私が何をしたって言うんだ!

梅したら

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二章 落ちぶれた大魔道士、騎士団本部に連れて行かれる

3 ランチタイム

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「この方はレン。今日から団長補佐として俺についてもらう。彼の素性を探ること、噂することの全てを禁じるから、そのつもりで」
「…………!?」

 レン、とは私の偽名だ。つまり私だ。
 その後にフィーリはなんと言った?

 ……団長補佐!?

「フィーリ、どういうことだ……!?」
「あとで説明しますから、この朝礼の間は大人しくしておいてください。お願いします、レイエ」

 どういうことだと問い詰めれば、その声は魔法で包まれ、フィーリにのみ届いた。フィーリの声もまた、私にだけ届く。

「……ふん。必ず説明しろよ」

 私は身体の前で腕を組み、〝お願い〟を聞き入れてやることにした。
 音の指向性を変える魔法よりも、私の口を塞ぐ方がよほど簡単だ。逆の立場であれば私は躊躇なく塞いでいただろう。
 面倒な魔法を使ってまで言葉を聞く姿勢を見せたフィーリに、多少は譲歩してやる。

「ありがとうございます、レイエ」

 フィーリはこちらに向かって微笑んできた後、団員たちに向き直った。

「では、俺の休暇中に起きたことを報告してくれ」
「はい。龍族との緩衝地帯における強盗事件について――」
「はい。違法魔法の使用者を摘発し――」
「はい。王家との会合の予定が――」

 団員は同時に話し出す。私に聞き取れたのは、ほんの数人の冒頭のみだった。
 フィーリは魔法で全てを聞き分け、言語魔法を多重展開する。
 おそらく、全てに対して同時に返答をしたのだろう。魔力を喪った私では、目をこらさない限り詳細は読み取れない。
 そんなことをする理由もなく、腕を組んで立ったまま、横目でフィーリを眺めた。

(ずいぶんと魔法を使いこなせるようになったものだ)

 フィーリには昔、魔法の基礎を叩き込んだ。だが応用はイマイチだった。
 特に、複雑な魔法は苦手としていたように思う。才能はあったが、応用は得意不得意の差が激しかったものだ。

 しかし今のフィーリは、かつて不得意だったものでも難なくこなしていた。過去の私ほどではないが、手足のように軽々と魔法を操っている。

「――それでは、解散」

 私が昔を思い出している間に、朝礼が終わったようだ。
 団員たちの緊張が緩み、複数の視線がこちらへ向かってくる。
 わずらわしいと感じていたら、フィーリがマントで私をおおい、視線をさえぎった。

「戻りましょうレイエ。話は団長室で、昼食でもとりながら」
「……はあ。わかった」

 昼食。気鬱きうつな響きだ。
 フィーリは1日3食も私に食べさせようとしてくる。夜は腹がいっぱいでは眠れないと言えば一口で済むことも多い。だが、朝食と昼食は一人前が空になるまで見張られるのだ。

(半分はフィーリに食べさせよう)

 内心で密かに決心する。
 ここ数日の間に気づいたのだが、フィーリの口元に食べ物を持っていけば、高確率で食べる。
 連続で食べさせると不満げにされるが、私も少しずつ食べながらフィーリに与えることで、食事を乗り切れるということを覚えたのだった。





「量が多くないか……」
「こんなものですよ。さあどうぞ、召し上がってください」

 団長室に戻るなりフィーリは机の上へ、大量の紙包みの山を出現させた。中身は全てサンドイッチ。
 一個一個が一人前ほど大きい。30個ほどあるそれをフィーリは自分の前に、紙包みの下から出てきた小ぶりなバスケットを私の前に置いた。

