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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。
第40話 盗賊ちゃんの場合
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ー城で皇女殿下誘拐と時を同じくしてギルドにてー
盗賊の少女は西の国のギルマスと食堂で2人話し込んでいた。
「にゃんと言って良いか…。まさか、盗賊ちゃんが皇女殿下の腹違いの妹だったとは…。」
「オレだってビックリだよ…。
母さんとも違う、この黒色寄りの髪ですら驚いてたのに…。
母さんはがっつりと金髪だから、子供の頃はどんな父親だったんだろうとか考えたりもしたけど…。
母さんにはオレから聞いても教えてもらった事はなかった。
それが今、こんなにあっさりとバラされる時が来るなんてな…。
黒髪はこの世界においては地位あるものの髪色とまで言われているものだ。
何かしらあるとは思ってたけどよ…、これは流石にビックリだよオレは…。」
「にゃははは…。にゃーもこの髪色はお父さんとお母さん譲りだけど、その原点が誰なのかはわかってないにゃ。
まぁ、おそらくはみんなの血のどこかに晴明の血が混ざってるのだろうと言う見解だにゃ。
そんな事よりもにゃ…。
盗賊ちゃんは、大賢者のことどう思ったのにゃ?
少しは冷静になったのかにゃ?」
「わかんねぇよ…。なんで、あんな事をしたのか…。オレには理解できない…。
オレを男に何度も売ろうとして、男がオレを傷つけるのを傍観して金をもらったりしていたような親だぞ?それなのに…。」
盗賊の少女は机に飲み物を叩きつけ、机に突っ伏す。
「そして、家出して3年…。
それだけ時間があれば考えたり後悔したりするのにも十分だったはずにゃ。
そもそも、盗賊ちゃんを捨てるなり養子に出すなりも出来たはずにゃよ。」
「そりゃ、成人したら身売りさせる為だったからだろうよ…。
別に愛情があったわけじゃないだろうさ…。」
「本当にそう思うのかにゃ?」
ギルマスは少女の頬をつんつんと突きそう問いかける。
「そう思うよ。少なくともオレは…な。
たしかに、幼い時は仕事を休んでる時はいろんなところに出かけたりもした。
でもいつからか、そう言うの全部なくなって気が付いたら男の慰み物にさせようとしたんだ。」
「子育てって言う奴は…楽じゃないにゃ。
周りの目とか、ストレスとか、そんなのにずっとずっと付きまとわれるのにゃ。
本当なら周りの人や家族の助けを借りて育てるのが正解なのにゃ…。
だけど、どうしようもなくて誰にも頼れず1人で育てなきゃいけない人も沢山いるにゃ…。
それに耐えきれずに我が子を殺める親もいるにゃ…。
それでも…。
それでも、生まれて来るときはきっと幸せな気持ちだったはずにゃ。
みんながみんなじゃないかも知れないけど、きっと盗賊ちゃんのお母さんだって本当にその気がないならとうに捨ててたはずにゃよ…。」
「でもだからって、子どもに身売りさせようとした事実は消えない。
どれだけ心が荒んでいたとしてもそれは親として許されちゃいけないだろう?そう思わないか?」
「勿論にゃ。許されることではないにゃ。
贖罪しなければいけないような物だとは思うにゃ。
親と名乗れるようなものでもない。そう思うにゃよ。
