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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。
第44話 救いの雷鳴
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紅の炎のような閃光を放つ雷を纏ったその姿は、黒い炎に染まったイフリートですら動揺させる神の覇気を放っていた。
誰もがその姿と放たれる覇気に恐れを抱き、そして動けなくなっていた。
「大賢者様のあの姿…。
魔族とも魔神とも違う…。
完全に人の域を超えて神に至っていますわ…。
これが…大賢者様の…この現代に降り立った新たな異世界人のお力…。
素晴らしいですわ…。」
「ひぇぇ…。やっぱさっさと負けを認めて配下に降っておいて正解だったな…。
あんなんと本気でやりあったら俺様は生きていられる自信がないぞ…。」
魔王の一柱たる2人の魔族でも立っているのがやっとの神々しく荒々しい覇気。
戦士たちもその姿の前で動けなくなっていた。
「悪いがこの姿に変身するのは初めてなんだ。
加減は出来ないと思う。だが…、お前も加減せずにこれだけのことをしたんだ。
それだけの覚悟くらいは…出来てるんだろう?」
イフリートは再び動き出し黒く禍々しいその拳を大賢者めがけて振りかざした。
大賢者はそれを交わすでもなく右手で受け止めた。
そして、受け止めた相手の腕は、触れたそばから真っ赤な雷に轟音と共に貫かれ消えていった。
「ナニガオコッタ…!イマノチカラハ…!」
イフリートは消えていった腕を再生させようとするがその腕はまるで元に戻る気配を見せない。
そればかりか、傷口にわずかに残った稲光は今もイフリートの炎を打ち消していっている。
「イフリートのあの力と姿…。まるで邪神に魅入れられたような…。
ですが、大賢者様のあの雷が邪神の力を飲み込み浄化していってるのでしょうか…。
ひとまず、この戦いは今からは一方的な蹂躙になるでしょうね。
今のイフリートが邪神とかしているならば、異世界の神である火雷神となっているあのお方には敵わないでしょう。」
大賢者はイフリートへ静かに怒りを燃やしていく。
「どうした?威勢がないじゃないか。怖いのか?
死ぬのが。怖いのか?消えるのが。」
「チョウシニ…ノルナァァァアッ!!」
イフリートは大賢者めがけて黒い火球になり突進してくる。
「調子に乗ってたのは…お前だろ?」
大賢者は火球を一蹴する。
たった一発の軽い蹴りでイフリートを覆っていた黒い炎は軽く消しとばされてしまう。
「さぁ、どうする?お前の炎は俺の雷にも炎にも敵わないぞ?」
大賢者が掌をイフリートにむけて構え、真っ赤な雷を纏った炎の球をイフリート向けて放つ。
炎の球はイフリートに着弾すると轟音を立てながら、その全身を連鎖的な雷で覆い、飲み込んでいく。
「ガッアァァァァァッ!!ナンだ!コノ雷はっ…!抗エナイ…!俺の炎ガ喰われテイク…!!」
「そもそもだな。火雷神は水の神としての側面も持つんだ。今のただ地獄の業火に自ら焼かれ、そして邪神となっているお前が敵う道理があるわけがないだろう?
最後くらいは、かっこよく決めて終わらせてやる。
紅蓮雷蛇キック…!」
一瞬の刹那に、真っ赤な雷の閃光と共に瞬間的に三連撃のハイキックが放たれる。
一撃目の蹴りがイフリートの全身の地獄の業火を消しとばし、
二撃目の蹴りがイフリートの魔神としての力を蹴りとばし、
三撃目の蹴りがイフリートの力を完全に消しとばし岩壁へと叩きつけた。
「うがぁあっ!!っ…はぁっ…!」
壁に叩きつけられイフリートは完全に力を失い、ゴリゴリのマッチョからか弱そうな少女の姿へと変貌していた。
「なんだ…?それがお前の本当の姿か?
