捨てられたものと拾うもの〜空虚な獣は眠り姫を渇望し囲う〜 

帆田 久

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6話  SIDE:道鷹  早く顔が見たい

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※残酷描写(強)があります、というよりほぼそれしかありません!
要注意!!

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「いぎぃぃぃッッ!!か、あああぃたいいだいいだいぃぃぃああああ!!」


「はいはい大人しくしましょう?でないと、ほらまた」

「あああぁぁあぁぁあぁあああああ!!」


「ああうるせ。ほんっとコイツうるせっす、安曇補佐」

「仕方ないでしょう堪え性のない屑なんですから」


多分に恐怖と痛みから迸る絶叫と部下2人の淡々とした口調で交わされる会話を、
どこか冷めた表情でじっと目視しながら部屋の壁に背を預ける。

正直、既に飽きていた。
屑に嬉々として簡素な拷問を加えている部下にも、
手足の爪とそれらの指を全て失った程度でわめき泣く矮小極まる男にも。

初めこそ自分自身の手で制裁を!と柄にもなく意気込んでみたはいいが、
先ほどから繰り返されるあまりの代わり映えのない光景に、
もう別にどうでもいいかな、との考えに傾いていく。
それどころか。
この時間ですら、こんな屑のためにこんなに時間をとること自体が無駄ではないかと白けた気分にすらなっている。
こんな無駄な時間を過ごすくらいなら……

(さっさと帰宅して陸を目覚めるのを隣で見守っていたい)

長年身体に蓄積され続けた疲労や負傷が要因で起こる断続的な発熱により、未だ目覚めることのない陸。

こんな、煩く喚き汚い腐った血と臭い水分を垂れ流す男と
その関係者を嬲り殺すより…


「早く顔が見たいなぁ、陸……」


ぼそりと小さく小さく呟いたその声は、何故か思いの外大きく反響して部下達と陸の書類上の兄である海斗の耳へと届いてしまう。

先ほどまでの騒がしさが嘘のように、静寂が室内を包む。

と、唐突に。
苦しげで、その癖こちらを侮蔑しきった嗤い声が呟きの代わりに反響した。


「何がおかしいんだ、塵」

「くっくぐぅッ………ってぇ。
何がおかしいかって?
おかしいさ!何もかも!!
あんなッ…っあんな無能な淫乱!
泣きながら上司と取引先の相手にまた開いて腰振って仕事を恵んでもらってた糞野郎の顔が見たいとか!!
くひっ笑えるわ!!
そ、それにさっきも自分の物~とか言ってたし結局のところあんただってあの淫乱に欲情して絆されたクチだろ?
アハ、あんな貧相な身体の糞ガキのどこに欲情する余地があるのか
是非とも教えて欲しいもんだなぁ会長さんよぉぉッッ!!」

「……歯、全部抜きますか」

「っとにうるせ。会長、もうって良いんじゃないすか?」


部下の2人が奴の物言いに顔を顰めてもう殺しては?と問うてくる。
しかし自分でも驚くほどに、男の暴言に激昂を感じない。

冷めた目で男を一瞥すると、確かにもう良いかもなと呟く。


「安曇。あったろ。こいつはそれに浸けろ。
こいつのは必要ない」

「ああ、あれですね。
良いですねぇ、片付け要らずで助かります」

「おい芝、先に上行って車回してこい。
安曇はそれが終わり次第馴染みの奴らに他の部屋でばらし済みの中身、渡してきてくれ。
数はそこそこあるようだからそれなりに値はつくだろ」


面倒だったら羽柴(地下に案内したスーツの男)に任せても良いぞと告げ、その言葉に恭しく頭を下げて良い返事をした芝と安曇を一瞥し、男に背を向ける。

先んじて退室していく芝の背中を見送りながら、
一拍遅れて己もまた退室すべく扉へと向かう。

後ろから、再びの喚き声。

「ちょっ……テメッ無視してんじゃねぇよ!!
なんだ?図星刺されたからって今更部下に全部任せて逃亡ってか!?
屑とか塵とか言ってるあんたの方が屑だろこの犯罪者!!」

「犯罪者、ねぇ。
お前だけには言われたくないな?」

「はぁ??!」


安曇がの支度を整えているのを横目で確認しつつ、
その準備を待ちがてら、最後に答え合わせとネタばらしをすることにした。


「俺が。この俺が、さっきの調査内容以外に知らないと。
本気で思っているのなら本気でおめでたいな。
さっき貴様が言った、陸が淫乱だの上司や取引先相手に身体を使っただの。
全部、お前が仕組み、陸に強制したことだろうが」