だからこそ最後に親として、賢者が盗賊ちゃんに相応しい男なのかどうか見に来たんじゃないのかにゃ?」
「それは…。…。そうかも知れないな…。」
「子の幸せを願わない親は居ないにゃ…。
だからこそ、自分と居て不幸になるならと子を殺め、自分を殺めようとする親もいるくらいに…。」
悲しい顔をするギルマスの顔を見る少女…。
「アンタも昔何かあったのか…?」
「長く生きててこんな仕事をしてるといろんな人の死を見ることになってしまうって話にゃよ。
さて、盗賊ちゃんはまずお母さんのことはどう思ってるのにゃ?」
「母親としては最低だ。
正直なところ、今はどう接していいかわからない。3年も離れてるうちにオレも見方は変わってきたけど…、ただ、それをまだ理解出来るような状態じゃない…。
きっと、身体を売るしか知らないような人だから色々といっぱいいっぱいなんだったろうなってのは、たしかにアンタに言われたら少し納得は出来たかもだけど…。
それでも、オレのこの体に男達が付けた傷は癒えたわけじゃない…。」
傷口を隠すように掴みながら無意識に耳のピアスに触れる。
「本当は男なんか嫌いだったはずだろう事はうかがい知れるにゃが、ドラゴスケイルの連中に触れた事でそこはわりと払拭出来たって事なのかにゃ?」
「正確には前のボスのおかげだな。
あの人はオレを女としては扱っちゃ居なかったが、同時にある意味では父親のように見守ってくれたり、いろんなことを教えてくれたりはしたから。
世の中クソみたいな男ばっかじゃないんだなってのはわかった。」
「賢者の事もかにゃ?」
「あの人は別格。オレのことを一人の女の子として見てくれて、かわいいって言ってくれてオレが微笑むだけでいちいちキュンキュンしてるような人だし…。
そうだな…。安心して好きになれる人…かな。」
娘の微笑ましい姿を見るような母性のある目で盗賊の少女を見るギルマス。
「それじゃ、やっぱこうやって喧嘩しても賢者の事は好きなのにゃね?」
「それは…。うん…。まぁ、当たり前だろ…。
ただ、今はその色々と一気にあったからいっぱいいっぱいになっちまって…。
訳わかんなくなっちまったんだ…。
オレも冷静になって考えてみれば…きっとあの人の事だし、母さんが今はちゃんと親としてオレと向き合おうとしてた事とか…そういうのも気づいた上でこういう選択を取ったのかなって…。
だから、その…怒っては居たけど…。
今は…嫌いになりそうだって言っちゃった事…すごく後悔してる…。
どうしよう…。このままあの人のオレへの気持ちも冷めたら…。
オレはまた…ひとりぼっちになっちまう…。」
「賢者の感情は伝わってる筈にゃ。
どんな気持ちが伝わって来てるにゃ?」
ぎゅっと胸を掴みながら、その痛みに顔をしかめる少女。
自分は経験したことのないような痛み…。
辛く悲しい胸の痛みが、少女の胸も突き刺していた。
「すごくすごく…、寂しくて、悲しくて、辛そうな気持ちだ…。」
「じゃあなんでそういう感情になってると思うにゃ?」
「わかんねぇよ…。そんなの…。
オレが嫌いになっちまいそうになったからか…?」
「むしろその逆にゃ。盗賊ちゃんのことを本気で思っていて、本気で好きで、誰よりも愛してるからその対象の人に嫌われてしまったことが辛くて苦しくて悲しくて寂しいのにゃ。
好きじゃなかったらお互いにこんなに胸が痛む事はないにゃよ。」
次第に少女はポロポロと涙をこぼし始めた。
「大丈夫。大丈夫にゃ。
あの人は、盗賊ちゃんのことが大好きなのにゃ。