力を失えば可愛らしいものだな…?」
「やめて…もう許して…殺さないで…助けて…。
私が悪かった…。もうわかったから…。」
大賢者は手のひらに紅蓮の雷を纏った火球を生成し、それを拳に纏い振りかざす。
「もういい!やめろ大賢者!!」
大賢者は勇者の声で我に返り拳を収めた。
「私はもう大丈夫だ。もうこれ以上怒る必要も、イフリートを殴る必要もない…。
これ以上…殴ったら…君の方が悪者になってしまう。だから…もうその姿を解くんだ。」
「……。わかった。」
いつもの元気はなく、弱々しく呟かれたその言葉に大賢者は変身を解きただの人間の姿に戻る。
それでも尚、収まりきらない怒りを持って少女の姿になったイフリートを睨みつける。
「ヒッ!ごめんなさい…ごめんなさい…。」
このイフリートをもう一度蹴り飛ばしたい。
頭を地面に叩きつけてやりたい。
そんな怒りの炎がまだ心の中で燃えている。
大切な人を1人奪われそうになった。
その怒りはそう簡単に収められるものではない。
「イフリート…。貴女ほどの者が邪神に魅入られ利用されるなんて…。
一体、何があったのです?
貴女は馬鹿で好戦的な性格ではありましたが、このようなことをする子ではない筈です。」
「わか…らない…。思い出せないんだ…。
何がきっかけだったかはわからない。
だが、胸に怒りの感情が湧き上がってきて、気がついたら人間を業火で焼きつくしたいくらいに怒りの衝動で狩られて…。俺は…。
そうだ…。皇女殿下と魔王様が危ない…!
魔王様にも俺と同じように、どす黒いなにかが纏わりついていた…。
アレが俺と同じなら、魔王様も俺と同じように黒い力に飲み込まれて…暴走する…!」
黒い力…。かつて次元龍の力をその身に降ろし纏った際に大賢者の身にも宿りその身を奪い取ろうとした邪神の力…。
それがもし、大魔王の体にも取り付き、その身を奪い取ろうとしているのだとしたら…。
そのような考えが大賢者の頭によぎる。
「俺が次元龍の力を使った時に感じたあの感じか?自分の意思だけどまるで何かに誘導されて力をあえて暴走させられていくようなあの感覚…。
体が黒く染まっていくあの感覚…。
アレを魔王が取り込んで行ったりなんかしよう者なら、確かに危険だな…,。」
「もし、そんな事が起これば災厄級の大自体ね…。この世が終わるレベルよ…。
そうなればもう、皇女殿下の命がなんて言ってられる自体じゃなくなる…。
とりあえず、次はこのまま魔王様の元へ向かわないとって所よね?」
イフリートはまだ意気消沈したまま自分の犯した罪に頭を抱えている。
「クソ…俺は一体どうしちまってたんだ…。
大賢者と戦ってるうちに完全に自分の意識とか力も全て飲み込まれて奪われていた…。
なぁ、大賢者…。お前は何をしたんだ?
最後の三発の蹴りで俺に何をした?」
「滅却だよ。神の雷を以ってイフリートの持つ力を全て奪い取って消滅させた。
今の君はロウソクの炎一つ灯せない、ただのか弱い女の子に成り下がっている筈だ。」
イフリートは指先に力を込めるが、確かに何も起こる様子はない。
「無理だよ。俺は君の力を完全に消滅させたんだ。無意識ではあったけど、そうでもしないと君はまた邪神にその身体を奪われる危険があったからかもだね。
なんにせよ…、勇者ちゃんをこんな状態にしたのは君の本心ではなかった…。
そういうことで良いのかな?」
「あぁ…。完全にそうとは言い切れないが…。
俺は…取り返しのつかないことをした…。
人間と友好を深めたい魔王様の意思に背き…人を殺めてしまった…。」
「大丈夫だ。勇者は死んでいない。生きてるよ。」
大賢者は落ち込むイフリートの頭を撫で、勇者の方へと振り返る。
「賢者様…。」
「勇者…さっきから息をしてないの…。」
「ついさっきまで、力なくではあったけど喋ってたのに…。」
胸を強く貫くような悪寒が走る。
大賢者は勇者の元へ走り寄り心臓の鼓動を、口元に耳を当て呼吸を確認する。
どちらも確認できなかった。
「嘘だろ…?さっきまで話してたじゃないか…。
何がどうなってる…?助かるんじゃなかったのか…?」
「……。言いづらいんだけど、貴方があの力を発現させた時、あの場にいた誰もが息もできなくらいの恐怖に飲まれて動きを止めたわ…。
その時、回復の手も戦いが終わるまで止めてしまった…。
無論、その時点で勇者の息はあったしまだ生きてはいた。
傷も塞がってはいたけれど…。
勇者の生命力は…もう…。」
大賢者は無言でライトニングクォーツを起動し、その雷を調節し勇者の心臓を電気ショックで動かす。
何度も何度も。
「何でだ…。こいつを初めて使った時は、死にかけの冒険者だって助けられたのに…。
この力を使えば…助けられるんじゃないのかよ…!」
「もう、やめよう…。勇者は死んだの…。
たった今、私たちの目の前で最後に貴方の勇姿を焼き付けながら…。
きっと、彼女のその目に映った貴方の姿はとてもカッコよかったと思うわ…。
彼女も1人の冒険者として、そして勇者として盛大かつ懸命に戦ったわ…。
ここはそれに敬意を評してゆっくり休ませてあげましょう?ね?」
言葉ではそう言いつつも誰も納得は出来ていなかった。
その怒りをぶつける矛先も、勇者自らダメだと言い放たれた。
ならば今、この溢れる想いはどうすれば良い?
