13 / 18
二章 落ちぶれた大魔道士、騎士団本部に連れて行かれる
2 献身と性悪
しおりを挟む
「レイエ。俺はあなたのためなら、なんでもしますよ。わかっていただけました?」
フィーリは私の目を覗き込みながら、笑ってみせる。
子どもの頃はしなかった、不敵で不穏な笑みだった。
しかし、私は納得ができない。
「なんでもすると言うのなら、夜の…………」
「はい?」
「……なんでもない」
言い返しかけた口を閉じる。
夜に行われる治療行為のことを、私から話題にするのは腹立たしかった。
しかし、フィーリは何を言おうとしたのか気付いたらしい。
ああ、とわざとらしく声を出す。
「あれは、仕方がないでしょう。あなたが憎いのだから」
じっと、青い目が昏く見つめてくる。
ぞく、と背筋が粟立った。
フィーリは時折――特に例の治療行為の最中に、この目をする。
そのせいだろうか。脳裏に、昨夜の記憶が蘇る。
『ほら、レイエ。体液を入れてほしかったら、なんと言うんでしたっけ?』
『ふ、ふざけるな……! 治療すると、誓約しただろう……!』
『しましたけど、タイミングは決めませんでしたからね。俺は別にいいですよ。このまま、あなたのここを指で可愛がり続けてあげるだけなので。朝までだって俺は疲れないし、あなたが気絶しても、魔法で起こしてさしあげる』
『ぐっ……この、性悪……!!』
フィーリは私のために、違法行為すら行うほどの献身を見せてくる。
だが夜は、それを上回るくらい悪辣に、私を責め立てるのだ。
「あれでも手加減しているんですよ? あなたが、泣きそうになるから」
「あ、あんなことで、誰が泣くものか……!」
「そうですか? では次は手加減せずやりましょうか」
フィーリは立ち上がると、私の腰に腕を回して抱き上げた。
私の足は降りていたが、身長差のせいでつま先が少し浮く。
「…………っ」
その状態で、フィーリの手が私の尻の間に触れてきた。
寝間着の布越しだったが、その指は火傷しそうなほど熱く感じる。
「――あなたのここに触れる時、指は3本までに留めているんです。でももっと増やして、俺の指でいっぱいにならないと満足できないようにしたいなと、思っているんですよ」
「…………ッ!!」
ヒ、と私の喉の奥から音が漏れた。
呼吸音だ。そうに決まっている。私がこんな、弱々しい声を出すはずがない。
「ふ、ふざけ……るな……、ッ……」
もがいて抵抗すると、フィーリは私を壁際に押し付け、動きを奪った。
壁を背に、大きくなった身体で押しつぶされる。
フィーリの鍛え上げられた厚みのある全身に、捕らわれる感覚。
――これもまた、治療行為の最中によくやられることだった。押し付けられる先は、壁ではなく寝台だが。
「フィーリ、こら、やめないか……!」
押し返そうとするが、フィーリはビクともしない。
それどころか、ズボンの中に手を入れてきた。大きな手が、尻たぶをわしづかみにしてくる。
「なっ、なっ……!!」
あまりのことに言葉を失っていると、尻の間を――後孔を、直接触れられる。
「ここ、まだ柔らかいですね……昨日したばかりだから……」
少しかすれたフィーリの声が、耳元に落ちてきた。
(ま、まさか、このままするつもりか……!? 昨夜したばかりなのに!?)
たわむれにしては長くてしつこい。危機感を覚えてくる。
最悪なことに、魔法薬に侵された身体がフィーリの存在に反応し始めていた。
私はどうにか両腕を上げ、フィーリの耳を掴む。
「フィーリッ! たわむれはやめろ! 騎士団本部に行くと言っていただろう!?」
大声で叫んでやると、フィーリはようやく動きを止めた。
「……ああ、そういえば、そうでしたね……」
気だるげに目を細めた男は、私と自分に手早く清潔魔法をかけた。
同時に、着替えの魔法も発動する。
フィーリは白の団服に。
私は白のシャツと濃紺のズボンが着せられていた。
「ム! 私は一緒に行くと言っていないが?」
「来てくれるなら、さっき言っていたことは、やらないでおいてあげますよ」
「は? 全部嫌だが。行きたくないし、必要以上の治療行為も不要だ」
「ふふ、わがままですね」
当然のことを告げると、フィーリは苦笑した。
その顔からは、いつの間にか先程までの昏さが消えている。
「さっさと一人で出かけなさい。私は外出などごめんだからな」
フィーリが私とどこかへ行きたがるのは、子どもの頃にもよくあったことだ。
しかし一人で外出できる年齢になった男に、わざわざついていく義務はない。
「ですが、本部なら最新の魔道書がありますよ」
「…………」
しっしっとフィーリを追い払おうとしていた私の手が、止まる。
魔道書はいい。
叡智の結晶、トンデモ理論、斬新な発想、全てが魔道の探求の一助になる。
私は天才ゆえに何も参考にしないと思われていたが、真逆だ。天才だからこそ、全てを知り、全てを使いこなし、誰よりも先を行くという自由を持っていた。
魔力を喪った今でも、探究心は変わらない。
いや、前以上に新しい情報を渇望している。
――私は、魔力がなくても魔法を使う手段を求めているのだ。