「!!な、何を証拠にぃ」

「証拠なんぞいるか。事実を事実と言って何が悪い?
だがまぁそんなに証拠と吠えるんなら教えてやるよ。この地下にはなぁ、他にもいくつも部屋がある。
そして現在それらの部屋は、ー…お前が吠えた上司やら取引先とやらで一杯だ。
他ならぬ奴らから証言も得た。証拠としては充分すぎるな」

「なっ!?」

「加えていうなら、奴らは全ての罪を告白したゲロした後、既にこの世を去っていると思うぞ?」

「何を…何をした、んだ……?」

「さて、な」

思わせぶりに流し見てやると、面白いくらいに歯の根を震わせる。
いよいよもって死を身近に感じてそうなっているのだろうとは容易く予想はつけど、正直何を今更…とも思う。
ここまで語ってやらねば己にもそれが迫っていることを自覚出来んとは本当に愚鈍極まる輩だと侮蔑しか湧かない。

「要は“外側”の余分なモノを剥いで“中身”を専門業者に売り払うんだよ。
そいつがどんな人間であれ、臓器は関係がない。新鮮・健康で病気さえなければそれでいい。

何、どちらにしても最後の最後に奴らは少しだけ罪を清算できたんだ。
に貢献することによってな」


よく病院にポスター貼られてるだろう?
臓器移植待ちの患者に愛の手を!……てな


「ぅあああっ…………げぇぇぇ……」

「おや折角掃除が楽だと喜んでいたのに何吐いてくれてんですか。
会長も最後に手間を増やさないで下さいよ」

想像だけで吐き、安曇に文句を言われる。
ふんと鼻を鳴らしてわざとらしく肩を竦ませてみたところで
男が、ある意味では当然するであろうと思っていた勘違いをした。


「お、おおおお俺も……ま、ま、まさか臓器を抜かれッッ」

「その心配はしなくていい」

「は」


そろそろ芝が車を回してきた頃か、と扉をチラッと見やると。
男に、にこりと妙に凪いだ笑みを送ってやった。


「お前は、臓器を売る価値すらない。
散々の弟を嬲り続けた挙げ句殺そうとした男の臓物など、
家畜に食わせる価値すらない」

「ほ、本家の?何を言っている?お、俺こそが本家の!」

「ああそれも知らんのか。
陸は紛れもなく、亡くなった前妻と四条家当主だった父親との子供だ。
お前は後妻であるお前の母親が余所の種で作った子供だぞ」

「う、嘘だ嘘だ嘘だ!!」

「嘘じゃあない。四条家古参の男が全て把握していた。
後妻に納まり、当主が死んだことをいいことに貴様をさも実子、
前妻に子供はなく陸を当主が何処ぞの余所の女に産ませた子供であると偽ったのだろう。
真実を知っていたものは皆解雇、処分されたらしい。


お前の母親は亡き前妻と当主が結婚し子を授かる6前に一度だけ身体の関係を持った娼婦に過ぎん。それを、陸が生まれてすぐ前妻が死んで幸いと過去に子供を孕ませた責任を取れと強引に再婚を迫った。
運悪く当主自身が死んでしまい、お前の母親に買収されていた陸の叔父がお前を本家長男だと宣言してしまったことが全ての過ちであったと。
当主の死後に即刻解雇された古参の男は心底口惜しそうだったぞ」

「な……な……」

「そこまで思い込んでいることだ。
どうせ再婚を果たす前からお前の父親は四条家の当主だと言われて育ったんだろ?
虚しい男だ。
周囲に嘘で固められてそれを真実と思い込み、増長し、他者を蔑み、貶める。
何も知らない、知ろうともしないお前は、お前の母と叔父にとってはさぞかし出来のいい“人形”だったことだろうよ。
せめてもの情けだ。
人形としての人生に幕を下ろしてやる。

ーそろそろ行く。後は頼んだぞ安曇」

「はい」


「ま、待ってくれ!おれを助け」

「最後に楽しくプールで泳ぐといい。さっぱりするぞ?」



硫酸のプールで、骨まで溶かされればいい

そう呟いて、部屋を退室した。
扉向こうで絶叫を上げているだろう男を振り返ることはもうなかった。
最期を見届ける価値すら感じなかった。
今はただ、一刻も早く。


(陸、今から戻るから…その時は。
今度こそ、目を覚ましてくれよ……)


足早に、地上行きのエレベーターへと乗り込んだ。







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※あと1、2話で完結です!
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