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出会い〜ツガイ編
30話
しおりを挟む(…っ凄い……!!)
森の奥から聞こえた悲鳴。
その方角に向けて、僕を片手で抱えたまま森の中を疾走するジレウス。
その異常な速度と予想外の安定感に、
僕は腕の中で驚愕とともに大いに感嘆・興奮していた。
森というからには当然、多くの木々が不規則に乱立している。奥に行けばそれだけ木の本数も増え、その間隔も狭くなっていく。
道も人が慣らした道から道なき獣道へ。
だけど全く走る彼のスピードが落ちないのだ。
目に追うのも難しいほどの速度で足音すら置き去りにして木々の合間を縫って疾走するのもさることながら、その移動速度で生じる風圧や振動が一切感じられない。
何らかの魔法を併用して走っているのかもしれない
そう思いつつ、ひたすら彼の負担とならないように身を寄せ縮める。
と、(体感では)幾分も経たぬ内に、声が近付いてきた、いや声に近付いた。木々の合間を抜け、少しばかり開けた土地へと躍り出る。
「っ!!」
「こいつぁ……」
少し離れた視線の先に広がる光景ーー
「っごぼ……っ、…ッッ!」
「ヨンギ!しっかりしてヨンギ!!」
「リマシーっ、っさっさとヨンギを引き摺って逃げろ!」
「こっちはそんなに持たない!」
「む、無理よッッ!!体格が違いすぎるし毒が!い、今動かしたら…っ」
「「「グルルルルルルル」」」
「グワァウ!!」
中型の魔狼3体と、
その後ろにて獲物を睥睨する1体の一際大きな魔狼(おそらく魔狼のリーダー)に囲まれた、
若手の冒険者達だった。
1番身体の大きな1人は血を吐き意識不明で昏倒。
その男の抉れた傷口を手で押さえながら泣きじゃくる小柄な羊族女性が1人。
鱗肌・赤毛の男と緑髪の細身な男が
3体の攻撃を必死に防ぎながら女性に避難を促していた。
が、昏倒している男以外の3人も皆が皆少なからず負傷しており、
戦っている2人は特に、満身創痍。
いつ倒れても不思議ではない。
僕を抱えたジレウスが、静かに後退して森の木々の中に戻る。
(え)
何で戻るのと声に出しかけて、真剣な彼の表情に口を噤む。
途中ーーギリギリ魔狼に気付かれないであろうところまで引き返すと、
ヒュンと一足飛びに高い木の太めの枝まで飛び上がり着地。
腕から僕を下ろし、
腰元のポーチから緑色の液体が入った細い瓶を取り出して、僕の頭上からぶっかけた。
「!!?」
「魔物除け、特にああいった嗅覚の鋭い魔物が嫌う匂いがするやつだ。
コーキにとっても少し臭いかもだが、少しの間辛抱してくれ」
「う、うん」
初めて見た魔物にフルフルと小刻みに身体が震えるのを止められない。
必死に隠そうとしていると、
魔物除けの液体に濡れた僕の髪をくしゃりと撫でる。
「……大丈夫、すぐに終わらせる。
だからここで、ほんの少しだけ待っててくれ、な?」
「ー…ん」
ニカリと笑う彼の手のひらに、頑張ってと願いを込めてすりりと頬を擦り付ける。
ひどく擽ったそうに喉奥で笑った彼は、
次の瞬間には木を飛び降りて魔狼と冒険者達の元へと風のように駆けて行った。
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