物心ついた時から、魔法は私と共にあった。
足で歩き、手で物を持つことと同じくらい当たり前に、魔法を使えた。
私は取り戻したいのだ。
私にとっての日常を。魔法が使えるという日々を。
それをフィーリに言ったことはない。
だが、私が昔から魔道書を好んでいることを知っている。それにこの10日間、私邸の図書室に入り浸っている間、常に傍にいた。
「……騎士団本部に行けば、魔道書を読ませるんだな? 誓約の時のように、騙す気はないな?」
「もちろんです。好きなだけ読んでもらっていいですよ。俺の名と、俺の養父、レイエンダ・オラトリオに誓います」
「……わかった、同行してやろう」
かくして私はフィーリと共に、魔法騎士団本部を訪れたのだった。
***
そして今。私とフィーリは再び並んで歩いている。
「黙らせるとはどういうことだ、フィーリ?」
――『彼らは後できっちり、黙らせるので』
先ほどそう言ったフィーリは、朝礼に顔を出す必要があると、私を連れて団長室を出た。
部屋で待つと抵抗したが、小脇に抱えて無理やり連れ出されそうになったため、今は渋々自分の足で歩いている。
「すぐにわかりますよ」
フィーリは微笑み、私の手を取って、階段を降りた。
階段の先には中庭が広がっており、数百人の魔法騎士が整列している。
「フィーリウス団長に敬礼!!」
「はっ!!」
一人が声を上げ、全員が一斉に敬礼をする。
フィーリは軽く頷いてみせた。
「楽にしていい。今日は諸君に紹介する人がいる」
「休め!!」
「はっ!!」
休めの号令で、全員が一斉に手を下ろした。だが背筋をピンと伸ばし直立する姿は、到底休んでいるようには見えない。
魔法騎士団は昔も今も変わらない、理解しづらい集団だ。
――そして、私は失念していた。
隣に立つのが、その集団の頂点に立つ男であることを。
フィーリは私の肩を軽く抱き、宣言した。
「この方はレン。今日から団長補佐として俺についてもらう。彼の素性を探ること、噂することの全てを禁じるから、そのつもりで」
フィーリは私の目を覗き込みながら、笑ってみせる。
子どもの頃はしなかった、不敵で不穏な笑みだった。
しかし、私は納得ができない。
「なんでもすると言うのなら、夜の…………」
「はい?」
「……なんでもない」
言い返しかけた口を閉じる。
夜に行われる治療行為のことを、私から話題にするのは腹立たしかった。
しかし、フィーリは何を言おうとしたのか気付いたらしい。
ああ、とわざとらしく声を出す。
「あれは、仕方がないでしょう。あなたが憎いのだから」
じっと、青い目が昏く見つめてくる。
ぞく、と背筋が粟立った。
フィーリは時折――特に例の治療行為の最中に、この目をする。
そのせいだろうか。脳裏に、昨夜の記憶が蘇る。
『ほら、レイエ。体液を入れてほしかったら、なんと言うんでしたっけ?』
『ふ、ふざけるな……! 治療すると、誓約しただろう……!』
『しましたけど、タイミングは決めませんでしたからね。俺は別にいいですよ。このまま、あなたのここを指で可愛がり続けてあげるだけなので。朝までだって俺は疲れないし、あなたが気絶しても、魔法で起こしてさしあげる』
『ぐっ……この、性悪……!!』
フィーリは私のために、違法行為すら行うほどの献身を見せてくる。
だが夜は、それを上回るくらい悪辣に、私を責め立てるのだ。
「あれでも手加減しているんですよ? あなたが、泣きそうになるから」
「あ、あんなことで、誰が泣くものか……!」
「そうですか? では次は手加減せずやりましょうか」
フィーリは立ち上がると、私の腰に腕を回して抱き上げた。
私の足は降りていたが、身長差のせいでつま先が少し浮く。
「…………っ」
その状態で、フィーリの手が私の尻の間に触れてきた。
寝間着の布越しだったが、その指は火傷しそうなほど熱く感じる。
「――あなたのここに触れる時、指は3本までに留めているんです。でももっと増やして、俺の指でいっぱいにならないと満足できないようにしたいなと、思っているんですよ」
「…………ッ!!」
ヒ、と私の喉の奥から音が漏れた。
呼吸音だ。そうに決まっている。私がこんな、弱々しい声を出すはずがない。
「ふ、ふざけ……るな……、ッ……」
もがいて抵抗すると、フィーリは私を壁際に押し付け、動きを奪った。
壁を背に、大きくなった身体で押しつぶされる。
フィーリの鍛え上げられた厚みのある全身に、捕らわれる感覚。
――これもまた、治療行為の最中によくやられることだった。押し付けられる先は、壁ではなく寝台だが。
「フィーリ、こら、やめないか……!」
押し返そうとするが、フィーリはビクともしない。
それどころか、ズボンの中に手を入れてきた。大きな手が、尻たぶをわしづかみにしてくる。
「なっ、なっ……!!」
あまりのことに言葉を失っていると、尻の間を――後孔を、直接触れられる。
「ここ、まだ柔らかいですね……昨日したばかりだから……」
少しかすれたフィーリの声が、耳元に落ちてきた。
(ま、まさか、このままするつもりか……!? 昨夜したばかりなのに!?)
