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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第27話 嵐を呼ぶ勇者

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これが噂のアホの子か…。
うん!確かにアホそうだ!

「誰がベヒーさんですか。モスをつけなさいデコスケ野郎。」
「わかったぞ!モスベヒーさん!」
「それだと種族が別のものになってしまいますね。」

ショートコントが始まった。

「と…。賢者様は初めてでしたね。
こちらがアホの子…じゃない、勇者です。」
「おっす!私勇者!よろしくな!」
「あ、あぁうん、よろしく…?」

で、なんかさっき物騒なこと言ってなかった?

「勇者さん、あなたは本当に空気を読みなさい。今はあなたに構ってる場合じゃないんですよ。」
「なんでだ?私はベヒーさんの事を構いたくて仕方ないぞ!構え!かまちょかまちょ!」
「やめてください鬱陶しい。やめ、ちょ、やめろやボケぇえええ!」

キレた。
ヒゲを引っ張られてキレた。

「このヒゲ、手入れ大変なんですよ!?
あなたは毎回毎回出会い頭に人のヒゲをむしろうとしてきて!」

むしられてんだ…。かわいそうに…。

「だって!なんかベヒーさんが嫌がることしたら勝った気になるじゃないか!えいっ。」

あ、むしられた。

「おああああああああ!?
毎回毎回、人のヒゲをむしらないでください!お願いだから!
あとそれはいじめっ子の発想です!!仮にも勇者がいじめっ子の発想はやめなさい!」
「いじめっ子?何を言う!ベヒーさんはそもそもそのいじめっ子の元締めの部下じゃないか!魔王はいじめっ子の総大将と相場が決まっている!
その部下ならベヒーさんもいじめっ子だ!故に問題なし!」

すげぇ発想だ。

「ね?もう見ての通りアホの極みなんですよ。すごいでしょ?」
「うん、すごいね。マジすごい。すっごーい。なにこれなにこれーって言いたくなるくらいすごい。」

そして勇者ちゃんが俺にビシッと指差してくる。

「ところでベヒーさん!この人は誰だ!?
皇族のギルマスの新しい大人のおもちゃか!?」
「その言い回しはやめて差し上げなさい…。
そもそもあの人はショタコンです。
彼は、【大賢者】様ですよ。
最近この世界に来た、なんと驚きの異世界人です。
すごいでしょう?強そうでしょう?ささ、私より彼と遊んでもらいなさい。」

おいいいい!ベヒーモスてめぇおいいいいっ!
さりげに人に面倒押し付けてんじゃねぇぞコラァァアっ!

「ほほう…。大賢者……。なるほど!つまり貴方は童貞だな!!」
「なるほどじゃねぇよ!童貞じゃねぇよ!彼女もいたよ!!一回だけやったよ!!傷えぐるなよチクショウメェエッ!!」

魔女さんと盗賊ちゃんが流石に冷や汗を流し始めた。

「あ、あのう…。元気なのは大変結構なんだけど勇者くん?私は大賢者さんとお話があるので、お願いだから静かにしてもらっても良いかな…?」
「私も大賢者と話があるぞ!勝負だ大賢者!
魔王に会いに行ったら、もっと強いやつと戦って勝ってから来いと追い返されたのでな!
貴方も強そうだし私と戦ってくれ!」

ベヒーさんの方を見るも目を逸らされる。
魔女さんの方を見ると頭を抱えられた。

「元より君をお披露目するためのランクマッチを行う予定はあったんだ。明日、それをやるかい?
私とここの猫を倒せる君、そしてその大賢者を勇者は倒せるのか…。みたいな感じで…。」
「おぉ!すごいなぁそれ!私は大賢者を倒すぞ!そうしないと魔王が戦ってくれないからな!!」
「て言うか貴方…。魔王様に追い返されたんですか…。確実に強い貴方を魔王様が戦いたくないから追い返すとはよっぽどですね…。」

そして勇者ちゃんがえっへんと胸を張る。

「そうだ!すごいだろう!だから、ベヒーさんをあと10回くらい殺して完全消滅させようと思ってな!」
「やめてください。はぁ…というわけで大賢者さん…。申し訳ございませんがこちらのアホの子に付き合って差し上げてください…。
魔力が欠乏しないように注意していただきながら…。」

と言うと、魔女さんがふふふ…っと妖しい笑みを浮かべて謎の青い液体の入った瓶を机に置く。

「そこは心配しなくても結構だよベヒーモスさん。我らが賢者くんの為に、エナジードリンクを用意したからね!これで彼が魔力欠乏症を発症する前に魔力を補給できる!」

おぉ!ありがたい!!主成分とか色々気になるところではあるけど!!

