拝啓:神様  もういい加減勘弁して下さい

帆田 久

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エピローグ  拝啓:神様 もういい加減勘弁して下さい!!

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「ん……」


久しぶりに、熟睡した気がする。

安っぽい部屋の、薄っぺらいカーテンの隙間から、
眩しい朝の日の光が燦々と射し込む。
まるで長年苦労してきた自分を労い、
これからの平凡な人生を祝福してくれているかのようだ。

そんなことをぼんやりと考えて緩やかに夢の園へ再度旅立とうとしたところで。


(……ん?
、だと?)


感じた違和感に急激に意識が覚醒していく。

(待て。っ待て待て待て待て!!え、なんで俺は)

初期化。
そう、俺は記憶も何もかも、一切合切初期化された筈だ。
それを俺に説明してきた神によって。
だというのに何故。

のか?

嫌な焦燥感が身を包み、じっとりと手の平が汗ばむ。
必死に頭を働かせ、

(そうだ!きっと…きっと遅効性!
まだ効果が及んでなくて、徐々に記憶が薄れてくとかそんな感じの!!)

ご都合主義万歳!!と自身を納得させようと試みたが。

「ざ、残念ながら刃君?
記憶の初期化は…し、失敗してしまった、みたいかな……?」

耳元で恐る恐る囁かれたその言葉によって、
俺のささやかな希望は粉微塵に粉砕された。


勢いよく上半身をはね起こし、かっ!!と目を見開いて辺りを睥睨する。

「……どういうことだ毛玉野郎」


そこにはー…不安げにゆらゆらと毛を揺らす毛玉が、
あはは?と乾いた笑いを漏らして枕のそばにちょこんと座っていた。



※  ※  ※


「うん。
ちょぉぉおっと落ち着こう刃君!ね?ね!?
話し合えば分かるようん!!」

「そうだな話し合おう。
だが話し合った結果、内容が到底納得できるものでなかった場合…。
その身体の毛一本たりとも残さず全部毟り取ってやる」

「の、のおおぉぉぉ~~~!!?」

哀れな叫びを上げる毛玉…神をぎゅむっと鷲掴み、
逃してなるものかと力を込める。

ヒィヒィと泣きながら身体(毛?)を震わせ、毛玉が言う。


「だだだだからおち、落ちちゅいて?!」

「噛み噛みだぞ神様。……言っとくがダジャレじゃねぇから」

「わ、わかっているとも勿論!
そ、それでそのぉ…」

「で。なんで俺は記憶が初期化、改竄されてない?」

「…………」

「おい?……まさか、能力値とかまで初期化に失敗しましたって巫山戯た結末は迎えねぇよなこの話?」

「…………」

「…………」

「…………せ、正解?」

「お前本当に神か毛玉」

「あだだだだだあだだだあだあだだだだ!!」


思わず39回目召喚時に得たスキル『虚手の束縛ゴーストハンド・バインド』で毛玉をぐるぐる巻きに拘束して締め上げる。
やめれ~~!と叫ぶ毛玉を公然とスルーし、
同時に己が未だスキルを使用できることに落胆する。
これで毛玉が初期化全てを失敗したことが明らかとなってしまったからだ!

「っくそ!もう一回、もう一回だ毛玉!!
もう一回俺に初期化処理を試せ!試してくれ!!
そうすれば今度こそ」

「だから無理!!無理だったし今後何度試したところで無理なんだよ~~!」

「……っ何故っ!!」

だから離してぇ~と泣く毛玉の言葉に、悔しさと同時に虚しさが募り、脱力する。
スキルは解除され、解放された毛玉はフゥフゥと息を吐きながらも
俺に説明してくれた。

「…はぁ、あのね?
神であり全ての生けとし生けるものの創造主たるボクとしても大変遺憾なことなんだけど。
どうやら最後の最後で、君は人のことわりから逸脱してしまった、みたいなんだ」

「……は?」

「いや、だからさぁ。
ボクの存在に激怒して魔力爆発起こしたでしょ?
大いなる存在であるボクに向けて、魔力を行使した。
それも魔力の概念なきここ、地球という星…世界の中で。
要はそれが最後の引き金となって」

「なって?」

「君のステータスが人外判定を下しちゃったんだよっ!!
人間だった時ならいざ知らず、ボクの創造物を超えた概念の生命体。
人外となってしまってからは、ボクの初期化は通用しないんだ!!」

「はぁぁあああああああ!!?」

人外?
誰が?
俺が?
(嘘だろそんなん……平凡とは対極じゃねぇか!!)

