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3話 SIDE:陸 温かい場所
しおりを挟むふわふわ ポカポカ
(?暖、かい……?)
妙に安心感溢れる暖かさに、
暗闇に溶け消えた筈の意識がゆるゆると浮上していく。
閉じた目蓋は重く、それでもその暖かさが何処から齎されているのかを知りたくて。
ゆっくり。本当にゆっくりと目を開いた。
明るい部屋
年々低下していた視力のせいかぼやけきった視界に最初に映ったのはー…見知らぬ老人。
「うむ、目が覚めたようだなぁ」
「だ、れ」
かなりの近距離で自分を覗き込んで凝視している老人に声をかけるも、
その声はかすれきっていて小さい。
同時に、酷く痛む喉へと右手を伸ばそうと力を入れた瞬間、鋭い痛みが走り硬直する。
「これこれ!動こうとしてはいかんぞ?
全く、片腕片足共に折れているっちゅうに無茶をしてはいかん」
「折れ?すみ、ま、せ…」
「ああ、ああ、無理に声を出さんでいい。
喉も痛いんだろう?」
その通りなのでゆっくりと小さく頷き、力を抜く。
ほれ、ゆっくり吸いなと差し出された水分を多量に含んでいるガーゼを唇に当てられ、
ちゅぅ…とそれに吸いついた。
妙に乾いた口腔内を濡らす水はとても美味しく感じられ、夢中になって何度も吸う。
次第にはっきりとしていく思考。
ぼやけながらもある程度鮮明化する視界。
どうやらここは天国でも地獄でもなく広い部屋の中で、
この老人は神様ではなく白衣を着込んだお医者様らしい。
都合の良い夢でも見ているのでは?
そんな考えが一瞬過ったものの、
全身ー特に右腕と左足から発せられる鈍く重い痛みが、これは現実であり自分が辛うじて生きていることを訴え示している。
あの闇に意識が溶けた瞬間に死んだと思っていたが、どうやら未だ生きてはいるようだ。
良かったと安堵が半分、残念と落胆が半分。
自身が寝かされているベッドの横でせっせとガーゼを片す年老いた医者がそれを耳にしたらさぞ憤慨することだろう、と先ほど身動いだだけで陸を叱った彼の様子を思い出し、僅かに潤いが戻った口が笑みを象る。
尤もその笑みも疲れから長くは続かず、
医者がこちらを振り向いた頃には元の無表情へと戻っていたが。
しかし確か自分は、山の中を彷徨った挙句、何処からか転げ落ちた筈。
こんな空調の効いた暖かな部屋の、広く清潔なベッドなど知らない。
一体ここは何処で、誰が自分をここへ運んで医者まで手配してくれたのか。
問おうにも上手く動かない口がもどかしい。
仕切りに視線を彷徨わせて口を開閉する自分を見て何事かを察したのか、
「おおそうだ、無事目を覚ましたことを小僧に言ってこなければな。
なに、少しばかり外すがのんびり休んでいればいい」
「誰、に?」
誰かに自分の目覚めを知らせるため退室しようとする医者に問うと、
この部屋の主だと簡潔に答えが齎される。
かなり歳を召している筈のその医者の足取りは存外軽く、あっという間に退室していってしまった。
しん、と静まり返った室内。
痛みと疲労は相変わらず、というより寧ろ増しており、折角持ち上げた筈の目蓋が再び重さを増していく。
(誰なんだろう、僕を拾ってくれたのは)
姿を見ていない以上全く見当は付かないが、それでも。
(迷惑は、もうすでにかけちゃってるけど出来れば…優しい人だといいなぁ)
自分などを拾ってくれたのだからきっと優しい人なのだろう。
それでもそう願わずにいられないのはきっと。
また“捨てられる”にしてもその方が幾分かは、救いがあるような気がするから。
目蓋に再び視界が遮られることに抗うこともできず、
遠くに荒々しい足音を聞きながら、
心地よい微睡の園へと陸の意識は旅立っていった。
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