「ただし副作用でいろんなところが元気になる!!」

それは困る!!ん……?

「おい、魔女さんまさか……。」
「さっき倒れてる間に飲ませておいたよ♪
すごい効き目で私もビックリさ♪」
「おいいいいい!魔女さんおいいいい!!」
「ま、結果オーライだね。」

 盗賊ちゃんが呆れている。

「とりあえずご主人様はすごく疲れてるしまだ本調子じゃないんだ。
今晩は休ませてやってくれよ勇者とやら。」
「うむ!わかったぞ!セクシーなロリっ子ちゃん!では、君を代わりに触らせてくれ!」
「ダメだこいつ!色々と危ない!
オレも初めて会うタイプのアホだ!」

盗賊ちゃんが逃げようと身構える。

「鬼ごっこかいロリっ子ちゃん?受けて立つよ…。」
「冗談言うなよ勇者さま…、オレは今すぐアンタから逃げたいんだよ…!」

盗賊ちゃんは影を使って勇者ちゃんの背後へ移動しそのまま逃げようとする。

が、勇者ちゃんは目にも留まらぬ速さで盗賊ちゃんを捕獲した。

「うーん…。この少女の独特のお腹…、くびれかけの腰付きに肉感のある尻…。膨らみかけの乳房…実にたまらないな!」
「うわぁぁああっ!!オレがせめてご主人様のためにと取っておいたはじめてのお触りがぁぁぁっ!!
お前…、ぶっ殺す…!」

割とガチの目だ。

「はいはい、やるとしても練兵場か明日にしてくれたまえ。
私も寝ずに色々とやったから疲れているんだよ…。そろそろ眠りたいのでね…。」
「はははは。では魔女さん、私もあのアホの子に捕まる前にお暇させて頂きますね。では、失礼…。」

ベヒーさんは黒いブラックホールのような空間を生成しその中に入り消えてしまった。

「むぅ…ベヒーさんには逃げられたか…。
まぁ良い!大賢者!明日は私と勝負だ!
勝ったら好きなだけおっぱいを揉ませてやる!」
「それは結構なんで、負けたらそのままお引き取りください。」
「そうか!わかったぞ!では、エロ奴隷2号になってやろう!!」
「わかってねぇじゃねぇか!あと、盗賊ちゃんはエロ奴隷じゃない!立場はそうかもだけど、俺は決して手は出してない!!」

ほんとこの子なんなの…無駄にテンション高いから疲れる…。

「ふむ、では私が君に勝った場合は君のそのお腹を揉ませてもらうぞ!!」
「地味に痛いところついてくるね…。
そうなんだよ、30近付いたら急にぽっこりしてきてさ…。
絞らなきゃとは思ってるんだけどなかなかにね…。」
「よし!決まりだな!
私が勝ったら腹を!君が勝ったらおっぱいを互いに差し出すと言うことで!では!!」

決まってねぇよ!!と突っ込む前にダッシュでどっかへ行ってしまった…。
ほんと、嵐のような勇者である…。
定刻通りに到着するかは怪しいが…。

「はぁ……。本当にやばかったなご主人様…。大丈夫か…?」
「色々とだいじょばない……。
とりあえず俺もうこのままここで寝てて良いかな…。」

流石に話し疲れて俺は再びベッドに横になる。

「まぁ、本当は君の寝室でゆったりと寝かせてあげたいところだけども…。
流石にあれは疲れたろう…。無理はさせたくないからね…。ここで休みたまえ…。」

大分、魔女さんも疲れた様子だ。
いろんな意味で。

「では、おやすみ。賢者くん。
ゆっくり休んでくれたまえ。」
「おやすみ…魔女さん…。」

俺は魔女さんを見送る。
が、盗賊ちゃんは離れる気配がない。

「一緒に添い寝したいって言ったら嫌がるのはわかってるから言うけど…、隣のベッドで寝ても良いか…?何かあったらすぐ動けるように、なるべくそばにいたいんだ…。」
「それなら構わないよ。」
「ありがとうご主人様…。おやすみなさい…。」

