出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第5話  後宮内潜入

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後宮ー……
ここは現在、正皇妃の意向により集められた多くの令嬢と
それらが引き連れてきた侍女達で満室状態。
唐突に部屋を埋め尽くした彼女達の世話役としてこれまた多くの女官が急遽選出され、
過剰な人員に不満なく過ごしてもらうためにてんてこ舞いの様相を呈している。

ばたばたと多くの女官や侍女達が行き交う中を慎重な歩みで進む女が一人。
すいすいと行き交う女官や侍女達の間を縫うように進むその様は酷く優雅にすら感じられ、辺りを取り巻く忙しなさとは一線を画していた。
いやそれどころか、すれ違う人々に認識すらされていない。

気付かずの魔法
それによって周囲から認識される事がないのだ。
故に彼女は、シェイラは誰に煩わされることもなく、
思うがままに移動しては会話の内容や人間関係を見聞きしながらメモをとっていった。
どうやら滑り出しは順調のようだ。


シェイラは現在、後宮へと魔法を使って潜入して内部の人間の調査をしていた。
モリーの手引き書における【その1】である。
一応不測の事態、魔法が解けてしまった場合を想定してその装いは侍女のそれだ。
100もの令嬢の調査とあって、当初出だしから困難を極めるかと危惧していた調査は
これまた驚く程簡単に進んだ。
というのもー…


『全く、○○家のお嬢様には困ったものだわ!!
お気に入りの香油でなくば嫌だとかわがまますぎる!
私達なんてそんな高価なもの、使う機会もないというのに』



『そちらはまだ良いじゃない、香油程度で。
私達なんかもう大変よ!
ほら、○家のお嬢様と私達が担当の○○様はお家から性格からして反りが合わないでしょう?
だから顔を合わせる度に喧嘩するのよ。
やれ衣装が見窄らしいだの化粧が濃いだのと嫌味ったらしいったら』



『はぁぁー…問題は彼女達に付いている侍女達だわ、あれは酷い。
“自分達は皇帝陛下の婚約者候補の高貴なお嬢様に仕えているのだから
洗濯や食事の手配のような雑事は女官達がやって当然!”なのですって!
まるで自分達まで候補の一員だと言わんばかりの偉そうな物言い、
仕事もろくにやらないし……。
特にあの○○とかいう侍女は最悪だわ!!
いくら公爵令嬢の○○様の侍女だからって
好き放題こっちに命令してくるだなんて何様よ!?』

等と女官達が口々に愚痴りに愚痴っているので、
問題ありな令嬢や侍女の名前を容易に把握する事が出来たのだ。
中には今回の婚約者選定に後ろ向きな令嬢や我関せずを通している令嬢の名も上がっているため、それらを全てメモしていく。

あらかたメモに留めて情報を整理すると、
今度は実際に上がった名前の令嬢の顔を把握するためにある場所に足を向けた。
女官達の話では、部屋で過ごしている以外の令嬢は皆日中、
宮内に存在する談話室へと集っては交流という名の貶し合いをしているらしい。


シェイラが現場に到着すると、
そこでは文字通り貶し合いの真っ最中。
令嬢達の中ではすでに有力貴族家の令嬢を筆頭に
派閥に似たものが形成されてきているようだった。


一番目立っていたのは、カサンドラ・クラン・レーギル公爵令嬢。
金髪をボリューム感たっぷりに巻いた吊り目気味の女性。
かなり多くの令嬢の取り巻きを従えて、他の令嬢達を見下し嘲笑していた。
ー…典型的な悪役っぷりであり、シェイラは思わずロザベラとミラベルを思い出してしまった程に言動がよく似ている。

そしてカサンドラ嬢に食ってかかっている令嬢が、レミル・ロド・ラクレス男爵令嬢。
ふわふわのウェーブがかった茶色の髪をした小柄な令嬢で、身分を傘にきて身なりを貶すカサンドラ嬢にキャンキャンと言い返している。
その小動物めいた容姿と相まって、まるで威嚇し吠える子犬のようだ。

もう一人、先の二人の争いに我関せずと部屋の隅で静観しているのが
おそらくルミエス・クラン・エヴァンス公爵令嬢。
淡い水色の長くまっすぐな髪は結われる事なく背中に流され、派手な二人とは違い、上品な装いで静かに紅茶を飲んでいる。
その隣にはやや年嵩の侍女が、小馬鹿にした視線を周囲に送りながら佇んでいる。
女官らの会話に出てきた件の高慢な侍女だろう。


(……なんと言いますかこれは、……混沌カオスですわね)


交流を図るための談話室で、何とも見苦しい限りだと呆れかえるシェイラだったが、
しっかりと彼女達の顔と名・為人を脳内に記憶するのを忘れない。
会話の内容から他の令嬢達の関係なども記憶し、
その場を辞した後、部屋へと篭っている令嬢達の確認を済ませると、
早々に後宮を後にする。

これ以上粘ってみたところで他に収穫はなさそうだからということもあるが、それよりも。


(態々こちらから動かなくても、はすでに撒かれ始めているようですしね)


例の女官長ー…ザムアが一部の女官達にシェイラのことを触れ回っているのを目にし、シェイラは手引き書の【その2】へと事態が勝手に進み始めていることを確信したからだ。


(さてかの令嬢方はどう動くのかしら?)

後は撒かれた餌に、犬達令嬢達が食い付き行動を開始するのをただ待てばいい。



(ー…あらやだわ、私ったら。
彼女達を犬呼ばわりするだなんて……はしたなかったかしら?
これは手引き書モリーの影響かしら…)



口元にうっすらと笑みを浮かべてルードの居室へと戻るシェイラの足取りは軽かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回の更新は20時頃を予定してます(о´∀`о)
※補足説明:帝国では名前と家名の間に貴族位が入ります。

クラン→公爵
デル→侯爵
クロム→伯爵
ルド→子爵
ロド→男爵

因みに皇帝はカロル、正皇妃はカロリアです。
ルードの場合:ベルナード→名前
      イグニス→母方家名
      カロル→皇帝位
      カリスティリア→家名

となります。ご参考までに(*^ω^*)
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