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出会い〜ツガイ編
17話
しおりを挟む(うぅ……あんな小さな針なんかに。
情けなさすぎる……!)
ぽわんと淡く光る用紙をジレウスの腕の中から横目で見遣りつつ、
自分の情けなさに再び涙がこみあげそうになる。
(“痛い”のなんてもう、慣れてるはずなのに……)
異世界に来てしまって精神が幼児退行してしまったのだろうか?
無論、痛みに慣れていたと言っても好きなわけではない。
大声で怒鳴られるのも
殴られるのも
蹴られるのも、好きではないがもう慣れたはず。
慣れからくる反応のなさに、
親にも、“気持ちの悪い子!”とまで言われたこともあるくらいだ。
なのに針て……
いくら針のような金属物に免疫がないといっても
自分がこれほどビビリだとは、と少しばかり落ち込んでしまう。
どっぷりと落ち込む内心とは裏腹に、
僕を安心させるためにジレウスが自分の指を刺したり、
最後に自分の指を口に含んだのにはとても驚いた。
(優しい人だってことはわかってるんだけど、ゆ、指を舐め…いやしゃぶったりなんて!)
舐めしゃぶられた時指先に走った熱に、
心臓が鼓動を早めたことに、本当は必要以上に動揺していたのだ。
僕は彼以外に自分に優しくしてくれた人も、
ましてや他人と殆ど接したことがない。
だから彼がどんなつもりでそんな行為に及んだのか、
それが子供に対する普通の大人の行動なのかを判断できない。
でも……
去らない動揺を悟られたくなくて
でもこの与えられる温もりからも離れ難く。
悶々としている間に、どうやら検査の結果が出たようだ。
紙を覗き込もうと身を動かすジレウスに倣い、
同様に紙を覗き込む、と。
(わぁ……!!)
光の収まった紙の上を、黒い文字がクネクネと踊っていた。
見たことのない不可思議な光景に興奮を隠せず身を乗り出すと、
段々とくねるスピードが落ちていき、明確な形となって紙に落ち着いた。
しゅうぅぅぅ…と焼き付くように定着したその文字が表した僕の種族はーー
「神華族……」
「嘘っ!?」
「……やはりか」
最初が僕、次に横から覗き込んでいたうさ耳さん、そして最後がジレウス。
三者三様にそれぞれの感想が漏れる中、
僕は自分の種族について考えを巡らせた。
(華から生まれたっぽかったから華族であればわかりやすいんだけど…神華?)
それに何やら驚いて耳をぴーん!と立てたうさ耳さんといい、
予想していたがと言いながらどこか顔を曇らせたジレウスといい。
思ってもいなかった周囲の反応に不安が頭を擡げる。
(そういえば出会った時も……)
ジレウスは“神華が咲いている、まさかお前が?”みたく言っていた。
そして酷く驚いていた。
もしかしてあまり良くない種族なのだろうかと不安げに彼を見れば
「ん、どうした?」
「種族……何か問題、ある?悪い種族?」
「いやそんなこ」
「ななな何言ってるのコーキ君!?神華族だよ神華!!
これは伝説のしゅぽゲェッ!?」
「少し黙ってろくそウサ」
「しどいッッ!?」
ジレウスの言葉を遮って興奮したように僕に詰め寄ってきたうさ耳さんに怯えると、
すかさず彼が横っ面に鉄拳制裁。
あえなく撃沈したうさ耳さんをちらとも見ることなく僕を覗き込み、
「大丈夫だコーキ。
特に問題があるとかそんなんじゃないから安心しろ。
ただ」
「ただ?」
「いや、ちょいと特殊で希少な種族でな?
今はもう絶えて久しいと言われていた種族なもんだから少し驚いただけだ。
だからなんの問題もない」
あとはギルドカードに種族名を追加登録すればそれで終わりだ、と簡潔に告げた。
「さっさと登録しちゃって飯食いに行くぞ!」
安心させるようにニカッと笑って僕を抱えたまま紙を手にギルド長室を退室する。
後ろから何やらうさ耳さんの“ま、待ってギルマスぅぅぅ!!”って声が聞こえたような……
でもジレウスが何も反応してないから放置でいいんだよね?
スタスタと階下へ向かう彼に
「…ほんとに、大丈夫?迷惑、ない……?」
辿々しく聞くと、
「だから問題ないって。
……まぁもしも問題あったところで関係ねぇけどなぁ」
“関係ない”
その言葉に、一瞬突き放されたような気分を覚えるも。
「俺がお前を“保護”するって決めたんだ。
ー…お前の種族を知ってなんかしてくる連中なんかに、お前を触らせはしねぇよ」
だから安心して俺と一緒にいればいい
直後のその言葉で、頭が沸騰した。
何があっても僕を守ると、そう言ってくれたようで。
真っ赤になって俯いた僕にくすりと小さく笑うと、
「分かったな?」
「………ん」
「よし!じゃあとっとと片して飯行くぞ!!」
すり…と一瞬僕の頬に自分の頬をすり寄せて、
彼は元気よく夕食に繰り出す旨を宣言した。
色々一杯いっぱいだった僕は、
紙に種族名以外にも記載があったことにまるで気付いてはいなかった。
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