盗賊ちゃんが隣のベッドに入り眠るのを見届けて、俺も寝る態勢に入る。
だが…正直怖い…。
寝て起きたら、また俺は元の世界へ帰ってしまって彼女たちを忘れてはしまわないかと…。

それはきっと、俺以外の子たちもそうかもしれない。

まだ俺がこの世界に居られるかどうかなどなんの保証もないのだ。

異物として排除される可能性の方が十二分に高いのは明確だ。
それでもその話に誰も触れては来ていない。

それはきっと、皆が俺にこの世界に居てほしいと望んでることの無言の現れなのだろう。

ここまで必要とされるなら、俺もやはりこの世界に居たい。
自分を必要としてくれないような世界に居ても苦しいだけだからな…。

人はみんな、辛い現実から逃げたいものなのだ。
それは俺も例外なく。

明日は、いわゆる例外的なランクマッチというわけか…。
なんかしんどいな…。

とりあえず寝よ…。
この大剣をしまってから…。

頭痛も倦怠感も治まってきたし今晩は割とぐっすり眠れそうだ…。

--------


\\アイヨーーーーーーーっ//


お?大鳥が鳴いている。
ということは俺は無事、異世界での朝を迎えることが出来たらしい。

「汗だくだな…。シャワーでも浴びるか…。」

俺は医務室を出ると、ギルマスちゃんのいるであろう部屋に向かう。

部屋の扉をノックすると、

「にゃー?あぁ、けんじゃだにゃ?入れにゃー。」

扉を開けるとギルマスちゃんが嬉しそうにニマニマしていた。

「おはよ、ギルマスちゃん。そんで…ただいま。」
「おかえりなさいにゃっ♪体の調子はどうかにゃ?」
「ん、おかげさまで。良好な感じかな?
ところで、シャワー浴びたいんだけどシャワー室とかある?
寝汗をたくさんかいちゃったみたいで…汗だくで気持ち悪くてさ…。」

ギルマスちゃんが椅子から飛び降りて、とてててーと近づくと俺の手をきゅっと握る。
俺はそのまま手を引かれて部屋に案内される。

「一応この部屋を賢者の部屋として用意したにゃ。ギルドに滞在するときはこの部屋を好きに使ってくれてよいにゃ。」
「ん、わかった。ありがとねギルマスちゃん。」

にゃんっ♪と可愛く返事をし、ギルマスちゃんはぱたぱたと自室へと戻っていった。
俺は自分の部屋として用意されたこの部屋の扉を開ける。
綺麗に整理された客室…といった感じの部屋だ。

だが、なぜかベッドはぐちゃぐちゃになっていた。
ベッドサイドに目をやると盗賊ちゃんの普段着が放り投げられていた…。

「あぁ…なるほど…。俺と盗賊ちゃんの…部屋なのね…。正確には……。もうセットにされてるな…。」

はぁ…とため息を1つ。

俺が自分の世界から着てきた服とアクセサリーとカバンを鍵付きのクローゼットにしまい、なぜか無意識で持って来ていた新しい下着と変えの着替え、そしてクローゼットの中に畳まれていた新品のバスタオルを持って部屋に備え付けのシャワー室に入る。

「ほう…。ちゃんとお湯もでるのかこのシャワー。なるほど…。蛇口に魔石が埋め込まれていて…こいつが水道管を通る水を温めるのかな?
ふむ…よく出来てる…これぞ異世界だな…。」

などとシャワー1つに感心しながらシャワーを浴びて汗を洗い流す。
ふと、蛇口のそばを見ると石鹸と身体を洗うためのタオルもあった。

流石にこっちの垢すりタオルと違ってザラザラ感はないタオルだが、その隣にヘチマっぽいものもある。
なるほど…むしろ身体を洗うスポンジはこっちか…。
肌に合わせてご自由に…といった感じかな?

とりあえず俺はヘチマスポンジで石鹸を泡立てて身体を洗った。
石鹸の隣には瓶入りのオイルのようなものがある。
これがリンスとかシャンプー的な奴だろうか?
少しだけ手に取り手でくしゅくしゅするとやはり泡立った。
どうやら、これがシャンプー的な奴らしい。

そういえばまともに風呂入るのはなんだかんだで初めてか…?
初風呂は盗賊ちゃんの一味に襲撃されたし…。

俺は頭を洗いシャワーで泡を流してシャワー室を後にした。

髪の毛もしっとりツヤツヤである。

元々綺麗なツヤツヤサラサラな黒髪が自慢の俺だが、さらにしっとりツヤツヤしている。
うむ…いいな…異世界の技術…。

シャワー室を出て服を着替えて部屋に戻ると、ベッドの上で盗賊ちゃんが腰掛けていた。

「おはよ。盗賊ちゃん。」
「おはよ…。むぅ…、どっかいくなら俺も起こしていけよ…。また居なくなったって不安になったじゃねぇかよ…。この奴隷紋が消えてないのとなんかこう気持ち良さそうな感情が伝わって来たから大丈夫だとは思ったけど…。」
「ごめん…そこまで気が回らなかったや。
すうすうと寝息たててる盗賊ちゃんの顔がたまらなく可愛くてつい…。」

とからかうと顔を赤くして俯く盗賊ちゃん。
たまらなく可愛い。

「うーっ…。まぁいいよ、そういうことにしてやる…。ていうか、シャワー浴びるなら言ってくれれば背中流したのによ…。
ほら…あんなにすげぇ風呂だったのに、俺のせいでゆっくり入れなかったろ?
なんかそれも申し訳なかったなぁーって…。」
「あー、まぁそれはそれだよ。
俺だってあのときはああなって今はこうなるなんて思ってなかったし。」
「へへ…だなっ♪なぁ、ご主人様。
おかえりなさい。じゃあお風呂は済んだし、次はご飯にする?それとも…わ た し?」

んー、ここはいつもの俺ならご飯と即答するが…。ここはからかって遊んでやろう。

「決まってるだろ?お前。」

真剣な顔で近付き、そのままベッドに押し倒して更にからかってみる。

「お、おい!ほ、ほんきなのか?
その…心の準備が…まだできてない…!
いや、ご主人様にこういう事されたいとはいつも冗談交じりで言ってたけどいざされるとなるとやっぱ恥ずかしいと言うかだな…っ。
って…からかってんな…?ご主人様…。」
「あぁ。いつもの仕返しだよ。
可愛い俺の奴隷ちゃん♪」
「むーっ!珍しい事しやがって。そんなご主人様には魅了攻撃しちゃうんだからな!」

盗賊ちゃんをからかってイチャイチャするのもなんか心地よい。
たった1日会えないだけでもこんなに苦しくて、そして会えたらこんなにも嬉しくなるものなんだな…。

本気で人を好きになるとはこういう事だったのだろうか…。

「ん…。どうしたんだご主人様?今度はすごいあったかい感情が伝わって来たぞ?」

盗賊ちゃんを軽く抱き寄せて胸元へポフッとさせてなでなでする。

「ん…。なんか癒されるなーって。
心がポカポカする感じというか…なんというか。」
「オレもだ。ご主人様の腕の中は…すごく落ち着く…。」

可愛らしくスリっとしてくる盗賊ちゃんが実に愛らしい。
妹とか居た事ないけど、居たらこんな感じなのかな?

などと心地よくイチャイチャしていると、俺の部屋の扉が勢いよく開かれた。

「大賢者!!おはよう!!私だ!!早く食事をして試合をしよう!!君を迎えに来たぞ!!
おっと?イチャイチャパラダイス中だったかな?これは失敬!せっかくだしよかったら私も混ぜてくれ!」
「「よくねぇよ!帰れ!!」」

俺は盗賊ちゃんと息のあった初めての共同作業で勇者ちゃんを部屋の外に蹴り飛ばした。
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