辺境の地へ飛ばされたオメガ軍医は、最強将軍に溺愛される

夜鳥すぱり

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 祝宴の席でゼクスは、会場の端の方で食事を取っているリズを見つけた。

いつもベッタリそばにいるリュカは、今は、ネルフィル皇太子の護衛についている。リズと二人っきりで会話する、またとない好機に気付いたゼクスは、リズの方へと足を向けた。もう、これを逃せば、リズとじっくり話すことは無いかもしれない、自分はもう、このドラクロンの国に命を捧げるつもりだからクライスには戻れないのだから。

リズに近づく足取りは、早まり、気が急いたが、一応、離れているとはいえ、リュカの動向を見ておこうと、ちらりと視線をリュカとネルフィル皇太子の方へ。

案の定、リズの近辺をガン見している、リュカと視線がかち合ってしまって、ゲッと、ゼクスは引きつったが、敢えて視線を反らして気付かないふりをした。 どうしてもこの機会は逃せない。そのまま歩いて、リズの近くへ行くと、ぽそぽそと、食事を静かに食べていたリズが、ゼクスに気付き、ぱっと、顔を上げ会釈をしてくれた。

 久しぶりにみる、リズは、漆黒の質の良い生地に、金の刺繍が細かに入ったジャケットを羽織り、首もとにフリルの多い真っ白なブラウスを着ていた。とても品よく、似合っている。こんな子が路地を歩いていたらあっという間に、拐われてしまうだろう。育ちの良い、実に可愛らしい姿だった。

 ゼクスは、リズのその人形の様な可愛いらしい姿にみとれ、ぼぅとなって、言葉を忘れ、無言で見つめてしまった。この子が欲しいとアルファの本能が騒ぐ。リズの大きな灰色の瞳のなかに、ゼクスがうつりこんで、そのリズの小さなピンク色の唇が動く。

「ドラクロン王、おめでとうございます」

自分だけに向けられた、にっこりと、笑う薔薇のような微笑みに、ゼクスの身体中の血が沸騰した。俺の先生は、なんて可愛らしいんだろう。久しぶりに合って、自制が効かない。1度で良いから、抱き締めてみたい。ふらっと、1歩また近づいた。

「やめて下さいよ、ゼクスで大丈夫です、先生にそんな風に呼ばれる日がくるなんて」

「ゼクスさん、大変な道程でしたね、よくぞ成し遂げられたと思います、立派です」

「先生にそう言ってもらえて、一番嬉しいな、俺、今日は会えないかと思ってたよ、よく、将軍が連れてきてくれたね」

「あは、色々ありまして」

少し気まずそうな、リズの様子に、なんとなく、リュカはやはりここへ来ることを反対したのだろうと、予想がつく。そりゃそうだ、国が成り代わったばかりの、かつては敵国。誰よりも大切な人を連れてきたいわけがない。

ゼクスは、ふと、リズのフェロモンが少しも香らないことに気付いた。それが意味するのはつまりはたった一つの事実で、一瞬目を見開いて、思考が停止し、近付こうとしていた足を止めた。

(先生もしかして将軍と……そっか)

リズがリュカと既にツガイに成ったのだと悟って、ゼクスは自分の指先が急速に冷えていくのを感じた。動揺を隠すように、もっていた酒をグッと飲み干し、目をふせた。


解っていた。最初から自分が割って入る隙なんかこれっぽっちもないことなど。それでも、もしかしたらなんて少しだけ思ってた。夢とも希望とも言えない小さな願望が、誰にも知られることなく消えてしまった。先生はもう自分のツガイにはならない。それは思った以上にきつくて、ゼクスを打ちのめした。目の前に立つ恋しい人はもう違う人を選んだのだ。

