胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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 夕暮れが過ぎた薄暗い部屋で、そっと寄り添っていた二人だったが、鉄堅は名残惜しそうに、葉月に告げた。

「そろそろ帰るよ、葉月ちゃん、また明日迎えにきても良い?」
「うん……夜、メールする」

葉月がそう言うと、鉄堅はとても幸せそうに微笑んだ。何度も切れかかった縁が、結び直され、確かに繋がっている、その幸福が鉄堅の胸に広がっていた。
メールをし合う事など、高校生ならばごく日常の一コマであるけれど、こと、葉月と鉄堅にとっては、それは日常ではなかったから。

小さな喜びが、少しづつ、日常の中に入っていくことが嬉しかった。このままずっと、当たり前になれば良いと、鉄堅は思った。

葉月と喋ることも、メールすることも、一緒に駅まで歩く事も、当たり前の日常になってほしい。飽きる程その日常を繰り返してみたい。

365日の中の何日を葉月と会えるだろう。毎日でも会いたいなんて思うのは欲張りだろうか。あまり多くを望みすぎたら、この幸福が壊れてしまったらいけない。

(自分の心の中の葉月ちゃんへ対する欲望など、際限なく大きくなってしまうから。自分を律して、葉月ちゃんが嫌がる事は絶対にしないでそばにいれるだけで良いのだから)

(でもいつか……もし叶うのならば、葉月ちゃんと同じ所へ帰りたい)

今はまだ学生で、親の庇護のもとにあり、恩恵を受けて生きている身だけれど、きちんと立身して、お金を稼ぎ、家を買い、その家に葉月がいたらどんなに幸せだろう。
こんな夢を密かに持ってるなんて葉月には言えないけど。
言ったら気持ち悪いと言われるかもしれない自覚はある。

(でも……いつか。葉月ちゃんと暮らすという夢を叶えたい)

傍らにいる、葉月を愛しく見つめ、鉄堅は、床に置いてあった自分の鞄を手にもった。

「じゃ、葉月ちゃん、帰るよ、目……だいぶ、赤みは引いたけど冷やしてね」
「うん、風呂に入ったら、冷やしとく」
「そうして、じゃ行くね、鍵かけてね」
「うん」

名残惜しくてついつい、言葉を探しては葉月へ投げてしまう。自分の必死さに、鉄堅は、密かに恥じ入りつつ、靴をはいた。
玄関のドアをあけ、最後に一目と振り替えると、葉月が、小さな声で、夜に。といった。
頷いて、扉を閉めて、外へ出ると、鉄堅はその場にへたりと、しゃがみこんだ。

「あぁ、葉月ちゃん…可愛ぃ」
夜にメールすることを楽しみにしていてくれるのだろうか。
面白いことを一つも言えないし、葉月ちゃんが喜んでくれる言葉を送れるかも解らないけど。でも、あんな風に待ってると言われるのは、鉄堅にとってはこの上なく嬉しい事だった。



◆◇◆


鉄堅が出ていった薄暗い玄関、葉月はポツンとたたずんで居たが、鍵を閉める事を思いだし、言われた通りにカチャリとロックをかけた。

リビングへ戻って電気をつけて、外に干してある洗濯物を、叩きながら取り込んで、畳にもっさりと置いた。

父とずっと二人暮らしだったから、葉月はある程度の家事全般ができた。凝った料理はできないけど、野菜を切って肉をやくだけだけど、父はいつも美味しいと喜んでくれる。

取り込んだ洗濯物を折り畳み、箪笥にしまう。その後は台所へ行って米を研いで炊飯器にセット、次は風呂洗い。

黙々と作業しながら、今しがたの鉄堅とのやり取りを思いだし、時々どうしようもない程の羞恥に襲われてしまう。

(恥ずかしい事を言ったかもしれない、何を口にしたかほぼ覚えてない)

告白をするなんて想定外だったし、自分が誰かに恋をするなんてもっと青天の霹靂だったし。しかも何よりも驚きなのは相手が鉄堅だなんて。

いや、驚きでもないのだろうか。ずっと実は心の奥底の潜在意識で鉄堅を選んでいたのかもしれない。
運命なんか嫌だと思ってたのに、今は、この広い世界で自分のたった一人がいることが誇らしく思えた。

(父さんに……)

鉄堅と付き合うことになったと、父に話すべきだろうかと考え、いやでもそれはまだ早いかと首をふり、赤面する。

「だってまだ、告白をしただけだし、まだそんな言うこと何も無いし」

ぽそぽそと、言い訳をしながら、服を脱いで風呂場に入った。掛け湯をして湯船に浸かると、疲れが湯に溶けていく。
真冬でもないから、そんなに身体は冷えていないはずなのに、お湯に浸かると、指先が冷たかったのだと感じる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と足を動かし、膝を折り顎まで湯に浸かる。いつもと同じなのに、妙にソワソワするのは何故だろう。気持ちが上に行ったり下に行ったりふわふわしてて、急に恥ずかしくなるし、なんなんだこれ。

「……変なの」

恋をしたら、皆もこんな風になるのだろうか。頭の片隅にずっといる自分の恋人となった鉄堅に聞いてみたいと思った。



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