こうやって悲しくなってるって事は、逆に盗賊ちゃんを嫌いにはなってないって事にゃよ。
お互いに思いを話せばきっと仲直りできるにゃよ。」
「まだ…間に合うかな…?」
「十分間に合うにゃ。きっと賢者も今頃どうやって盗賊ちゃんと仲直りすれば良いか考えてる所だろうにゃ。
それよりも気になるのは皇女殿下の事にゃよ。
どう思うにゃ?」
これには少女も大きなため息を吐く。
「どうもこうもなぁ…。
腹違いの姉で家族だって言われてもな…。
ほんとどう接すれば良いかわからねぇよ…。
お互いに父親は同じとは言え、浮気して他所で子ども作ってた訳だし…。しかもそれを隠蔽された側がオレなんだからさ…。
互いに全く違う人生を送ったのもそのせいなんだ。
許すとかそれ以前に、あっちの方も気の毒だと思うと、ほんとどう接すれば良いかわかんねぇよそんなもん。」
「嫌うとかそういう感情はやっぱりあるのかにゃ?」
「そうだな…。まぁ皇女殿下にしてもこんだけのことをあの場でぶっちゃけたんだ。
その上であの立場で頭下げるわ、人のことを家族として接したいとか言ってくるわってな…。
どんだけ頭お花畑だよとも思ったが…、その勇気を思うとオレも頭が上がらねぇよ…。
姉として接することができるかどうかはわからねぇけどさ…。
ただ、あの立場の人がそれだけのことを言ったって考えたら、オレも歩み寄るべきかなって…。」
少女にとっては今日は色んなことが沢山ありすぎて様々な感情がごちゃごちゃになってしまっている。故に整理がつかない状態なのであった。
自分の出自の秘密を知って冷静になれるようなものでもない時に、追い討ちのように恨んでいた母親にまで、自分の主人は優しく接してしまったのだ。
当然、ヤキモチだって焼くというものである。
そして、何をどう思っているのか自分のことを家族として接したいなどと言ってくる皇女殿下という最高権利者…。
しかも自分もまた第二皇女の資格を持つことを知り、ますますどうするべきかとなるのはまだ幼い13の少女には当然のことであった。
「自分が盗賊ちゃんの立場だったらそりゃあ、そうなるし焦るし、頭の中パンクしちゃうとは思うにゃよ…。
正直同情するにゃ…。」
「あぁ…。もうほんと3人とも明日どんな顔して会えばいいのかわからねぇよオレは…。
特にご主人様に対しては…もう…。
うぁぁぁぁっ…。好きな人に嫌いになるなんて言うんじゃなかった…。
うう…。逆に苦しい…。こんなに苦しい思いをして、させちまうなんてわかってりゃ絶対言わねぇのに…。
はぁ…もう後悔しかねぇよ…。」
「にゃははっ。本当に好きなんにゃねぇ。そしてあの人も愛されてるにゃねぇ…。
ここまで愛してると流石に敵う自身がないにゃ。
これは魔女さんもうかうかしてられないにゃろうに…。
ぶっちゃけ最近の二人の仲見てると、一夫多妻が主流だしにゃーたちもあわよくばお嫁さんにーなんて言ってらんにゃいにゃよ…。
甘々過ぎにゃ。このゲロ甘空間に入れという方が無理だにゃ。
お前らほんとさっさと結婚しちまえにゃってくらいにゃよ。」
顔を赤くして照れる少女をまたギルマスはからかう。
「はいーはいー。微笑ましい限りにゃねぇ…。
ごちそうさまにゃ。その時が来たら、この国総出で派手にお祝いでもしてやらなきゃって気分にゃよ。」
「バカっ!からかうのはよせよっ!そういうのオレは慣れてないんだから…。
はぁ…でも、お嫁さんか…。
綺麗なドレス着て結婚式したり、新妻のオレが帰ってきたご主人様を迎えて、おかえりなさいアナタ♪とか言うのか…。
