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第6章 コンクール
第6話 第1次予選 6 ユウキ(受け)視点
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※エロなし
グランドピアノが2台置かれた音楽院の練習室は、どの部屋も似たような造りのようだ
違うのは、そこから見える風景だけだろうか────
ヨーロッパの冬は寒い
日本とはまた違った寒さだ
幼少期過ごしたドイツよりは暖かいにせよ、イタリアもそこそこ寒くて
窓から見える寒々とした木々を眺めながら、いつまでこの地にいられるだろうか、と思った
ファイナルまで万が一残れたら…
このコンクールは、動画での予備予選が半年前に行われて
第1次予選、第2次予選、そして本選になっている
帰国便のフライトはオープンにしてある
1次予選敗退となったら、残念だけどドイツにいる両親に顔を見せてから帰国しようかとも考えていた
大学は、コンクール参加中は特別に出席扱いにしてくれている
ある程度勝ち進めば、大学の宣伝になるとも思っているのだろう
振り返り、譜面台に置かれた楽譜に目をやる
────正直、こんなに協力してくれるなんて、思ってもみなかった
アサヒくんの楽譜にはぎっしりとメモ書きされている
師匠から聞いたポイントと、アサヒくんなりの解釈が書き込まれた楽譜は
俺の演奏の大きな助けとなった
(1次予選、通過したいな…)
どんなに練習しても、1次予選に通過していなければ
このコンクールでは演奏できない
まぁ、次のコンクールで演奏するチャンスを作ればいいわけだけど…
ドアが古ぼけた音を立てて開かれ、甘い香りが立ち込める
「イタリアのくせに、ほんと甘い飲み物ばかりだな」
2次予選までの練習室利用は、1人5時間まで
1時間半練習した後、休憩しようとアサヒくんが音楽院のカフェに飲み物をテイクアウトしにいく
まるで習慣化されたかのような4日目の練習
「でも脳がカラッカラだから、甘い飲み物助かるけどね」
「まぁな…キャラメルマキアートだって…スタ〇かよ」
抽選会で腰回りに触れられた時は警戒したものの
それ以降のアサヒくんは、俺の体に触れることはほとんどなく
ただただピアノに集中できる環境を作ってくれている
「スクリャービン…難しくて迷うね…
いや、ベートーヴェンピアノももちろん難しいんだけど
なんか許されてる範囲がスクリャービンの方が広い気がして…」
「そうだな、先生からもスクリャービンをテコ入れしろって伝言されてる」
「…だよねぇ…」
「でも、ユウキの演奏は色彩感あるから先生の選曲は間違いないと僕は思うよ」
窓から見える、灰色一色の景色を眺めながら甘くて温かい飲み物を体内に入れていく
「…もっと色を加えられるとしたら…どこだろ…」
ひとりでは、こんな練習ができただろうか
「体温まったら、そのへんやってみよう」
元カレだということさえ忘れたら、アサヒくんは今、もっとも俺に必要な人材だ────
グランドピアノが2台置かれた音楽院の練習室は、どの部屋も似たような造りのようだ
違うのは、そこから見える風景だけだろうか────
ヨーロッパの冬は寒い
日本とはまた違った寒さだ
幼少期過ごしたドイツよりは暖かいにせよ、イタリアもそこそこ寒くて
窓から見える寒々とした木々を眺めながら、いつまでこの地にいられるだろうか、と思った
ファイナルまで万が一残れたら…
このコンクールは、動画での予備予選が半年前に行われて
第1次予選、第2次予選、そして本選になっている
帰国便のフライトはオープンにしてある
1次予選敗退となったら、残念だけどドイツにいる両親に顔を見せてから帰国しようかとも考えていた
大学は、コンクール参加中は特別に出席扱いにしてくれている
ある程度勝ち進めば、大学の宣伝になるとも思っているのだろう
振り返り、譜面台に置かれた楽譜に目をやる
────正直、こんなに協力してくれるなんて、思ってもみなかった
アサヒくんの楽譜にはぎっしりとメモ書きされている
師匠から聞いたポイントと、アサヒくんなりの解釈が書き込まれた楽譜は
俺の演奏の大きな助けとなった
(1次予選、通過したいな…)
どんなに練習しても、1次予選に通過していなければ
このコンクールでは演奏できない
まぁ、次のコンクールで演奏するチャンスを作ればいいわけだけど…
ドアが古ぼけた音を立てて開かれ、甘い香りが立ち込める
「イタリアのくせに、ほんと甘い飲み物ばかりだな」
2次予選までの練習室利用は、1人5時間まで
1時間半練習した後、休憩しようとアサヒくんが音楽院のカフェに飲み物をテイクアウトしにいく
まるで習慣化されたかのような4日目の練習
「でも脳がカラッカラだから、甘い飲み物助かるけどね」
「まぁな…キャラメルマキアートだって…スタ〇かよ」
抽選会で腰回りに触れられた時は警戒したものの
それ以降のアサヒくんは、俺の体に触れることはほとんどなく
ただただピアノに集中できる環境を作ってくれている
「スクリャービン…難しくて迷うね…
いや、ベートーヴェンピアノももちろん難しいんだけど
なんか許されてる範囲がスクリャービンの方が広い気がして…」
「そうだな、先生からもスクリャービンをテコ入れしろって伝言されてる」
「…だよねぇ…」
「でも、ユウキの演奏は色彩感あるから先生の選曲は間違いないと僕は思うよ」
窓から見える、灰色一色の景色を眺めながら甘くて温かい飲み物を体内に入れていく
「…もっと色を加えられるとしたら…どこだろ…」
ひとりでは、こんな練習ができただろうか
「体温まったら、そのへんやってみよう」
元カレだということさえ忘れたら、アサヒくんは今、もっとも俺に必要な人材だ────
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