華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる

帆田 久

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出会い〜ツガイ編

14話  ジレウス視点

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(Side:ジレウス)



(あああ……、やっちまったァァ……っ!)

不覚にも獣化の姿がコーキに露見してしまったその日の昼。
現在俺はコーキを連れて馴染みの服屋にやって来ていた。

コーキの愛らしさに即効やられたらしい馴染みの店長(元冒険者仲間の男)に
これまた猛然と着せ替えられているにも関わらずにこにこと笑っているコーキをぼんやりと眺めながら、今朝自身が犯した失態に心中で絶賛悶絶中なのだ。

ーーまず基本的に。
獣化の姿はおいそれと他人に晒すことがない、というのが獣人の常識だ。
その姿をとると理性より本能が勝ってしまうというある意味欠点が存在する。
無論、戦闘に於いては人型より遥かに力が増す為、
積極的に獣化する種族もないではないのだが。

しかし、本能が、勝つのだ。
つまり、不覚ながらコーキに劣情を抱いて一人でゴニョゴニョ……してしまった身として、眠っている彼のそばで獣化のまま眠りについてしまったことは非常~~に!危うかったといえる……色んな意味で。

そもそも。

(くそっ!そのまま寝るつもりなんざ……なかったってのによ…)

ただでさえ強面の自分の、更に凶暴な野生の姿を、
俺はコーキに披露するつもりなど最初からなかった。
(奇跡的に)自身の容貌を怖がられることがなかったとはいえ、
獣姿、それも大型の肉食獣種を前にしたらおそらくその愛らしい顔が今度こそ恐怖に歪むだろうと。
だからこそ獣化自体、するつもりなどなかったのだ。
なのにそれでもその姿をとったのはーー。


眠りについたはずのコーキがガタガタと身を震わせて泣いたからだった。
俺は脳裏に焼き付いてしまったその時の光景を思い返すーー


※  ※  ※



(よしよし、ちゃんと寝ているな)


先に寝ていろと彼を寝室へと追いやり、彼のシャツ一姿に悶々とまたぞろ良からぬ類いの情を抱きかけた自分を皿洗いに逃避することによって何とか振り払った俺は、すやすやと自分のベッドにて眠っている彼にホッと安堵の息を吐いた。
そして人型のまま彼を抱き寄せて一度は眠りについた、のだが……

「……ぃ、……さ、……ぃょ……」

(……ん?)

夜中。
不意に聞こえたか細い声と腕に伝わるかすかな振動に、目が覚める。
元冒険者なだけあり、眠りは常に浅い俺は、
すぐに意識を覚醒して感じた振動の元を探る、と。

「!?コーキ!?」

「……むぃょ……っ」

自分の腕の中でガタガタと身体を震わせて、
虚な目を開いて彼はーコーキは泣いていた。

繰り返し寒い、寒いと繰り返している彼の定まらない視線から、
きっと彼が起きているわけでなく未だ夢の中に意識を置いていることが見て取れた。

しかし笑っているコーキの印象しかなかっただけに、
その光景はかなり異様且つ衝撃的で。
慌てて目を覚まさせようと彼を揺すり、


「おい!コーキお前、大丈夫…」

「…ぁさん」

続いた言葉に、ピタリと揺する手を止めた。

かあさん 寒いよ とうさん 中に入れて
ごめんなさい ごめんなさい
生まれてきて ごめんなさい
寒い 寒い さむいー……

(……なんてこと言いやがる)


寒い寒いと繰り返しながら呟いた彼のうわ言に、背筋が一瞬で冷えた。

母さん?父さん?つまりは華から生まれたと思っていたコーキには
れっきとした両親がいるということになる。
その両親に向けて懇願するのが、“生まれてきてごめん”、だと?
にこにこと己に愛らしく笑むコーキ。
その姿からまるで見て取れぬ闇を垣間見てしまった気がして、
胸の奥がギュウ……と締め付けられる。
寒いと震える彼にせめて温もりをと強く掻き抱いても、
変わらず震え、泣き続けるコーキ。

(……どうすれば、っそうだ!)

獣化すればーー
獣であれば、人間より多少体温が高い。
毛皮を纏う身なれば、彼の寒さも少しは和らぐのではと咄嗟に思い立ち、
急いで衣服を脱ぎ捨てた。

「グルル……」

ゴキ…パキキ、と生々しい骨格変化の音を立てて獣化し、するりと彼の隣へ潜り込む。
一番毛並みが豊かな腹に彼の顔を押し付け、体重をかけぬよう注意しながらのしかかる。
そのままじっと様子を見ていると、
震えていた彼が俺の毛を何度か手でわさわさと探り、

「……ぁったかぃ……」

すりりと頬を擦り付けてくふんと安堵したような息を吐いて、
ようやく泣くのも、身体の震えも止めた。
ぎゅう……と俺の胴に縋り付き、そして徐々に力を抜いて再び安らかな寝息を立て始めた彼に、心底安堵したのだった。


※  ※  ※


ーー結局はその安堵感からスコンと深い眠りに落ちてしまい、
起き抜けの彼に獣化姿を晒してしまったわけなのだが。

(……あんな泣き方、悲しすぎんだろ……)

心の底から己が生まれ落ちたことが罪と言わんばかりに謝罪するなんて……
彼の“両親”とやらが夢の中だけでなく本当に存在するのなら、
あんなことを子供に言わせる時点で親失格だと
俺は心中で、見も知らぬ彼の両親に向けて唾を吐きかけた。

いつか、もっと自分の存在に慣れてくれば。
コーキは自分の身の上を語ってくれるだろうか?
悲しいことを吐き出して、俺に身も心も許してくれる、そんな日がーー

(って身も心も!?何考えてんだ俺!?)

昨夜から今朝までの回想をしつつそんな思考に自分でツッコミを入れていると。

ジレウス、と前方より俺の名を呼ぶコーキの声が。
パッと見やった彼が簡素だけど上品なシャツにサスペンダー付きの黒ズボン、
小さなこげ茶の革靴といった姿で自分を見上げている。

「どう、かな……?」

「おう、いいじゃねぇか!似合ってるぞコーキ」

ちょいと平民にしちゃ上品すぎる、なんて事は勿論言わない。
清楚で可愛いコーキが、同じく清楚且つ上品な衣服を着込む…いいじゃないか!
例え貴族の令息に見えようが俺と並ぶと美少年と野獣だとか、どうでもいい。
つまり服なんて似合っていればいいのだ!

心の中で彼の愛らしさに絶叫しつつ、
さらりと褒めると、えへへ、と照れたように笑った。

彼の背後では
「僕も早くお嫁さんゲットしてこんな可愛い子供を…!!」

とぶつぶつ呟いてクネクネと悶絶している変態てんちょうがいるが気にしない。
気にしないったら気にしない!!(なお、店長は特に漢女な奴ではない)

変態、もとい店長に他数着の着替えと下着類を袋に詰めさせながら、
え、そんなにいっぱい!?と驚くコーキの頭をわしゃわしゃ撫で回す。

「遠慮すんな!これでも結構給料いいし、自分じゃ大して使わねぇ。
これも有意義な金の使い道、大人には見栄張らせろ!な!」

これから俺と一緒に住んでくれるんだろ?



呆気カランとそう告げると、
遠慮から眉を下げていた彼に輝かしい笑顔が戻った。

(うん。
お前はそうやってにこにこ笑っていろ)

片手に買ったもの、片手でコーキと手を繋いで。

でっかい強面の俺と愛らしい少年の組み合わせに
ぎょっと目を剥く街中の視線を無視しまくって、
俺はコーキとのんびり道を歩いた。
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