出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

幕間  鉄の侍女の最低で最高の朝

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※ページ末におまけ会話あり。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



side:モリー



『……では、後は頼みましたよ』

『は、はいっ!!侍女長殿っありがとうございました!!』

『では失礼致しますわ』



(全く、この程度の案件もまともに対応できないとは。
…ガルディアス様に騎士達の再教育をお願いしておくべきでしょうか?)


それと侍女ではなく、侍女である。
足早にその場を辞すモリーは現在、大変苛立っていた。
思えば朝からやたらと物事の進みが滞る。
早朝からシェイラ様に付くべく支度をしていれば
珍しいことにメリーがし忘れたという雑事をこなす羽目になり。
それを早急に片付けた後にシェイラ様に持っていく朝のお茶を準備していれば、若手の騎士団員から助けを求められたり。

(白磁宮の入り口で騒ぎを起こす輩など、早々牢に入れてしまえばいいものを…)

先日選定の為に集められ帰宅していった令嬢の親の何人かが、
“娘が部屋から怖がって出てこない、きっと後宮で酷い目にあったに違いない!!”
と、責任を取るよう騒ぎ立てるのを宥めて欲しいだのといった些事に、何故私が呼ばれたのか。
甚だ疑問であるが、呼ばれた以上は仕方がないと対応するべく向かい。

便事を収めた今となってはとっくにシェイラ様の起床時間を過ぎている。
これでは朝のお茶を持っていく時間もない。
早急に戻り、お支度を手伝わねば!と駆け出さぬ程度の早足で皇帝陛下の居室へと向かう。

先日の話し合いでシェイラ様のお側から離れないと宣言したばかりだというのに、なんたる失態だろうか!
全くもって不甲斐ない。
この間にシェイラ様にもしものことでもあらば、
怒りのあまり先ほどの若い騎士団員の首をキュッとしてしまいそうだ。

そうして急ぎ居室前へと辿り着き、自身の身嗜みを再チェックして呼吸を整える。
軽くノックをして入室の伺いをし、返事を待った。
が、
応答が、ない。
念の為にもう一度ノックと伺いを繰り返したものの、結果は同じ。

(もしやまだお目覚めではない…?)

帝国についてからこっち、気が休まらない日々を強いられている彼女のこと。
度重なる出来事とその対応に追われて大層疲労が溜まっているやも…と一瞬居室前から離れようとも考えたが、すぐに思い直して扉のノブに手をかける。
きっと寝ているはずだ、もしくは偶々自分の声とノックを聞き逃したに違いないと何度も考えてみたものの、不安が拭えない。
朝から滞り続けてきた予定。
苛立つ思考。
全てが何か悪いことでも起こるような予感を自身に齎らしている。

(大丈夫…絶対に部屋の中にご無事でのんびりと過ごしていらっしゃるはず…)


自身に言い聞かせて扉を開くとそこはー…


誰もいない、空虚な室内。
無事を念じた主人の姿がないことに、モリーは茫然と立ち尽くした。



………………………………………………………………………………………

背中に冷たい汗が流れる。


真白になった思考を早々に呼び戻し、室内に足を踏み入れ手掛かりを求めて辺りを見回す。
部屋に併設された手洗い場にも姿はなく、クローゼットの中も同様。
しかしシェイラ様用に用意された簡素な普段着用ドレスが一枚無くなっており、
ベッドには睡眠時に着用されていたナイトウェアが畳まれ置かれている。

昨晩確認したテーブル上に置かれた呼び鈴の位置も少しずれていることから、
おそらくだが、とシェイラ様の行動を推測していく。

(朝、起床されて支度の為に呼び鈴を鳴らしたが控え室から私が来なかった為に一人で着替えを済まされ、私を探しに部屋をお出になられた……と。そんなところでしょうか…)


つくづく今日は間が悪い。
自分が控え室を外していた僅かな間に、しかもお一人でどこに行かれたというのか。
色々と不穏な気配があるからと一人での行動は避けるべきであることはシェイラ様も承知の筈なのに。
そして何よりも、
自分がいつも通り職務を果たしていれば避け得た事態だったことに殊更腹が立つ。
今すぐにでも探しに行くべき、いや部屋で待機して帰りを待つべき。
二つの思考が前者へと大きく傾き、
足を部屋の外へと向かわせようとしたその時ー…

入り口に、眉を下げてこちらを伺うシェイラ様の姿を見つけたのだった。


………………………………………………………………………………………


『シェイラ様!!』


主人の前だというのに、思わず大きな声を上げてしまった。
侍女如きが主人に向かって声を荒げるなど、侍女失格なのは重々承知の上でそれでも大声を上げずにはいられなかった。
それ程までに彼女の身が心配だったのだ。

