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出会い〜ツガイ編
33話
しおりを挟む若手冒険者、ジレウスとともに無事町へと帰還を果たし。
冒険者ギルドへと依頼完了・採取素材の提出、報酬の受け取りとまごつきながらも手続きを済ませ、若手冒険者達についての諸事情をギャンギャン吠えるミルドさんへとギルド長室にて説明しているジレウスを待つこと30分。
鬱陶しそうに顔を顰めるジレウスの隣では、ジレウスがギルマス代理である事実を初めて知って真っ青になっている赤毛男性と女性冒険者の姿がやけに目を引く。
「…つまり、コーキ君の採取が終わる頃に森奥から悲鳴が聞こえて。
何事かと駆けつけてみれば彼ら『テグの泉』が追い詰められていたためにこれに助勢したと。
ーーで。
クリスタルホーンラビットを狩りに行ったはずのDランクパーティーの君らが、なぁ~んで森奥なんかにいたのかなぁ?
しかも魔狼と大型リーダー格1体とまともに遭遇?
1人昏倒ともう1人も魔力切れな上に満身創痍で倒れて??
君らなんなの死にたがりなの?
あの森の奥は強い魔物がいるなんてここじゃ常識なのに
自意識過剰なのやっぱ自殺志願者の集まりなの??」
「「………」」
「こっちはただでさえ仕事をしてくれないギルマス代理が。
か弱いコーキ君の護衛のためにギルドを留守にするってんで仕方なーく外出許可してたんだよ!
簡単な薬草採取の仕事で本来ならとっとと昼ごろには戻ってくる予定だったのにこんな時間で!これじゃ結局仕事も明日に持ち越し!
ギルドの治療室のベッドが2つ一気に占拠される!
そして結果的に僕の仕事が増えて今日も残業確定だよ!?」
「おい。話ズレてんぞクソうさ」
「……っだって」
黙り込んだ赤毛の彼とは違って女性が言葉を反論を試みるも、
「お黙んなさい。
己の力量も把握できず危機管理もなくここで下らない言い訳をしようとする人間の言葉など、例え女性の言であっても聞くうさ耳は持ちませんよ」
「…うぅ……」
苛々わっさわっさと耳を動かして冷たく突き放すミルドさんは、
僕の目には初めてギルド長補佐の姿に映った。
さりとても折角ここに来るまで一生懸命話しかけて顔色が良くなってきていた女性(リマシーというらしい)が、その冷たい言葉と表情にまた色を失っていくのを見て、少しだけやるせない気持ちになってしまう。
と、その厳しい指摘に。
黙っていた赤毛の彼がガバリと頭を下げた。
「すんませんでした。
全部、…パーティーリーダーの俺の、判断ミスと認識の甘さが原因です…」
ここに来るまで余程己の無力を痛感したのだろう、
腹から絞り出すような声色で真っ直ぐな謝罪をした。
未だ(色んな意味で)腹の虫が治らないミルドさんがなおも言いつのろうとしたところで、「もうその辺でいいだろ」とジレウスが彼の言葉を遮った。
「こいつらも反省しているし仲間の2人はベッドの住人。
本来の討伐依頼は失敗で、罰金もさっき2人の治療費と一緒に受付で払い終えてる。
こいつら自身が1番今回の件の拙さを自覚しているし、
俺とコーキにも怪我一つない」
「っそれは結果論であって」
「冒険者業なぞ本来結果が全てだ。
過程を後からうだうだ責めたところで反省するやつは反省するし、
しない奴は何度繰り返しても反省しない。
これ以上の言葉は無駄だ」
「……わかりました。
いいですか、次に同様の失敗を繰り返そうものなら即ランクを降格します。
分かったら解散。……仲間の回復が終わり次第、日常に戻ってください」
「は、はい」
「……」
「返事は2人とも揃えて!はっきりと!!」
「「はい!!」」
落ち込んだ様子の女性にも無理やり返事を強く促し、
それを聞いてようやくミルドさんは2人を解放した。
※ ※ ※
何度も頭を下げて退室していった2人をじぃ……と見つめ、
扉が閉まると同時に大きなため息を吐くミルドさんに無意識の内に近寄る。
「…コーキ?」
「あ、コーキ君!!
いやぁ、無事で何よりっす!!
どこも怪我はしてないよね?ヴォーグ代理からなんか無体を働かれたりとか」
「おいテメェ…」
僕に対しては瞬時に態度を豹変させた彼の通常運転な騒がしさに、
青筋を立てて唸るジレウス。
僕は徐に彼のズボンの裾を掴んで、言った。
「あの、ね?
心配してくれて、ありがとう」
「ふふふ、心配するのなんて当たり前じゃないすかぁ~!」
「でも」
「??でも??」
「お姉さん…女の人怖がらせるの、駄目だ、よ?
うさ耳さ……怖い、から」
「!?」
「ブッッ!くく……!」
どうしても一言言いたくてストレートに告げ、さりとても揺れるうさ耳の恐怖が込み上げ慌ててジレウスの背後へと走って戻り隠れると、ミルドさんはショックにパカーッと口を開けて固まり、ジレウスは堪えきれない笑いに小刻みに身体を揺らした。
未だ笑いが引かない中、固まった彼を無視して
「そろそろ帰るか」
ちらりとミルドさんを見やって軽く僕にウィンクを送るジレウスの意図を察し、
一も二もなく頷く。
またぞろ彼が騒ぎ出す前に退散するべし、である。
早々に僕を抱き上げて「じゃあまた明日」との言葉と同時に部屋を退室。
かなりの早さで階下へと歩くジレウスと腕の中の僕の耳に背後から
「な、な、なんで僕が怖いのーー!
コーキ君答え…あ、あれ??コーキ君っ代理もどこぉーー…!?」
との叫び声が聞こえた気がするけど、
(ジレウスがまるで気にしてないみたいだからきっと気のせい、だよね?)
依頼を達成できた満足感と非日常なる一幕を終えて疲れていた僕は、
安全且つ温かい彼の腕の中で、早々に夢の世界へと逃亡した。
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