閣下は罪人と結ばれる

帆田 久

文字の大きさ
18 / 27

17:不快な帰還

しおりを挟む
※ジルクバル視点

===

知らせを受けて急ぎ屋敷へと馬で駆け帰り、
馬屋へと愛馬を運ぶ時すら惜しんで背から飛び降り、屋敷内へと駆け込めば案の定急な来客の知らせ。
しかも彼女が応接室にて相手をしていると聞いて着替えもせずに応接室前へとやってくれば。

『あんたなんて…あんたさえ現れなければっ閣下は私のものになったのに!!
消えて!消えなさいよ!!』

甲高く不快な怒鳴り声が上がり
内部で気配が動くのを察して伺いも立てずに扉を開け放ち……。

(不快だ)

実に不快な部屋の様子が目に飛び込んできて、


「私の屋敷で何を騒いでいる」

押し殺し切れないほどの怒気を纏った声が口をついて出ていた。


===


凛と佇む自身の番の前で彼女を庇うように立つ若手のメイドとメイド長
そのメイド長に躊躇いなく手を振り下ろしているジノリ侯爵令嬢
両者立ち位置は違えども怒りを宿した表情
つまり侯爵令嬢が手を振り下ろそうとした本来の相手は……

(本当に、不快極まる)


俺の突然の登場でピタリと動きを止めた両者の表情の変わりようは実に正反対だった。


「閣下!!ああ……っお会いしとうございましたわ!!」

振り下ろしかけていた手を下ろして素早く駆け寄りを作って媚びた上目遣いで俺を見上げる侯爵令嬢。

対して、“来るのが遅い!!”と非難轟々でこちらを睨み付けるメイド長・ララ。
そしてディーは…少しほっとしながらも不安げな表情。

(ああ、そんな不安な表情で……安心させてやらねば)

静養中では見られなかった彼女の美しいドレス姿に
一瞬見惚れながら彼女に駆け寄ろうとし…

「ねぇ閣下?今日は登城されてたと伺いましたのにどうしてお戻りに?
お時間がおありでしたら私と食事にでも!
私、閣下と一緒にお店を見てまわりとうございますわ!!」


自身に擦り寄ってきたに物理的に阻まれて盛大に眉を寄せた。
どれほど自身に自信があるのか、やたらと胸部を押しつけて無遠慮にしなだれかかってくるのが不快値を爆上げしていることにも気付いていない。
しかも。
自身も嗅覚鋭敏な獣人であるはずなのにきつい香水を身に吹きつけているらしく、正直言って鼻が曲がりそうなほどに臭い。
自分が先ほどどれだけ巫山戯た真似をしようとしていたのかをまるで理解していない。
どころか全て忘れたように纏わり付くこの生物を害虫以外に表現しようがなく、
今まで侯爵家だからとか、部下の姉だからとかと気を遣って応対していたのが馬鹿馬鹿しくなった。

「ねぇ…聞いていらっしゃいますのかっ」

「ソリュー・ジノリ侯爵令嬢」

「はい?」

「早急に当屋敷よりお引き取り願おう」

「は?」

まとわりついているその害虫の手をベリっと我が身から引き離すと、
さっさと帰れと告げていつの間にやら背後に佇んでいた家令・ルフ爺を呼ぶ。

「爺」

「はい」

「早急にジノリ侯爵令嬢をご実家にお送りしてくれ」

「なっ!閣下、私はまだ閣下と…!!」

「……ああそれから。
後程正式に文も認めて送るが。
侯爵家屋敷に送る際口頭でも、この度我が屋敷へと無断で上がり込んだことや我が家の大切な客人に対して大声で暴言を飛ばして暴力を振るおうとしたこと、誠に遺憾であり強く抗議する旨を当主に

「かしこまりました。
……ジノリ家のお嬢様、こちらに」

「っや…!離しなさい無礼者!!
閣下!何を証拠にそのような!!」

「何を証拠に、だと?笑わせるな」

再び俺にしがみつこうとした手をルフ爺につかまれて喚く害虫の言を鼻で嗤う。

「貴様が我が屋敷の者達が止めるのも聞かずに屋敷へと上がり込んだことは既に家の者らから全て聞いている。
しかも怒鳴り散らしていた声も、何をしようとしていたのかも、
この目と耳で先ほど直に把握した。
それ以前に私…俺は客人である彼女を他人と面会させる許可も出してはいないし予定もなかった。
今貴様がこの場にいること自体が抗議に足る証拠だと何故理解できん?
ーー連れて行け」

「はっ」

激しく抵抗する害虫をさっさと連れ出してくれとルフ爺に頼み、
爺に引き摺られるようにして部屋を退室していく…かと思われた矢先。

「では私は侯爵家長子として国王様に直訴しますわ!!」


害虫は声を大にして宣ったのだー


「…ほう?貴様が、侯爵家を挙げて。何を直訴するというのだ」


よりにもよってー


「私、弟がお父様に報告したことを知っていますのよ?
そこの女が閣下に拾われたこと、拾われた際に罪人用の手足枷を嵌めてたこと。
我がビルスト国の将軍職にある公爵家の当主たる貴方様が!!
よりにもよって他国の罪人を匿っていたことをねぇ!!」


「「「!!?」」」


彼女が罪人であるとー

詳しい事情を一切知らぬ我が家の者達と、この俺の前で。



=========================================

終盤にも関わらず更新が長らく滞ってしまい、すんません!
5月下旬に復帰して以来、急ぎストックの整理や修正・更新作業を随時行なってます。
完結まであと僅か。
是非引き続きお楽しみを!!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

処理中です...