そしておかえりなさいのキスをして、一緒にご飯食べて、お風呂はいって、最後は一緒に…。
はぁ…やっぱ憧れるな…。」
「にゃはははっ。乙女にゃねえ。」
「こんなこと、ご主人様に出会うまで考えたことも無かったよ。女として生きることなんかとうに諦めてたからな…。
こう言う気持ちも全部、あの人が教えてくれたものだ。
うん…。やっぱりはやく仲直りしなきゃだ。
それに、ご主人様の思いに応えるために母さんとも…。
皇女殿下は…。まぁ、そのうちだな。」
と話し込んでいると、駆け足で魔女がこちらの食卓へと走ってくる。
かなり慌てた様子の彼女にギルマスが話しかける。
「どうしたにゃ?血相変えて走ってきて。
もしや、賢者があまりのショックに自殺未遂でもしたとかにゃ?」
「え…、うそ…だろ?そんなこと…ないよな…?」
そう言う冗談はこの場では言うものではない。
冗談が冗談として通じるような時とそうでない時というものはある。
「いや、それに関しては心配ないよ。
むしろ彼はすぐにでも謝らないといけないと言ってるくらいだ。
そんなことよりもだ。大変な事態になった。」
「何があったにゃ…?」
「皇女殿下が、魔王急進派の連中に誘拐された…。
早く来なければその首を落とし、この世界に宣戦布告すると言ってきている…。
相手は自分のテリトリーで人間と魔族を結ぼうとする賢者くんと皇女殿下を殺害するつもりだ…。
魔王はあくまでも戦いを欲しているのと、人間を殺したくないだけで、人間と国交を結ぶとかと言うことは考えていないらしいからね…。
ただ、魔王が急進派の口添えでロクでもないことをしないとも限らない…。
ひとまず賢者くんにはベヒーモスのところへ向かってもらっている。助言を聞くためにね。
大賢者と戦士ちゃんと魔法使いちゃんはすぐにでも出発してもらうつもりだ。
盗賊ちゃん、私は君を迎えに来た。
だが、行くか行かないか君の自由だ。
どうする…?」
盗賊ちゃんは自分の両頬を叩き気合いを入れる。
「そんなの決まってるだろ?囚われのお姫様を助けに行くさ。まだまだ色々と話し足りないんでな。」
「わかった。転移門を使って急ぎ城に移動しよう。敵はベヒーモスさんよりもはるかに強いだろう…。決して油断できないし死も覚悟しておくべき敵だ…。
準備は怠らないようにね?」
「わかってるよ。さぁ、行くか!」
そして、盗賊の少女は大賢者たちと共に戦地へ赴く覚悟を決めるのであった。
盗賊の少女は西の国のギルマスと食堂で2人話し込んでいた。
「にゃんと言って良いか…。まさか、盗賊ちゃんが皇女殿下の腹違いの妹だったとは…。」
「オレだってビックリだよ…。
母さんとも違う、この黒色寄りの髪ですら驚いてたのに…。
母さんはがっつりと金髪だから、子供の頃はどんな父親だったんだろうとか考えたりもしたけど…。
母さんにはオレから聞いても教えてもらった事はなかった。
それが今、こんなにあっさりとバラされる時が来るなんてな…。
黒髪はこの世界においては地位あるものの髪色とまで言われているものだ。
何かしらあるとは思ってたけどよ…、これは流石にビックリだよオレは…。」
「にゃははは…。にゃーもこの髪色はお父さんとお母さん譲りだけど、その原点が誰なのかはわかってないにゃ。
まぁ、おそらくはみんなの血のどこかに晴明の血が混ざってるのだろうと言う見解だにゃ。
そんな事よりもにゃ…。
盗賊ちゃんは、大賢者のことどう思ったのにゃ?