 バスケットに入っていたのは、野菜のみが挟まれた一口サイズのサンドイッチ。
 私に食べさせるため、フィーリはいつも専用の食事を用意してくる。

 が、食欲はないため、1つ目はフィーリの口に突っ込んだ。
 私の一口サイズは、この男にとって一飲みだったらしい。ほとんど噛まずに飲み込んでいく。

 2つ目は渋々、自分で食べる。クソ、美味い。
 パンを食べると胃が疲れるから、なるべく原型を止めないように噛み砕く。

「……レイエ、素直に食べてくれるようになりましたね」

 フィーリは独り言のようにつぶやきながら、サンドイッチを噛み締め続ける私の頬を、指の背で撫でてきた。

「君がしつこく食わせてくるからだが!?」
「そうですね。しつこくして良かったけど……レイエの体型が戻ったら、皆に気づかれてしまうかな。あなたがレイエンダ・オラトリオだと」

 やつれた私の頬骨と、フィーリの指の骨がぶつかる。
 今の私は、現役時代とは人相が大きく違う。認識阻害の魔法などなくても、騎士団の中で私に気づく者はいなかった。もっとも、認識阻害を使う方が、魔法騎士たちは違和感にすぐ気づくだろうが。

「気づかれたくないな……」
「そう思うなら食事をとらせるな」
「それは駄目です。絶対に元の健康体に戻しますからね」
「頑固者め……」

 ――私がレイエンダ・オラトリオだと気づかれた場合を想像する。
 オークションに出品されていたことを知る者がいないのであれば、さしたる問題はなさそうに思えた。今は隣にフィーリがいるからだ。

「気づかれても、問題ないだろう。君が傍にいるからな」
「……なぜそう思うんです?」
「今は君の方がよほど目立つ」
「やっぱりそうですよね……少し期待しました」

 昔から、フィーリはよく目立つ子どもだった。
 ただそこにいるだけで人目を惹きつける。
 長く関われば関わるほど、フィーリに魅了されていく。

 知人いわく、カリスマ性と言われるものらしい。
 非常に面倒で不便な性質だった。

 そのせいで、フィーリを拾った後は通いの使用人を解雇するはめになったし、家庭教師を雇うこともできなかったのだ。

 大人になった今、フィーリの魅力とやらは増しているらしい。それは今朝から今までの短時間でもわかった。
 対する私は、五神将の頃は有名だったが、今は名前が残るばかり。私の外見が戻ったとしても、フィーリよりは目立たないだろう。
 面倒なカリスマ性とやらも、たまには役に立つ。せいぜい衆目を集めさせよう。

「……あなたはもっと俺を使ってくれてもいいのに」

 フィーリはなぜか不満げに言いながら、自分の分のサンドイッチを齧った。

「君を使う? 君が私の言う事を聞くことがあるのか、この反抗期が」
「反抗期って……逃亡と治療拒否と食事拒否と同伴拒否以外のお願いは、なるべく聞いてあげるつもりですけど」
「私の望みはそれが全てだな…………」

 ここ最近の面倒事の全てを却下される。これが反抗期でないなら、なんだというのか。
 呆れながら、フィーリの口元にサンドイッチを差し出した。

「……レイエ、自分で食べないといけませんよ」
「歯ごたえのあるものは苦手だ。穀物も」

 咎めるように言われるが、知らん。先ほどよく噛んで食べたせいで、1つで腹がいっぱいになってしまった。

「残りは自分で食べますか?」
「……1つなら」

 サンドイッチは5つ入っていた。今持っているものを除けば、残り2つ。
 あと1口なら食べられないこともない。

「仕方ないな。今日はついてきてくれましたから、疲れもあるでしょうし」

 フィーリは苦笑しながら、私が差し出すサンドイッチに齧りつく。

 ――その瞬間、短いノックと共に、団長室の扉が開けられた。

「団長、久々に顔出したって聞いて――…………、ッ!?」

 入ってきたのは魔法騎士の団服を着た、背の高い男。
 赤茶の髪の毛をざっくばらんに後頭部でまとめ、気だるげに背を丸めていた。

 だがこちらを見るなり、驚いたように背筋を伸ばす。

「お邪魔でした? 出直しましょうか……!?」
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