出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第57話  老人の正体は……

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※複数視点入ります。
シェイラ→オーギュスト視点
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


side:シェイラ




『『『馬鹿野郎(ですわ)ッッ!!』』』

『そうでしょうか?私はあれが最良と信じて動いたまでですわ』


翁が精霊王・オーギュスト様と奥の部屋へと消えた直後、
勝手且つ無謀な行動に出た私に三人から同時に雷が落ちたが、
それに対して私は未だ緊張で強張った声色で冷たく答える。


確かに自分でもやってしまったなと思わないでもないが、
今回ばかりは謝る気も後悔する気も一片すらない。
あそこで前に出ていなければ、
あの得体のしれない老人から手酷い歓迎をされていたに違いないのだから、と。
いずれにせよ害されるのなら退くより前に出るべき!と感じた己の直感を信じての行動を、自分を守らんとしてくれたルードらが怒るのは至極当然とも云えたが、ならばあの時私が前に出ていなかったならばどうしていたのか?とも問いたい気持ちも少なからずあった。


とはいえ。


『…申し訳ありません。少し、感情的に過ぎましたわ』

『いや…俺の方こそ責めるような言い方をして悪かった。
あの老人を前にして咄嗟に動けなかった自分に行動を起こせた君を責める権利はないのにな』

『……こちらこそ申し訳ありませんでした、シェイラ様。私も、精霊王様がついているからとシェイラ様をお一人にしておいたくせにどの口がいうのでしょうかね……主人に対して不敬極まりない発言をお許しくださいませ』

『お二人が頭を下げることはありませんわ?
私が自分の不甲斐なさを悔いて取った勝手な行動。
守られている身分でありながら、軽率だと言われても致し方ありませんもの。
ー…それよりも』




常になく冷たい眼差しを浮かべているだろう私を少し驚いた表情を浮かべたルードとモリーはすぐさま自身らの至らなさを思い出して謝罪の言葉を発し、それに対して些かばかりバツの悪い心持ちになりつつも変わらない声で返す。
視線はオーギュスト様と翁が消えた部屋の奥扉に固定したままだ。


『ああ、二人とも嬢ちゃんに謝るよりも警戒心はまだ解くんじゃねぇぞ』

『『お前(貴方)に言われずともわかっている(わ)』』


そうー…ガド様が注意を促した通り、未だ脅威は去っていない。
精霊王たるオーギュスト様があの老人を相手取ると宣言されたとはいえ、いかんせん老人の得体が知れなすぎる。

(それに……オーギュスト様のご様子も…)

それに、かの精霊王の様子から何やら自分達が知らない事柄がありそうなのだ。
主に…老人の正体について。


遅ればせながら現場に到着し、顔色を青褪めさせる騎士団員達の複数の足音と、息を呑む声が辺りに響く中。
私は勿論の事、ルードも、モリーも、そしてガド様も。


果たしてー

老人…翁とは一体何者であり、でこれらの大事に及んだのか。



彼らが消えた奥の部屋をひたすらに凝視続けるのだった。


……………………………………………………………………………………………


side:オーギュスト




空中をふよふよと漂うようにして惨劇のあった部屋の続き部屋ー…奥の部屋へと移動した我は、扉の閉まる音にくるりと身体の向きを反転させた。
自然、背後に付き従うようにしてついてきた翁なる老人と向き合う形に。
足音なく自身の後ろを歩いてきた老人は相も変わらぬ気味の悪い笑みを浮かべたまま、愉快げにこちらを見つめ、沈黙を守っている。

その沈黙も、こちらが話し出すのを待っているばかりでないことは、我には容易に想像できた。
何故ならー


【ー…して。いつまでその気持ちの悪い笑みを浮かべているのじゃ】

『はて?儂は話があるというからついてきたのじゃが。
そちらが口火を切るのを待って何がおかしいのかのぉ~?』

【戯れるのは止めよ。これ見よがしに惚けよってからに!】



ほっほ!!と歪に笑う老人を、勘に触る笑いじゃと忌々しげに睨みつけ、ふんと鼻を鳴らす。

(やはり、この者…)

同時にその、人をおちょくって不快な気分にさせる様がかつてよく見知った者の態度と大いに重なり、やはり自身の考えは正しいと確信する。
その人物に思い至った時、一度は完全に否定をした。
しかしながら見れば見るほど、観察すればするほどに否定するのが難しくなり、今ではもうほぼ確信しているに近い。
やはりに違いない、と。


『惚ける?ほっほ!何を惚けているというのやら皆目見当もつ』

【グラテア】

『……』

【黙ったところを見るにどうやら確定じゃな…。
久しいのぅグラテア。何百年振りかの】


途端に戯けた口調での会話を止めて糸のように細まったかの老人の目が不穏な光をたたえるに至り、それに比例するが如く口元に弧を描いて不遜な風情で見下してみせる。

そういった態度を表に出すほどには、この者の所業に腹を立てているのだろうと自身の嫌味な態度に自嘲が僅かに浮かぶが、すぐにそれも鳴りを潜める。
寧ろ徐々に声色と表情が自身から抜け落ちていくのを感じながら、
勤めて無感情に、告げる。


【挨拶の言葉も忘れたか?
それとも声の出し方すら分からなくなったわけではあるまい?
もう一度言うてやろうかの。
久しいの、グラテア。
いや……こう呼んだ方が今では馴染みも深いかの……


ー…“”】



『その腐った名で呼ぶのを誰が許した……人間などに味方する腑抜けた偽善者』



色のない声でその名を告げた瞬間、強烈な憎悪と殺意が部屋中の空気を汚染した。


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※久々の更新っす!!
長らくお待たせしてすんません、明日も引き続き更新頑張りますので
お楽しみに~♪
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