少しは冷静になったのかにゃ?」
「わかんねぇよ…。なんで、あんな事をしたのか…。オレには理解できない…。
オレを男に何度も売ろうとして、男がオレを傷つけるのを傍観して金をもらったりしていたような親だぞ?それなのに…。」
盗賊の少女は机に飲み物を叩きつけ、机に突っ伏す。
「そして、家出して3年…。
それだけ時間があれば考えたり後悔したりするのにも十分だったはずにゃ。
そもそも、盗賊ちゃんを捨てるなり養子に出すなりも出来たはずにゃよ。」
「そりゃ、成人したら身売りさせる為だったからだろうよ…。
別に愛情があったわけじゃないだろうさ…。」
「本当にそう思うのかにゃ?」
ギルマスは少女の頬をつんつんと突きそう問いかける。
「そう思うよ。少なくともオレは…な。
たしかに、幼い時は仕事を休んでる時はいろんなところに出かけたりもした。
でもいつからか、そう言うの全部なくなって気が付いたら男の慰み物にさせようとしたんだ。」
「子育てって言う奴は…楽じゃないにゃ。
周りの目とか、ストレスとか、そんなのにずっとずっと付きまとわれるのにゃ。
本当なら周りの人や家族の助けを借りて育てるのが正解なのにゃ…。
だけど、どうしようもなくて誰にも頼れず1人で育てなきゃいけない人も沢山いるにゃ…。
それに耐えきれずに我が子を殺める親もいるにゃ…。
それでも…。
それでも、生まれて来るときはきっと幸せな気持ちだったはずにゃ。
みんながみんなじゃないかも知れないけど、きっと盗賊ちゃんのお母さんだって本当にその気がないならとうに捨ててたはずにゃよ…。」
「でもだからって、子どもに身売りさせようとした事実は消えない。
どれだけ心が荒んでいたとしてもそれは親として許されちゃいけないだろう?そう思わないか?」
「勿論にゃ。許されることではないにゃ。
贖罪しなければいけないような物だとは思うにゃ。
親と名乗れるようなものでもない。そう思うにゃよ。
だからこそ最後に親として、賢者が盗賊ちゃんに相応しい男なのかどうか見に来たんじゃないのかにゃ?」
「それは…。…。そうかも知れないな…。」
「子の幸せを願わない親は居ないにゃ…。
だからこそ、自分と居て不幸になるならと子を殺め、自分を殺めようとする親もいるくらいに…。」
悲しい顔をするギルマスの顔を見る少女…。
「アンタも昔何かあったのか…?」
「長く生きててこんな仕事をしてるといろんな人の死を見ることになってしまうって話にゃよ。
さて、盗賊ちゃんはまずお母さんのことはどう思ってるのにゃ?」
「母親としては最低だ。
正直なところ、今はどう接していいかわからない。3年も離れてるうちにオレも見方は変わってきたけど…、ただ、それをまだ理解出来るような状態じゃない…。
きっと、身体を売るしか知らないような人だから色々といっぱいいっぱいなんだったろうなってのは、たしかにアンタに言われたら少し納得は出来たかもだけど…。
それでも、オレのこの体に男達が付けた傷は癒えたわけじゃない…。」
傷口を隠すように掴みながら無意識に耳のピアスに触れる。
「本当は男なんか嫌いだったはずだろう事はうかがい知れるにゃが、ドラゴスケイルの連中に触れた事でそこはわりと払拭出来たって事なのかにゃ?」
「正確には前のボスのおかげだな。
あの人はオレを女としては扱っちゃ居なかったが、同時にある意味では父親のように見守ってくれたり、いろんなことを教えてくれたりはしたから。
世の中クソみたいな男ばっかじゃないんだなってのはわかった。」
「賢者の事もかにゃ?」
「あの人は別格。オレのことを一人の女の子として見てくれて、かわいいって言ってくれてオレが微笑むだけでいちいちキュンキュンしてるような人だし…。
そうだな…。安心して好きになれる人…かな。」
娘の微笑ましい姿を見るような母性のある目で盗賊の少女を見るギルマス。
「それじゃ、やっぱこうやって喧嘩しても賢者の事は好きなのにゃね?」