ゼクスは、ハァッと吐息を吐くと、気持ちを無理矢理に封じ込め、何でもない様子でリズにはなしかけた。

「ええっと、将軍は、ネルフィル様の護衛をしているの?」

「ええ、そうなんです、筆頭護衛なんですよ」

にっこりと、答えるリズは、恋人が偉い人に認められてて嬉しい気持ちを隠しきれない、相変わらず、ラブラブなんだなぁと、ゼクスは視線をまたリュカの方に投げた。

すると相変わらずリュカと目が合ってしまうのだが、ネルフィルとリュカの近くに、姉姫二人が近付いている事に気付く。二人の姫は、どうやら、今日のターゲットを、皇太子と将軍に定めたようだ。ゼクスとしても、止めに入りたいが、どうにもあの二人の姫が苦手で、どうしたものかと思案していると、視線に気づいたリズが、リュカのそばにいる二人を見てしまった。

リズは一瞬、大きく目を見開いて、さっと顔を背けた。

(リュカさんの隣に、凄く綺麗な人がいる、どうしよう)


リズの心臓は早音のようになり騒ぎ、不安で手が震えている。嫉妬なんてみっともないと思うのに、あんなに昨日誓ったのに、信じないなんてどうかしてると思いながら、リュカの心がもし、あの綺麗な人にいってしまったらと、顔色がどんどん悪くなった。

ゼクスは、リズがしゅんと俯いてしまったので、リュカに何してると視線を送ったが、リュカの方もなにやら凄い剣幕でこっちを睨んでいる。

(何で俺が睨まれなきゃなんねーの)

ムカついたゼクスは、リズの背中をリュカに見えるように、わざとさすった。

「先生、大丈夫?気分悪い?あっちで、座る?」

「いえ、大丈夫です」

健気に、微笑んでみせる、リズに、ゼクスは胸を打たれ、手を伸ばしてもっと支えようとした、だがその手は、ペンッと高速ではね除けられた。

「あだっ」
「リズどうした大丈夫か」
「リュカさん、護衛は?」

「ん、代わってもらった、あっちで座るか?おい、ゼクスリズに何か言ったのか」

ゼクスが非難めいた悲鳴をあげる。

「ひっ、いやいや、言ってない、て、こわっ、なんで俺が怒られるの!?」

リズは、リュカの袖をくいっと引っ張った。

「リュカさん、ゼクスさんは何も、僕が勝手に、その、、、嫉妬しただけですっ」

かぁぁっと、顔を赤らめて、涙目になったリズの横顔は、強烈に可愛くて、リュカとゼクスは、よろっとよろめいた。

「嫉妬って、誰に?ネルフィル?あいつのことなんて、これっぽっちも好きじゃないぞ」

「違います、綺麗な女の人が横にいたから」
「え?どこに、は?おい、ゼクス、どこ?」

「はーー~ですよね、視界にすら入ってなかったって、将軍、確かにこっちずっと見てましたわ」

ゼクスが、頭痛を覚え、眉間をぐりぐりと押して落ち着こうとする。

「先生、将軍はずっとあなたを見てて、女の人がそばにいるとこ気付いてなかったそうですよ」

「え、ほんとに?」

「ええ、ね、将軍そうでしょ?」

「なんだよ、女って、居たか?、俺はずっとネルフィルといただろ?確かにネルフィルがなんか喋ってたけど、別に害が有る訳じゃないし、相手は凶器も持ってなかったしよくみてなかったけど、そいつらのこと?女だった?綺麗とかどうでもよくね?え、リズはもしかして、今さら女が良いとか?それは、ちょっと」

全く本気で気付いてないどころか、余計な勘違いまでし始めている。リズは、呆然とし、ゼクスは、明後日の方を向いた。

「あ、いえ、……もう良いんです」
「良いのか?ゼクスおまえ、本当になんも言ってないだろな?」
「言ってませんって、なんなの、痴話喧嘩にもならないじゃん、はーーもうさっさと、結婚しろよ」

ボソッと呻いて、脱力する。二人がまた甘い雰囲気に包まれ始めたので、ゼクスはネルフィルの方へ行く事にした。

そうだ、皇太子と、法律の事について話そう、そうしよう。折角の貴重な時間を建設的に使わないと。こんなお互いの事しか見えてない二人にかまってたら、一生報われない。アルファとオメガのツガイの理想の様な二人に、妬けるけど、安心もしてるよ。

(お幸せに、俺の先生)

出会ってから数日の儚い恋だったが、暫く忘れられそうにない人の幸せをそっと願って、ゼクスは二人のそばを離れた。






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