たわむれにしては長くてしつこい。危機感を覚えてくる。
最悪なことに、魔法薬に侵された身体がフィーリの存在に反応し始めていた。
私はどうにか両腕を上げ、フィーリの耳を掴む。
「フィーリッ! たわむれはやめろ! 騎士団本部に行くと言っていただろう!?」
大声で叫んでやると、フィーリはようやく動きを止めた。
「……ああ、そういえば、そうでしたね……」
気だるげに目を細めた男は、私と自分に手早く清潔魔法をかけた。
同時に、着替えの魔法も発動する。
フィーリは白の団服に。
私は白のシャツと濃紺のズボンが着せられていた。
「ム! 私は一緒に行くと言っていないが?」
「来てくれるなら、さっき言っていたことは、やらないでおいてあげますよ」
「は? 全部嫌だが。行きたくないし、必要以上の治療行為も不要だ」
「ふふ、わがままですね」
当然のことを告げると、フィーリは苦笑した。
その顔からは、いつの間にか先程までの昏さが消えている。
「さっさと一人で出かけなさい。私は外出などごめんだからな」
フィーリが私とどこかへ行きたがるのは、子どもの頃にもよくあったことだ。
しかし一人で外出できる年齢になった男に、わざわざついていく義務はない。
「ですが、本部なら最新の魔道書がありますよ」
「…………」
しっしっとフィーリを追い払おうとしていた私の手が、止まる。
魔道書はいい。
叡智の結晶、トンデモ理論、斬新な発想、全てが魔道の探求の一助になる。
私は天才ゆえに何も参考にしないと思われていたが、真逆だ。天才だからこそ、全てを知り、全てを使いこなし、誰よりも先を行くという自由を持っていた。
魔力を喪った今でも、探究心は変わらない。
いや、前以上に新しい情報を渇望している。
――私は、魔力がなくても魔法を使う手段を求めているのだ。
物心ついた時から、魔法は私と共にあった。
足で歩き、手で物を持つことと同じくらい当たり前に、魔法を使えた。
私は取り戻したいのだ。
私にとっての日常を。魔法が使えるという日々を。
それをフィーリに言ったことはない。
だが、私が昔から魔道書を好んでいることを知っている。それにこの10日間、私邸の図書室に入り浸っている間、常に傍にいた。
「……騎士団本部に行けば、魔道書を読ませるんだな? 誓約の時のように、騙す気はないな?」
「もちろんです。好きなだけ読んでもらっていいですよ。俺の名と、俺の養父、レイエンダ・オラトリオに誓います」
「……わかった、同行してやろう」
かくして私はフィーリと共に、魔法騎士団本部を訪れたのだった。
***
そして今。私とフィーリは再び並んで歩いている。
「黙らせるとはどういうことだ、フィーリ?」
――『彼らは後できっちり、黙らせるので』
先ほどそう言ったフィーリは、朝礼に顔を出す必要があると、私を連れて団長室を出た。
部屋で待つと抵抗したが、小脇に抱えて無理やり連れ出されそうになったため、今は渋々自分の足で歩いている。
「すぐにわかりますよ」
フィーリは微笑み、私の手を取って、階段を降りた。
階段の先には中庭が広がっており、数百人の魔法騎士が整列している。
「フィーリウス団長に敬礼!!」
「はっ!!」
一人が声を上げ、全員が一斉に敬礼をする。
フィーリは軽く頷いてみせた。
「楽にしていい。今日は諸君に紹介する人がいる」
「休め!!」
「はっ!!」
休めの号令で、全員が一斉に手を下ろした。だが背筋をピンと伸ばし直立する姿は、到底休んでいるようには見えない。
魔法騎士団は昔も今も変わらない、理解しづらい集団だ。
――そして、私は失念していた。
隣に立つのが、その集団の頂点に立つ男であることを。
フィーリは私の肩を軽く抱き、宣言した。
「この方はレン。今日から団長補佐として俺についてもらう。彼の素性を探ること、噂することの全てを禁じるから、そのつもりで」
1
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる