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第二章 帝国編
第56話 道化師の愉悦②
しおりを挟む『ほ?』
『シェイラ?!
前に出るな!!』
『シェイラ様!?』
『嬢ちゃん!!馬鹿何やってんだ!!?』
周りの制止も無視して結界を彼らにだけ張り、つかつかと血だらけの室内へと踏み込む。
どうやって姿を消したのか、はたまたヴィーダ嬢を殺した方法もわからない中、
安易に殺した張本人に接近するのは無謀極まることぐらい自分でもわかっている。
それでも、動かずにはいられなかった。
『話からしますと、なにやら私が必要なのでしょう?
隠れていては手に入らないのではなくて?』
『ほぉほぉ……さっきの面白き膜は消えておるのぉ。
いや、お嬢さん、主以外は、といった方が良いか……ほんに、面白き娘よ。
ああ……ますます孫に欲しいのぅ…たった今一人いなくなったことじゃし』
『どの口が、いうのですか(自分で殺したくせに)』
シュルンと突然煙の如く姿を現した翁は、間近で私の顔を覗き込む。
ガド様やルード達が駆け寄ろうとしたのを手で制止して、
眼差しを冷ややかなものへと変える。
いよいよ持って、彼が人間ではない可能性が出てきたが、今そんなことは無視だ。
元より人としての基本的な常識や道徳心を持ち合わせていないような輩を自分は人とは認めないのだから。
きっと彼からみた自分の顔は、怒りに歪んで醜いものとなっているに違いない。
だというのにやはりというか可笑しげに笑みを深めるばかりの翁に、
シェイラをしても殺意が芽生えそうだ。
相手が低身長故に冷え切った眼差しで見下ろす私
それを下から愉しげに覗き見つめる翁
暫しの時間無言で見つめ合った末、翁は再度私へ手を伸ばしかけて止め、今日一番の笑い声を上げた。
狂気の混じった、異様な笑い声を。
ヒィーヒィーと息切れを起こすほどに笑い転げる彼に呆気に取られながらも、
未だ彼の情の無さと残虐さに怒りを残したままであった私は何を笑っているのです?と彼に問う。
『ああ、ああ、負けじゃよ負け!!
折角膜をなくしてくれたんでそのままお言葉に甘えようとも思うたが、…止めじゃ』
『では、大人しく捕まってくださるとでも?』
『ほっ!?いやいやお嬢さん、そうは参らんて。
そうさな、お嬢さんを守っているそれと二人きりで話をさせてくれるならば考えんでも無いんじゃがのぅ』
『…それ、とは?』
『分かっておろうにお嬢さんもお人が悪いの。
そいつじゃよそいつ……ほれ、いるじゃろ?人為らざる存在がそこに』
私の頭のそのまた後ろを指差して笑う老人にため息を漏らすと、
彼が興味を示している精霊王、オーギュスト様が姿を現した。
『ほぉっほ!!やはりおるではないか!!』
『オーギュスト様…』
【やはり、視えておったか】
愉快痛快とばかりにはしゃぐ老人に向け苦々しげに呟き私から離れて室内の奥へと飛んでいくと、
老人はグリンと首を回して精霊王の姿を追う。
最早用があるはずの私には見向きもしていない。
『ほ?どこに行くんで?』
【…話をしたいんじゃろ、それも儂と二人きりで。
早う来んか……それとも、滅せられたいか?】
『おお怖いのぉ~!と、いう訳じゃお嬢さん?』
少しばかりこの場を離れても?と戯けた様子で私に聞いてくる翁に、お好きにしたらいいではないですかと色のない声で返し、オーギュスト様を見つめる。
【心配は無用ぞ。主の良きに計らおう。
ただ少し、儂もこやつに聞きたいことがある。逃しはせんよ】
そう言い置いて翁を連れて奥続きの部屋へと姿を消した二人を、
私は呆然と見送った。
ー…部屋へ消える寸前、
翁が愉悦に塗れた笑みを浮かべていたのを凝視しながら。
後にはジョルダン嬢と敵だった女性の無残な死体だけが、部屋の中に横たわっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※ここ数日作者多忙の為更新できずすんません!!
次回、オーギュストと翁の回入ります!
いよいよ翁の正体が明らかに?
お楽しみに~♪
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