寧ろ非凡の枠にすら収まらないじゃないかと血の涙を流してがくりと床へ頽れる俺を、毛玉が殊更優しい声で諭す。

「そんなに落ち込まないで刃君。
人と違ったっていいじゃないか!
人間誰しも皆違う性格だし特技もある。
君の異世界召喚だって個性。そう個性だよ君の!!
そりゃあ、この世界で君の保有する力を遠慮なく行使してしまったらそれこそ地球に魔王が爆誕するよ!?
でも、でもさ!!それでもいいじゃない」

「……て」

「…ん?ごめん刃君、よく聞こえなかっ」

「それって結局」

「え」

「お・ま・え・がッッ!!
全て悪いんじゃないかぁぁぁあああああ!!
何?なんなの?!
娯楽に飢えた毛玉はそれほど俺の日常じんせいをアグレッシブ&エキセントリックなもので満たしたいの!?」

「うわわわわわわ!!??」

もうアパートがどうなろうが知ったことか!
煉獄の炎が、雹鉄氷矢が、黒鉄球が、乱れ飛ぶ。
こんなところだけ皮肉なことに神。
奴が再現した部屋はそれらがぶつかってもびくともしやしない。

「くそくそくそッッくそがぁっ!!
これで狭くてぼろくて愛すべき俺のマイホームまで異世界物件じゃねぇか!!
戻しやがれ、いやいっそ俺を殺せ!殺してくれ!!」

「いや無理だから!!
創造主たるボクは生物と名のつく生命体を直接壊せないんだよ!!?」

「知ったことかそんなこと!!
このクソな結末にくそ落とし前つけろってんだよクソ野郎!!
それが神様おとなってもんだろぉが!!」

「ま、まぁ副作用がなかったようで良かったよ!
初期化が失敗したのはすぐわかったんだけど、
それだけが心配だったからね!じゃ、じゃあボクはこの辺で…」

「逃すかぁッッ!!………ん?」


姿を眩まそうとした神を掴みかけ、ふと違和感にピタリと動きを止める。

「え?」

それは必死で逃げ惑っていた神も同様に。

そしてー。


「「あ」」

足元を見下ろして、同時に声を上げた。
主にそこに広がる、真っ暗なブラックホールを目にして。

ずぶずぶ……ずぶずぶ……

足が沈んでいく。
いくら力を入れてもなぜか引き抜けない、
どころか沈む速度を増していくこの底無し沼は……

「ふぁ、ファイトだよ刃君!!
君の新たなる異世界での活躍を、ボクは天界で温かく見守っているよっ!!」


「ふっざけんなよこのくそ毛玉ああああぁぁぁぁぁぁぁ……………」

そんな雄叫びを最後に、
俺はブラックホールへと完全に沈んで消えた。


※  ※  ※


(Side:神)


「……ふぅ、危ない危ない。
にしても刃君君、本当に異世界の住人に愛されてるよねぇ……」

天界に戻ったボクは早速、彼が召喚されたであろう異世界を神のみが使用できるネットワークで検索、画像を取得する。
意外と現代地球の文化・文明に敏感なボク。
今や天界もネットで快適且つスムーズな職務遂行が理想なのだ!

「…えーと、あ。
いたいた!これは、ははぁ今度は邪神として召喚、かぁ。
人外化したからかなぁ?」

画像は勿論快適オンライン。
画面の中では、真白刃が怪しげなローブ集団にぐるりと囲まれていた。
同時に首輪も。

「ふふ。あらら、あれ、隷属の首輪だよねぇ?
馬鹿だな、そんなもの人外たる刃君には全く通用しないというのに。
本当に人間は欲が深い。
…平凡を願う人外というのも存外貴重な存在なのかもね。

刃君、ボクのお気に入りたる君の波乱万丈で愉快極まる人生に幸あれ!」

せめてもの慰めにそう言葉を送り、ボクは画像を消した。

画像が消える寸前、彼がそらを見上げて

「神様もういい加減勘弁して下さい!!」

と悲痛な声で叫んで首輪を引きちぎっていたのを、
欠伸に顔を歪めるボクは見聞きすることはなかった。

今日も今日とて、異世界召喚日和♪
召喚された彼の異世界生活を肴に、人型に戻った神様は惰眠を貪るのだった。


彼がその後無事に異世界より地球に帰還できたかは……また別の話。






〈終わり〉


===================================================

※これにて“拝啓:神様 もういい加減勘弁して下さい”は完結です!!
数日間の集中連載で完結という短編でしたが、お楽しみ頂けたでしょうか?
日々の生活の中、この作品でくすりと小笑いの一つでも零して頂けたなら、
作者にとっても喜ばしい限りです!

ではでは、また他の物語で皆様に出会えることを祈って!!

by.帆田


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