入り口に立つシェイラ様は、しゅんとしてこちらを伺っている。
まるで粗相を母親に見つけられ、怒られるのを今か今かと恐れる子供のようだと益体もなく思いながら彼女に急ぎ駆け寄る。


『……っどちらに行っていらしたのですか?どこも怪我は……無いようですが』

『ご、ごめんなさいモリー。呼び鈴を鳴らしたのだけど来なかったから』


(ああ、やはり)

自分が予想した通り彼女は自分を探しに部屋を出たのだと理解して、深々とため息を吐く。
その殆どが安堵から、しかし一部は心配をかけさせられた事への怒り。


『あれ程一人で行動なさいませんよう念を押しましたのに……
何かあったらどうするおつもりだったんですか!!?』

『……心配をかけて本当にごめんなさい!』


侍女からの叱責だというのに素直に謝罪をするシェイラ主人
無事だったから良かったものの、
もう二度としてくれるなと言葉を続けようとして。


『本当にごめんなさい…あんなことがあったばかりだったから…。
でもモリーに何かあったわけでなくて良かったです』

『シェイラ様……』


彼女が、先日会場で無様に倒れた自分を案じて探しに出てくれたと分かると、途端に叱責の言葉が萎んでしまった。

素直で優しく美しいシェイラ様。
義理の妹はいても、一人で生き抜いてきた自分にとって彼女は理想の妹のような存在。
不遇な環境で育ったらしい彼女を全力で守ろうと心に決めたのはいつのことだったろう。
そんな彼女から、思いがけなくも心配をしてもらったことに、怒っていたことも忘れてほっこりと心が暖かくなるのを感じた。


『兎に角、ご無事でよろしゅうございました。
……こちらこそ朝のお伺いに来れず、申し訳ございませんでした』

『そんな!モリーが謝る必要はありませんわ!!
勝手に一人で行動した私が』

『いえ、元はと言えば私がシェイラ様のお呼びに応えられなかったのが』


私が悪い、いや私の方が!と両者ともに謝り続け、暫くして二人同時にプッと吹き出す。


『ふふふっ!!何だか二人して謝ってばかりだわ』

『ふふ……そうですね…朝から何をしていることやら…』


一頻り笑い合うと、今度こそお茶を持って参ります、と
シェイラ様に告げて部屋を離れることにする。
勿論その際、
すぐに戻ってくるので絶対に部屋から出ないように!と念押しをしたが。
そう告げると分かりましたと返事をしたシェイラ様は、


『…ねぇ、モリー?
モリーが私の本当のお姉様だったら良かったわ。
だってこんなに綺麗で、素敵で、私のことも心配してくれるのだもの』


『……っ光栄でございますわ』


そういってまたもや笑った。
どうにか返事を返して部屋を辞すと、急ぎ控え室へと駆け込み、胸を押さえる。
一部の文官や多くの騎士達に“鉄の女”と評される自分を、
可愛い妹のような存在に“理想の姉”と評された。


(あの言葉だけでこれから一生、彼女に仕えることができますわ)

再度シェイラ様を守るのは自分だと固く心に誓い、
モリーはお茶の支度に勤しむのであった。
鉄の侍女・モリーのこの日の朝は、人生において最低且つ最高のものとなったようだ。



……………………………………………………………………………………

(おまけ☆)








『ニックお前……よりにもよって侍女頭殿の手を煩わせるなんて無謀極まりないな…』

『え、先輩?何か問題でもありました?』

『問題あったか、だと?大有りだ馬鹿者!!』

『あ痛っ!?なんで殴るんすかぁ!!』

『彼女の渾名、知らねぇのか?“鉄の女”だぞ!?』

『ええっ!?あの、陛下肝入りで雇われた出自・年齢共に不詳、
ガルディアス団長すら頭が上がらないって評判の!?
侍女長さんがそうだったんですか!?』

『侍女長じゃなくて侍女頭、な。
…彼女は陛下直属にして文字通り侍女のだ。
自分の手を煩わせる愚かな輩を容赦なく抹殺し、
尚且つ何気に腕も立つ。
………見目も悪く無いからと何人もの騎士達が彼女を舐めて揶揄った挙句、
(色んな意味で)再起不能寸前まで追い込まれたと聞く』

『……あんな華奢な女性にですか?またまたぁ~!!』

『女社会が如何に恐ろしいかを知らん若者はこれだから……。
いや、ある意味知らぬが幸せかも知れんな』

『え、え?』


『お前、暫く配置換えでもしてもらって、
彼女と鉢合わせんよう気をつけた方がいいぞ?
いいか、俺は忠告したからな!!?
……て訳で俺、
暫くお前とは距離置くわ』

『え、ちょっ……はぁ!!?』

『とばっちりは御免だ!!』

『せ、先輩~~~!!?』



………なんて会話が騎士団内であったとかなかったとか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回本編に戻ります!!
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