捨てられたものと拾うもの〜空虚な獣は眠り姫を渇望し囲う〜 

帆田 久

文字の大きさ
8 / 13
番外編

我慢は身体に毒・上

しおりを挟む
※道鷹視点

===================================================


とある日。

いつものように部下の運転でマンションへと帰宅の途についている最中。

「……なんだ」

「いえいえ何でも。
会長が陸さん会いたさにどれだけだらしな、締まりのない顔をしていても私は引きませんよ」

「はっきり言ったらどうだ」

「要するに気持ち悪いです」

「…そうか(はっきり言い過ぎだ馬鹿野郎)」

移動中に会社で処理し損なった書類を手に、しかし部屋で待つの顔を思い浮かべて気を散らしていたのをすっかりと見抜かれていることに、こっそりとため息を漏らす。
真面目な顔を繕い書類に集中しようと試みかけ、バックミラー越しに感じる生暖かい視線の煩わしさに早々に諦めて書類の束を傍らの席に放り投げた。
そしてその視線から逃れるように、
横に流れる車窓の景観を見るともなしに睨み付けるのだった。

目を覚ました陸と言葉を交わし、
自分のものになれとの宣言に笑顔で了承をもらってから。
道鷹が最愛を得てから
実に3ヵ月程の時が過ぎた。

元より怪我の治りは早い方なのか骨折していた手足の骨は既にくっつき、
現在は室内で家事をしながら少しずつそれらのリハビリに励んでいる。
もうすでに、室内位は普通に歩ける程にまで回復し、
俺が仕事に行っている間、嬉々として料理に掃除にと勤しんでいる。
しかも嬉しいことに。
最初こそ遠慮がちであった態度も、
お帰りなさい道鷹さん!と今は帰宅時にはにかんだ可愛らしい笑みを浮かべてくれるのだ。
新婚然り、付き合いたての恋人然り
舞い上がるのが世の普通というものではないかとも思う。
ましてや今までなまじ殺伐とし過ぎていた人間関係しか構築してこなかっただけに、
その反動もでかいのだ。

「……」

見知った景色からいって、もうすぐマンションへと到着することが分かり、
知らず頬が緩む。
が、同時にその緩んだ顔は焦燥感も多分に含まれていることを、
果たして運転席の聡い部下は読み取っただろうか?

動けるまでに復調した可愛い陸
全幅の信頼をその目にたたえて自分を見つめて微笑んでくれるのは確かに愛らしい。
愛らしいのだが、いや、愛らしいだけに。
怪我が治るまではと自重していたはずの欲望が、最早抑えが効かなくなってきている。
必死にまだ陸は病み上がりのようなものだ、肉付きも体力も戻っていないと言い聞かせても焼け石に水。
風呂上りで室内をうろうろされたり、身長差も体格差もある彼に下から覗き込まれるとこれでもかと下半身に熱が溜まってくる。

部下も承知のことながら、元よりそんなに我慢強い性質タチではない。
マンションにはベッドが一つしかなく、隣で陸がすやすやと寝息を立てる中、耐えろ自分!とさっさと食ってしまえとで心中で葛藤を繰り広げ、最近は柄にもなく寝不足気味だ。

陸の顔は見たい。しかし、
今日もまた悶々としながら寝返りを打つ羽目になるのだろうか?と僅かながら目が据わってしまうのも無理からぬこと。

いつになく弱気な自分に苛立ちを覚えるも、こればかりは仕方ない。
恋愛について語った本の著者曰く、
先に惚れた方が負けなのだから。

柄にもなくそんな本まで何冊も読破してしまうとは…と自嘲が溜息とともに漏れ出る。

(……まぁ、陸が笑っててくれるならそれでいい)

彼の障害になっていた人間は全てし、焦ることもなかろう。
そう呟いて車が地下駐車場へと滑り込んでいくのを窓越しにぼんやりと眺めた。
なお、優秀なる部下・安曇は彼の零した呟きについては空気を読んで言及することはなかった。




ー無理やり抑え込んだ道鷹の理性が呆気なく消し飛ぶまで、あとわずか。






==================================================

次話、R指定(微)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

処理中です...