「それは…。うん…。まぁ、当たり前だろ…。
ただ、今はその色々と一気にあったからいっぱいいっぱいになっちまって…。
訳わかんなくなっちまったんだ…。
オレも冷静になって考えてみれば…きっとあの人の事だし、母さんが今はちゃんと親としてオレと向き合おうとしてた事とか…そういうのも気づいた上でこういう選択を取ったのかなって…。
だから、その…怒っては居たけど…。
今は…嫌いになりそうだって言っちゃった事…すごく後悔してる…。
どうしよう…。このままあの人のオレへの気持ちも冷めたら…。
オレはまた…ひとりぼっちになっちまう…。」
「賢者の感情は伝わってる筈にゃ。
どんな気持ちが伝わって来てるにゃ?」
ぎゅっと胸を掴みながら、その痛みに顔をしかめる少女。
自分は経験したことのないような痛み…。
辛く悲しい胸の痛みが、少女の胸も突き刺していた。
「すごくすごく…、寂しくて、悲しくて、辛そうな気持ちだ…。」
「じゃあなんでそういう感情になってると思うにゃ?」
「わかんねぇよ…。そんなの…。
オレが嫌いになっちまいそうになったからか…?」
「むしろその逆にゃ。盗賊ちゃんのことを本気で思っていて、本気で好きで、誰よりも愛してるからその対象の人に嫌われてしまったことが辛くて苦しくて悲しくて寂しいのにゃ。
好きじゃなかったらお互いにこんなに胸が痛む事はないにゃよ。」
次第に少女はポロポロと涙をこぼし始めた。
「大丈夫。大丈夫にゃ。
あの人は、盗賊ちゃんのことが大好きなのにゃ。
こうやって悲しくなってるって事は、逆に盗賊ちゃんを嫌いにはなってないって事にゃよ。
お互いに思いを話せばきっと仲直りできるにゃよ。」
「まだ…間に合うかな…?」
「十分間に合うにゃ。きっと賢者も今頃どうやって盗賊ちゃんと仲直りすれば良いか考えてる所だろうにゃ。
それよりも気になるのは皇女殿下の事にゃよ。
どう思うにゃ?」
これには少女も大きなため息を吐く。
「どうもこうもなぁ…。
腹違いの姉で家族だって言われてもな…。
ほんとどう接すれば良いかわからねぇよ…。
お互いに父親は同じとは言え、浮気して他所で子ども作ってた訳だし…。しかもそれを隠蔽された側がオレなんだからさ…。
互いに全く違う人生を送ったのもそのせいなんだ。
許すとかそれ以前に、あっちの方も気の毒だと思うと、ほんとどう接すれば良いかわかんねぇよそんなもん。」
「嫌うとかそういう感情はやっぱりあるのかにゃ?」
「そうだな…。まぁ皇女殿下にしてもこんだけのことをあの場でぶっちゃけたんだ。
その上であの立場で頭下げるわ、人のことを家族として接したいとか言ってくるわってな…。
どんだけ頭お花畑だよとも思ったが…、その勇気を思うとオレも頭が上がらねぇよ…。
姉として接することができるかどうかはわからねぇけどさ…。
ただ、あの立場の人がそれだけのことを言ったって考えたら、オレも歩み寄るべきかなって…。」
少女にとっては今日は色んなことが沢山ありすぎて様々な感情がごちゃごちゃになってしまっている。故に整理がつかない状態なのであった。
自分の出自の秘密を知って冷静になれるようなものでもない時に、追い討ちのように恨んでいた母親にまで、自分の主人は優しく接してしまったのだ。
当然、ヤキモチだって焼くというものである。
そして、何をどう思っているのか自分のことを家族として接したいなどと言ってくる皇女殿下という最高権利者…。
しかも自分もまた第二皇女の資格を持つことを知り、ますますどうするべきかとなるのはまだ幼い13の少女には当然のことであった。
「自分が盗賊ちゃんの立場だったらそりゃあ、そうなるし焦るし、頭の中パンクしちゃうとは思うにゃよ…。
正直同情するにゃ…。」
「あぁ…。もうほんと3人とも明日どんな顔して会えばいいのかわからねぇよオレは…。
特にご主人様に対しては…もう…。
うぁぁぁぁっ…。好きな人に嫌いになるなんて言うんじゃなかった…。
