100 / 108
第6章 コンクール
第9話 第1次予選 9 シゲル(攻め)視点
しおりを挟む
無事、ユウキの1次予選通過のアナウンスを聞き、いつもとは違う幾分こわばった表情で舞台に立つ彼の顔を見て
舞台から降りる彼の腕を引き寄せ、隣に座らせてようやくホッとする
長時間のフライトでようやくたどり着いた異国での再会
僕が来るなんて思いもよらなかったのだろう
驚いた、漆黒な瞳を見つめて
ああ、やっぱり来てよかったと実感した
再会といっても、たった一週間
初めての国際コンクール挑戦だと知り、付き添いたいと言ってみたものの
子どもじゃないし、と断られ
泣く泣く成田空港まで一緒に行って見送ったきりだ
これまでだって一週間といわず、二週間、1カ月ぶりなんてことはしょっちゅうだった
大学も違うし、あまりしつこくして嫌われたくなかったし…
今回だって、ファイナルまで進むことがあればこっそり現地に行こうかなと計画は立てていたけど
それまでは邪魔をしないよう、応援しようと決めていた
決めていたけど、まさかアサヒさんがいるなんてね────
背後で聞こえるアサヒさんの弾むような声音を聞きながら、通過おめでとう、と横に座るユウキに話しかける
ゆっくり話したいところだけど、通過が発表されたばかりだ
「おめでとう」
「頑張ってね」
「また会おう」
次々とユウキに話しかけられる中に、「2次予選に向けて、また一緒に練習しよう」という声が聞こえる
立ち上がり、背後を振り返る
「お久しぶりですアサヒさん
まさかここにいらっしゃるなんて、びっくりしましたよ」
ユウキは、今度は一緒に予選に通過したであろう外国人から次々と声を掛けられている
アサヒさんがなぜここにいるのか探りを入れておこう
「それはこっちのセリフだよ、シゲルくん、だったよね?
IDカードまで持って、この席に着席できるなんて
君って何者?ピアニストではないよね?」
「親戚にラウム関係者がいまして…」
急遽、依頼して発行してもらった僕のIDカードには、しっかりスポンサーと記載されている
さっさと手の内をさらけ出しておいた方がいいだろう
「…なるほど。僕も挨拶しなければならないお相手だったんだね
ラウムの来年の奨学金に応募させてもらおうと思っているから」
叔父の経営する企業、ラウムは音楽とは関係ない業務内容だけど
文化支援ということで、音楽家や美術家を目指す若者に対して奨学金プログラムを提供している
このコンクールにも奨学金を出している数名がエントリーしていたことで、あっさりとIDをゲットできたわけだ
「ところで、なぜアサヒさんがここに?
留学先はフランスでしたよね?」
「それはもちろん、ユウキをサポートするためだよ
知ってると思うけど、僕はユウキと同門でね
前回大会で僕は入賞しているから、力になれるんじゃないかと思って来たってわけ…
予選通過をお祝いして、ユウキとディナーでも一緒にしたいと思っていたけど
シゲルくんがいるんじゃ、とても僕の出る幕はないね」
「そうですね、遠慮していただけると助かります」
それを聞いて、離れた所で話しているユウキに聞こえるくらいの声で話しかける
「ユウキ、明日はフリーだけどもちろん練習するだろ?」
振り返ったユウキは笑顔だった
「もちろん!」
「じゃあ、練習室予約している時間に待ち合わせな」
そう言ってサッとコートも握り直して、ホール出口に向かって大股に歩きだしたアサヒさんに
ユウキが慌てて駆け寄る
「アサヒくん、ありがとう」
「弟弟子が頑張ってんだから、これくらい当たり前だろ」
笑顔でユウキの艶のある黒髪に触れ、ポンポンと頭を撫でる
「また明日な」
僕に目を合わせることもなく去っていく姿
まるで、お前なんかの出番なんかないと言わんばかりか────
舞台から降りる彼の腕を引き寄せ、隣に座らせてようやくホッとする
長時間のフライトでようやくたどり着いた異国での再会
僕が来るなんて思いもよらなかったのだろう
驚いた、漆黒な瞳を見つめて
ああ、やっぱり来てよかったと実感した
再会といっても、たった一週間
初めての国際コンクール挑戦だと知り、付き添いたいと言ってみたものの
子どもじゃないし、と断られ
泣く泣く成田空港まで一緒に行って見送ったきりだ
これまでだって一週間といわず、二週間、1カ月ぶりなんてことはしょっちゅうだった
大学も違うし、あまりしつこくして嫌われたくなかったし…
今回だって、ファイナルまで進むことがあればこっそり現地に行こうかなと計画は立てていたけど
それまでは邪魔をしないよう、応援しようと決めていた
決めていたけど、まさかアサヒさんがいるなんてね────
背後で聞こえるアサヒさんの弾むような声音を聞きながら、通過おめでとう、と横に座るユウキに話しかける
ゆっくり話したいところだけど、通過が発表されたばかりだ
「おめでとう」
「頑張ってね」
「また会おう」
次々とユウキに話しかけられる中に、「2次予選に向けて、また一緒に練習しよう」という声が聞こえる
立ち上がり、背後を振り返る
「お久しぶりですアサヒさん
まさかここにいらっしゃるなんて、びっくりしましたよ」
ユウキは、今度は一緒に予選に通過したであろう外国人から次々と声を掛けられている
アサヒさんがなぜここにいるのか探りを入れておこう
「それはこっちのセリフだよ、シゲルくん、だったよね?
IDカードまで持って、この席に着席できるなんて
君って何者?ピアニストではないよね?」
「親戚にラウム関係者がいまして…」
急遽、依頼して発行してもらった僕のIDカードには、しっかりスポンサーと記載されている
さっさと手の内をさらけ出しておいた方がいいだろう
「…なるほど。僕も挨拶しなければならないお相手だったんだね
ラウムの来年の奨学金に応募させてもらおうと思っているから」
叔父の経営する企業、ラウムは音楽とは関係ない業務内容だけど
文化支援ということで、音楽家や美術家を目指す若者に対して奨学金プログラムを提供している
このコンクールにも奨学金を出している数名がエントリーしていたことで、あっさりとIDをゲットできたわけだ
「ところで、なぜアサヒさんがここに?
留学先はフランスでしたよね?」
「それはもちろん、ユウキをサポートするためだよ
知ってると思うけど、僕はユウキと同門でね
前回大会で僕は入賞しているから、力になれるんじゃないかと思って来たってわけ…
予選通過をお祝いして、ユウキとディナーでも一緒にしたいと思っていたけど
シゲルくんがいるんじゃ、とても僕の出る幕はないね」
「そうですね、遠慮していただけると助かります」
それを聞いて、離れた所で話しているユウキに聞こえるくらいの声で話しかける
「ユウキ、明日はフリーだけどもちろん練習するだろ?」
振り返ったユウキは笑顔だった
「もちろん!」
「じゃあ、練習室予約している時間に待ち合わせな」
そう言ってサッとコートも握り直して、ホール出口に向かって大股に歩きだしたアサヒさんに
ユウキが慌てて駆け寄る
「アサヒくん、ありがとう」
「弟弟子が頑張ってんだから、これくらい当たり前だろ」
笑顔でユウキの艶のある黒髪に触れ、ポンポンと頭を撫でる
「また明日な」
僕に目を合わせることもなく去っていく姿
まるで、お前なんかの出番なんかないと言わんばかりか────
17
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる