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10 狼さん、あのね

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 時雨の音をぼんやりと聞いている。

 最近、疾風は事あるごとに俺の家に来るから、最早同棲してる状態。今もそうだ。今は俺の膝の上。この時期は犬狼族はともかく純粋な人間には非常に厳しい環境だ。だから大きめの毛布で包んでやっている。当の本人は俺にびったりくっついて、あろうことか俺まで毛布に巻き込んで来た。

「先輩あったかいー」
「お前も温かい」

 疾風からふわり、と薫る穏やかな匂い。尻尾で喉元をくすぐると、疾風は俺の尻尾に顔を埋めてもふもふしてくる。可愛い。

「先輩、あのね」

 唐突に疾風がぽつり、と呟く。

「俺、元々心臓が弱いんだって。
 それでも少しずつ頑張れば、みんなと運動できるようになるって信じてたけど、高校生になってもまともに走れないの、悔しい」

 胸をぎゅっと押さえる疾風を、そっと抱く。

「ん」
「…先輩。俺ね、障害物競争の時先輩に抱かれた時、ゴールまで凄いスピードで走り抜けた時、やっぱり先輩が一番だなーって思ったんだ。俺のところに来てくれたの、すげー嬉しかった」
「そりゃ、俺はお前の恋人だし。求められりゃ一緒にいるのは筋だろ」
「えへへ」

 すり、と俺の胸元で頭を寄せて擦る仕草をする疾風。

「…しかしまぁ、文化祭のライブと言い、リレーの時と言い、お前、結構無茶するよな?良くないな」
「真っ先に先輩のところに辿り着きたかった」
「ぶっ、おっまえ…俺の事大好きかよ」

 思わずむせてしまった俺に更に畳み掛ける疾風。

「俺の脳の中身の大半を塗り潰した俺の狼さん。責任取って認知して」

 だめだ。色々おかしすぎる。

「それ、子どもできた女が男に言う台詞じゃね?特に認知してってよォ」
「先輩大好き生命体になった俺を認知してって意味です」
「それどや顔で言うもんかぁ?」

 だがそれがいい。うなじにキスを落とすと、ごそごそと動いて俺と向き合う。見上げる疾風と見下ろす俺。いつもと同じのようだが、少しだけいつもと違う。

「蒼牙、先輩」

 心臓の音が重なってしまう。

「大好き」

 もう我慢の限界だ。
 貪るように、逃がさないように、キスをした。

「ふぅむっ、んむっ、はむぅっ」

 可愛く喘ぐ俺の番。小さな体全体で俺を堪能しているのか、時折脇腹に疾風の太腿が擦れ、更に本能が掻き立てられる。

「ふぁぅっ、ひゃんっ」

 今度は首筋。とことん跡をつけてマーキング。どんな奴も近付けさせない。俺の番。俺の番。世界でたった一人の可愛い俺の番。

「あっ、だめぇっ、あぅぅんっ」

 疾風の腰、脇腹、背中。指で優しくなぞると、可愛らしくも艶めかしく仰け反る。更に俺の首に腕を回し、足はがっちり俺の腰に回し、完全にその気で俺を誘う。…あぁ全く。本番まで進みたいが。無理はさせられない。

「…はぁっ、疾風…」

 体中が疼く。全身、指先、足先、毛先を隅々まで犯し尽くして、俺のものにしたい。

 ただただ、獣に還りたい。

「そーが、しゃん…そーがしゃん…しゅきぃ…」
「俺もだよ、疾風」

 …そろそろ限界か。この辺にしておこう。

 それにしても厄介なのはこいつの体質だ。きっと今でも相当きついだろうから、暫くは体力をつけさせるか、一応母さんに聞いておこう。

「…疾風、ゆっくり休めよ」

 あまりにも甘美過ぎる匂いを放ちつつも無防備に眠る番を見ると、これ以上に無い征服感に満たされる。

 …俺は、こいつを手放したくないのだろう。

 なんて我儘なんだろうな。

 そんなことを思って、一旦離れようと思ったら、疾風にがっちりと掴まれて離れられない。

「疾風」
「いかないでっ…」

 急激に腰へ熱が集まる感覚がした。理性が消えかかっている。まずい。このタイミングで疾風を犯したくない。

「あぁ…好きだぞ、疾風」

 今はこいつが正気に戻るまで、耐えておこう。

 …寝ながら犯すなんて、絶対無いと思いたい。
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