うう…。逆に苦しい…。こんなに苦しい思いをして、させちまうなんてわかってりゃ絶対言わねぇのに…。
はぁ…もう後悔しかねぇよ…。」
「にゃははっ。本当に好きなんにゃねぇ。そしてあの人も愛されてるにゃねぇ…。
ここまで愛してると流石に敵う自身がないにゃ。
これは魔女さんもうかうかしてられないにゃろうに…。
ぶっちゃけ最近の二人の仲見てると、一夫多妻が主流だしにゃーたちもあわよくばお嫁さんにーなんて言ってらんにゃいにゃよ…。
甘々過ぎにゃ。このゲロ甘空間に入れという方が無理だにゃ。
お前らほんとさっさと結婚しちまえにゃってくらいにゃよ。」
顔を赤くして照れる少女をまたギルマスはからかう。
「はいーはいー。微笑ましい限りにゃねぇ…。
ごちそうさまにゃ。その時が来たら、この国総出で派手にお祝いでもしてやらなきゃって気分にゃよ。」
「バカっ!からかうのはよせよっ!そういうのオレは慣れてないんだから…。
はぁ…でも、お嫁さんか…。
綺麗なドレス着て結婚式したり、新妻のオレが帰ってきたご主人様を迎えて、おかえりなさいアナタ♪とか言うのか…。
そしておかえりなさいのキスをして、一緒にご飯食べて、お風呂はいって、最後は一緒に…。
はぁ…やっぱ憧れるな…。」
「にゃはははっ。乙女にゃねえ。」
「こんなこと、ご主人様に出会うまで考えたことも無かったよ。女として生きることなんかとうに諦めてたからな…。
こう言う気持ちも全部、あの人が教えてくれたものだ。
うん…。やっぱりはやく仲直りしなきゃだ。
それに、ご主人様の思いに応えるために母さんとも…。
皇女殿下は…。まぁ、そのうちだな。」
と話し込んでいると、駆け足で魔女がこちらの食卓へと走ってくる。
かなり慌てた様子の彼女にギルマスが話しかける。
「どうしたにゃ?血相変えて走ってきて。
もしや、賢者があまりのショックに自殺未遂でもしたとかにゃ?」
「え…、うそ…だろ?そんなこと…ないよな…?」
そう言う冗談はこの場では言うものではない。
冗談が冗談として通じるような時とそうでない時というものはある。
「いや、それに関しては心配ないよ。
むしろ彼はすぐにでも謝らないといけないと言ってるくらいだ。
そんなことよりもだ。大変な事態になった。」
「何があったにゃ…?」
「皇女殿下が、魔王急進派の連中に誘拐された…。
早く来なければその首を落とし、この世界に宣戦布告すると言ってきている…。
相手は自分のテリトリーで人間と魔族を結ぼうとする賢者くんと皇女殿下を殺害するつもりだ…。
魔王はあくまでも戦いを欲しているのと、人間を殺したくないだけで、人間と国交を結ぶとかと言うことは考えていないらしいからね…。
ただ、魔王が急進派の口添えでロクでもないことをしないとも限らない…。
ひとまず賢者くんにはベヒーモスのところへ向かってもらっている。助言を聞くためにね。
大賢者と戦士ちゃんと魔法使いちゃんはすぐにでも出発してもらうつもりだ。
盗賊ちゃん、私は君を迎えに来た。
だが、行くか行かないか君の自由だ。
どうする…?」
盗賊ちゃんは自分の両頬を叩き気合いを入れる。
「そんなの決まってるだろ?囚われのお姫様を助けに行くさ。まだまだ色々と話し足りないんでな。」
「わかった。転移門を使って急ぎ城に移動しよう。敵はベヒーモスさんよりもはるかに強いだろう…。決して油断できないし死も覚悟しておくべき敵だ…。
準備は怠らないようにね?」
「わかってるよ。さぁ、行くか!」
そして、盗賊の少女は大賢者たちと共に戦地へ赴く覚悟を決めるのであった。
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※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
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