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1 プロローグ
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我がエルヴィン侯爵家が、
カルス家を王族として国の頂と支えることーー今代で六代目。
現当主である私ー…ラギウス・エルヴィンは目の前で繰り広げられる光景に、
吐き気と憎悪の混じった嘆息を漏らしかけ、口内で噛み殺した。
不幸は私と亡き妻との間に出来た子に後継たる息子だけでなく娘もいたことか。
ー否、息子は非常に私に似て妙に賢しく育ち、領地経営もその他他家との交流もそつなくこなすし、
娘は亡き妻によく似た愛らしくも凛とした立派な淑女へと成長した。
私と息子が彼女の愛らしさを手放しがたく
嫁に出したくないという本音以外の不幸などあるものか。
では、娘が生まれた一年後に王妃が男子を産んだことか。
ー否、王族には後継となる王子が必要だ。
例え王妃の遥か三年前に側妃が男子を産んでいようが、
王妃の産んだ男子が第一王子となるのが我らの住まう王国の決まり。
第二王子として王国を支え、
非常時には第一王子となり国の後継を継ぐ存在がいるのといないのとでは国の安定感がまるで違う。
ではー或いはその息子たる王子が、実に残念な存在と成り果てたことか。
…………
………
……否。
1番の不幸は、当時たった5歳を迎えた我が娘に4歳の第一王子が一目惚れし、
王家によって強引に婚約が成立させられてしまったこと。
そして自らが望んだくせに成人の歳を迎える今日まで
ひたすら我が愛しの娘を蔑ろにしてきた第一王子と
それを許し、まして煽る輩を私と息子が放置せねばならなかったこと、だ。
いずれにせよ。
王宮の。
年始に慶事として行われる王家主催の舞踏会の舞台で。
私の大切な娘を巻き込んで愚かな寸劇を繰り広げる愚物とその親よ。
覚悟するといい。
娘が真っ青な顔色でよろりと後退し弱々しく首を振る様を、
愉悦に酔った輩どもが追い詰めようとして一歩前に出たのを機に、隣の息子を流し見る。
怒り狂い今にも愚物どもを切り捨てに突進しそうだった息子・ツヴァイが私の視線へ小さく頷くと、
殺意をその眼差しに上乗せした。
かくいう私とても、きっと同じーいや、それに倍する憎悪を瞳に宿した凶相となっていることだろう。
現に近くで私を仰ぎ見た他家の当主達が、瞬時に我が娘以上に顔を蒼褪めさせて震えているのだから。
口元には高位貴族らしく上品な笑みを
瞳には憎悪と怒りを
激した感情とは真逆に急くことなく、ワルツでも踊るようにゆったりと
息子共々寸劇の舞台へと足を進める。
真っ直ぐに娘へと足を進める中、視界の端に国王他、王族らが揃って入場してきたのを映す。
普段であれば入場の際には声高に知らされ皆彼らへ身体を向けて頭を垂れるが、
あまりに愚かな催し物のせいで読み上げ係が自らの仕事を放棄してしまっているのが笑える。
いつまでも呼ばれぬことに焦れてそのまま入場してきた彼らだったが、
彼ら王族達もまた、困惑に言葉を失い、
国王に至っては玉座に座すことすら忘れて突っ立っている。
ふとその中にあって一人だけー…。
愚物そっくりの笑みを口に浮かべている人物とその背後を目にして、
自身らの忍耐も甲斐があったと息子共々うっそりと笑う。
ーーこれで、ようやく役者が揃った、と。
愚物によって整えられた寸劇も佳境を迎えているようだ。
だからこそ
くだらぬ寸劇を最高の喜劇へと変えてやろう。
きっときっとあまりに面白可笑しくて、観客も演者ら自身さえも
腹が捩れて感涙に咽ぶであろうよーー
==============================================
帆田です、お久しぶりです!
ようやく、味覚が元に戻りました!!
手の痺れも大分マシに……うっうっ( ; ; )
リハビリ中に書き上げた短編です。
興味を持って下さった方は是非完結までお付き合い下さい!
