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第一章 出会い編
第46話 大夜会②〜恥知らずな親子(前)〜
しおりを挟む王城に誂えられた会場に、煌びやかな衣装を纏った紳士淑女達。
奏でられる心地良い緩やかな旋律の音楽が集う人々の耳を楽しませ、
贅を凝らした美食の数々が舌の肥えた者達を唸らせる。
そんなこの世の楽園の中にあっても、兎角人間というものは争い、競い、傲ることをやめられない。
家の格を見せつけて他者を貶める者。
優れた容姿や家柄に媚び諂う者。
朗らかに話すその裏で、侮蔑と嘲笑を浮かべる者。
親しい者だけの集まりならいざ知らず、この『大夜会』にはこの国に仕える貴族全てが招待されている。
その上他国から特別に招待を受けた王族や皇族が参加するとあれば、上位の権力者との繋がりを求めて笑顔の下で争奪戦を繰り広げる。
他者の不幸は蜜の味、幸福は嫉妬・妬みを受けるが必然。
どのように降りかかる害意を躱し、誰と繋がり、どのように華麗に取り繕い、何を得るか。
荘厳で、華麗で、美しく。
表では清廉さと誠実さを押し出す一方で、裏に一枚も二枚も違う顔を持つ。
それが貴族であり、権力者であると言ったのは、何という作家だったか。
2年に一度開かれるこの催事の場で、
今宵もまた、集う権力者達の苛烈な権力闘争が幕を開けるのだー…
………………………………………………………………………………
「……エディお前、作家でも目指したほうがいいんじゃねぇの?」
「へ?何すか編集長、藪から棒に?」
「お前なぁ…何を書き殴っているのかと思えば、出だしからして暗いし黒い!!
しかも所々口に出してんぞ。
いいか?俺たちゃあくまで記者として特別に大夜会に参加する身だ、権力闘争だの裏の顔だのと身を滅ぼしそうな事なんぞ書かずにこの催事がいかに素晴らしいものかとか、友好国の王族皇族の参加者への賛辞とか書いときゃいいの!!」
「う~ん……それはちょっと違うんでないっすか?だって俺ら常日頃下位貴族の失態とかどこぞの商家の後ろ暗い財源とか、そんな記事ばっかり書いてんじゃないっすか~」
「馬っおま…っ!……声でけぇんだよ。
そんなのはなぁ、ある程度安全が確保できる安全地帯と余裕あってこそだろうが。
確かにここは情報の宝庫かも知れんが、同時に存在する全てが地雷原なんだよ!
知らぬ間に消されたくなきゃ大人しく当たり障りのない記事でも書いてろ!」
「……へ~い」
面倒な仕事は下っ端に任せた!と言わんばかりに浮き浮きと食事が用意されている場所へと向かう上司を胡乱げに見送りながら肩を竦める。
今回の招待に合わせて送られてきた分不相応な衣服に身を包んだ俺、エドモンドは編集長と一緒にこの大夜会へと参加をしていた。
といって、お貴族様達と会話するわけでもなければ、ダンスを踊るわけでもない。
只々この煌びやかな催事の素晴らしさを参加できない一般市民に伝える、所謂広報役としての招待である。
先程も編集長に念押しされた通りの役割な訳だが、そんなことは承知の上でなおおかしいと思っているのも事実なのだ。
何故なら自分の職場はそれなりに歴史が長く、これまでにも幾度となく参加を申請したことはあれども実際に出来たのは今回が初めて。
断られた理由もゴシップ性が高い、身分ある人間の醜聞をを取り上げているからといったもので、今なおその報道方針に変更のない自分達が今回に限って、それも城側から特別に招待されるなど疑わしいにも程がある。
まるでこの催事で記事になりそうな何かが起こる予定があるかのようなー…
先程の書き殴りを内ポケットにしまいつつ、そんなことをつらつらと考えていると。
ざわ……
会場が騒ついたのを感じてそちらに視線を向けた。
次いで女性の耳障り且つ甲高い声が、辺りに響いたのだった。
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