼけないでください。メリナ様が私の御膳に硝子の破片を忍ばせたのは分かっています。そのせいで毒味をしたマーニャが私の身代わりになって……」
マーニャの痛々しい姿を思い出しただけで、怒りが沸々と溢れ出し、拳を握る手に力が入る。
「なによ。突然やってきたかと思えば勝手に人を犯人呼ばわりして、無礼にも程があるわよ!それにわたくしがやったという証拠はあるのかしら」
「そ…それは…」
痛いところを突かれて、言葉を詰まらせる。
(確かに証拠などないわ。でも……)
「あら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら。まさか証拠もないのに、勝手な思い込みだけでわたくしに罪を着せるおつもり?どうなのよ。さぁ、答えなさい!!」
待ってたとばかりにメリナ様は扇子を突き出し、勝ち誇った顔で私を見る。
「……証拠はありません。ですが今までのメリナ様の私に対する数々の非道な行いを見たら、疑われても仕方ないと思いますわ」
「ふんっ!やっぱり証拠などないじゃない。話にならないわね。今すぐここから出て行きなさい。茶が不味くなるわ」
だけど私は、まだ引き下がらない。
「メリナ様、お願いですからもうこのような事はお辞めください。幸いにも今回は怪我だけで済みましたが、次は何をされるのかと思うと恐ろしくて夜も眠れませんわ」
「もうっ!しつこいわね!そんなに不安なら、あなたも護衛をつければいいじゃない」
「護衛を?」
メリナ様の思いがけない返答に、私はキョトンとした表情をする。
「そうだわ。丁度、騎士団長からそれはそれはとても物珍しい新人の騎士が採用されたと聞きましたわ。あなた専属の護衛役に回すように、わたくしから頼んであげますわ」
感謝なさい!と含み笑いをするメリナ様に、違和感を覚える。
(いったいどういうつもり?あのメリナ様が私の為に、善意を行うとは到底思えないわ。何を企んでるのかしら)
私は、妙な胸騒ぎを覚えた。
王宮内の人目につかない場所に呼び出されて、罵声を延々と浴びせられたり、すれ違った際に足をかけられて転倒したこともあった。
だけど私は、決して涙を流したりなどしなかった。
それはマーニャの存在があったからだ。
メリナ様の私に対する振る舞い見た他の女中たちですら、私を蔑み、陰口を叩いていたが、マーニャだけは変わらず接してくれた。
どんなに傷つくことを言われても、マーニャはそれを否定して、私の為に涙を流し、時には怒り、慰めてくれる。
マーニャがいるから私は、挫けずにいられた。
けれど---
そんなある日、事件は起こった。
この日いつものように私に出された食膳の毒味をしていたマーニャが突然、悲鳴を上げた。
「いた…っ…」
「マーニャどうしたの……って何よその血は!?」
口元を押さえるマーニャの白い手の隙間から、赤い鮮血がポタポタと滴る。
(もしかして…ど…毒!!?どうしょう…マーニャが…マーニャが…)
私は、混乱し慌てふためく。
「桜姫様、落ち着いてくださいませ。私は大丈夫でございます。ただお食事の中に硝子の破片が混入していたらしく、取り出す際に唇を切ってしまいました」
そう言うとマーニャは、キラリと輝く硝子の破片を私に差し出した。
「いったい誰がこんな酷いことを……」
私はすぐにある人物が頭に思い浮かんだ。
(ってメリナ様しかいないわよね……私だけならまだしもマーニャにまで……もう我慢の限界よ。絶対に許せないわ!)
私は怒りに任せて勢いよく部屋を飛び出すと、メリナ様を探して広い王宮の中を捜索する。
***
「メリナ様!!」
「あら、あなたの方から出向くなんて、珍しいこともあるのね」
色とりどりの薔薇の花が咲き誇る庭園で、白い大理石の柱と屋根で造られた、小さな丸い建物の中で、メリナ様は優雅にお茶をしていた。
私は脇目も振らずにメリナ様に詰め寄る。
「マーニャに謝ってください」
「ちょっと何を仰ってるのかわからないわ。どうしてこのわたくしが、使用人如きに謝らなきゃいけなくって?冗談はおよしになって」
メリナ様は、馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。
だが今回ばかりは、食い下がる訳にはいかなかった。
「メリナ様のせいでマーニャは怪我をしたのですよ。危うく飲み込んでしまうところでした」
「いったい、なんの事かしら」
「とぼけないでください。メリナ様が私の御膳に硝子の破片を忍ばせたのは分かっています。そのせいで毒味をしたマーニャが私の身代わりになって……」
マーニャの痛々しい姿を思い出しただけで、怒りが沸々と溢れ出し、拳を握る手に力が入る。
「なによ。突然やってきたかと思えば勝手に人を犯人呼ばわりして、無礼にも程があるわよ!それにわたくしがやったという証拠はあるのかしら」
「そ…それは…」
痛いところを突かれて、言葉を詰まらせる。
(確かに証拠などないわ。でも……)
「あら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら。まさか証拠もないのに、勝手な思い込みだけでわたくしに罪を着せるおつもり?どうなのよ。さぁ、答えなさい!!」
待ってたとばかりにメリナ様は扇子を突き出し、勝ち誇った顔で私を見る。
「……証拠はありません。ですが今までのメリナ様の私に対する数々の非道な行いを見たら、疑われても仕方ないと思いますわ」
「ふんっ!やっぱり証拠などないじゃない。話にならないわね。今すぐここから出て行きなさい。茶が不味くなるわ」
だけど私は、まだ引き下がらない。
「メリナ様、お願いですからもうこのような事はお辞めください。幸いにも今回は怪我だけで済みましたが、次は何をされるのかと思うと恐ろしくて夜も眠れませんわ」
「もうっ!しつこいわね!そんなに不安なら、あなたも護衛をつければいいじゃない」
「護衛を?」
メリナ様の思いがけない返答に、私はキョトンとした表情をする。
「そうだわ。丁度、騎士団長からそれはそれはとても物珍しい新人の騎士が採用されたと聞きましたわ。あなた専属の護衛役に回すように、わたくしから頼んであげますわ」
感謝なさい!と含み笑いをするメリナ様に、違和感を覚える。
(いったいどういうつもり?あのメリナ様が私の為に、善意を行うとは到底思えないわ。何を企んでるのかしら)
私は、妙な胸騒ぎを覚えた。
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