カルス家を王族として国の頂と支えることーー今代で六代目。
現当主である私ー…ラギウス・エルヴィンは目の前で繰り広げられる光景に、
吐き気と憎悪の混じった嘆息を漏らしかけ、口内で噛み殺した。
不幸は私と亡き妻との間に出来た子に後継たる息子だけでなく娘もいたことか。
ー否、息子は非常に私に似て妙に賢しく育ち、領地経営もその他他家との交流もそつなくこなすし、
娘は亡き妻によく似た愛らしくも凛とした立派な淑女へと成長した。
私と息子が彼女の愛らしさを手放しがたく
嫁に出したくないという本音以外の不幸などあるものか。
では、娘が生まれた一年後に王妃が男子を産んだことか。
ー否、王族には後継となる王子が必要だ。
例え王妃の遥か三年前に側妃が男子を産んでいようが、
王妃の産んだ男子が第一王子となるのが我らの住まう王国の決まり。
第二王子として王国を支え、
非常時には第一王子となり国の後継を継ぐ存在がいるのといないのとでは国の安定感がまるで違う。
ではー或いはその息子たる王子が、実に残念な存在と成り果てたことか。
…………
………
……否。
1番の不幸は、当時たった5歳を迎えた我が娘に4歳の第一王子が一目惚れし、
王家によって強引に婚約が成立させられてしまったこと。
そして自らが望んだくせに成人の歳を迎える今日まで
ひたすら我が愛しの娘を蔑ろにしてきた第一王子と
それを許し、まして煽る輩を私と息子が放置せねばならなかったこと、だ。
いずれにせよ。
王宮の。
年始に慶事として行われる王家主催の舞踏会の舞台で。
私の大切な娘を巻き込んで愚かな寸劇を繰り広げる愚物とその親よ。
覚悟するといい。
娘が真っ青な顔色でよろりと後退し弱々しく首を振る様を、
愉悦に酔った輩どもが追い詰めようとして一歩前に出たのを機に、隣の息子を流し見る。
怒り狂い今にも愚物どもを切り捨てに突進しそうだった息子・ツヴァイが私の視線へ小さく頷くと、
殺意をその眼差しに上乗せした。
かくいう私とても、きっと同じーいや、それに倍する憎悪を瞳に宿した凶相となっていることだろう。
現に近くで私を仰ぎ見た他家の当主達が、瞬時に我が娘以上に顔を蒼褪めさせて震えているのだから。
口元には高位貴族らしく上品な笑みを
瞳には憎悪と怒りを
激した感情とは真逆に急くことなく、ワルツでも踊るようにゆったりと
息子共々寸劇の舞台へと足を進める。
真っ直ぐに娘へと足を進める中、視界の端に国王他、王族らが揃って入場してきたのを映す。
普段であれば入場の際には声高に知らされ皆彼らへ身体を向けて頭を垂れるが、
あまりに愚かな催し物のせいで読み上げ係が自らの仕事を放棄してしまっているのが笑える。
いつまでも呼ばれぬことに焦れてそのまま入場してきた彼らだったが、
彼ら王族達もまた、困惑に言葉を失い、
国王に至っては玉座に座すことすら忘れて突っ立っている。
ふとその中にあって一人だけー…。
愚物そっくりの笑みを口に浮かべている人物とその背後を目にして、
自身らの忍耐も甲斐があったと息子共々うっそりと笑う。
ーーこれで、ようやく役者が揃った、と。
愚物によって整えられた寸劇も佳境を迎えているようだ。
だからこそ
くだらぬ寸劇を最高の喜劇へと変えてやろう。
きっときっとあまりに面白可笑しくて、観客も演者ら自身さえも
腹が捩れて感涙に咽ぶであろうよーー
==============================================
帆田です、お久しぶりです!
ようやく、味覚が元に戻りました!!
手の痺れも大分マシに……うっうっ( ; ; )
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興味を持って下さった方は是非完結までお付き合い下さい!
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