この、無力感を、怒りを、悲しみを、青年と少女たちはどうぶつければいい?
彼らは皆、声を上げて泣いた。
人の死というものは慣れるものではない。
人の死というものは簡単に受け入れられるものでもない。
それでも受け入れなければならないなら、誰もがこうするしかないのだと。
そう、自分たちに言い聞かせるように彼らは泣いた。
「亡骸はここに置いていきましょう…。
今は一刻も早く魔王の元へ向かわないと…。
私たちには今、立ち止まっている暇はないわ。
イフリート。
酷なお願いかもだけど、彼女の遺体を私たちがここに戻るまでしっかりと守ってて。
それが今のあなたに出来る唯一の償いよ。」
「あぁ…。わかった。引き受けよう。」
そういうとイフリートは勇者の遺体を抱え、ゆっくりと寝かせるとその側に座り込んだ。
「リヴァイアさんとケロちゃんはどうする?」
「私たちは既にあなた様の配下です。
ご命令とあらば…如何様にでも…。」
「魔王様の身にも危機が迫っているんだ。
例え、足手まといになるかも知れなくても、俺様たちも共に向かうぞ。」
そう言うとケルベロスは魔獣の姿へと変身して皆を背中に乗せる。
「そうだ…。リヴァイアさん。
ベヒーモスに伝えといてもらえるかな…。
勇者が死んだって…。
ベヒーさん、勇者ちゃんと仲よかったから…。教えておいてあげないと…。」
「かしこまりました。我が大賢者様…。」
そういうと、リヴァイアサンは水晶を手にベヒーモスに連絡を取り始めた。
「ベヒーモス様…。悲しいお知らせがございます…。」
「言わなくても結構ですよ。勇者さんが…亡くなられたのですね…。私も残念です…。
誰かが死ぬかも知れない覚悟はしていたつもりでしたが…、私たちにとってほんの一瞬の出会いではあっても、やはり親しい者の死には慣れませんね…。」
「泣いて差し上げないのですか?ベヒーモス様にとっては可愛い可愛い愛弟子のような子だったのでしょう…?」
「そう…ですね。この後で盛大に泣いてあげるとしましょうか。ですが、その前に…。
大賢者様。急ぎ魔王様の元へと向かってください。
イフリートの件、様子がおかしいとは思っていましたがよもや邪神が絡んでいたとなると、一刻を争います。
詳しい説明は省きますが、貴方には我らの魔王様を…救っていただきたい…。頼みましたよ。大賢者様…。」
そう言うとベヒーモスとの通信が切れる。
「では…。向かいましょう。魔王様の元へと…。」
「その前に…。まぁ、不謹慎すぎるとは思うが…本人のご希望だったし最後くらいはな…。」
大賢者は、勇者の胸を軽く揉みその場を後にした。
本当は寝たふりとか気絶したふりをしてて、胸でも揉んだら「もっと揉んでくれ!」と眼を覚ますんじゃないかと期待していたりもした。
だが、死んだ少女はやはり眼を開けることはなかった。
「行ってくるよ。勇者ちゃん。また後でね。」
勇者の亡骸は優しく微笑みような死顔であった。
皆を見守るような、優しい笑みを浮かべていた。
大賢者たちは魔王城へと向かいその歩みを進めていく。
1人の仲間の死を乗り越えその怒りと悲しみを胸に…。
「ご主人様…。勇者…本当に死んじまったのかな…。本当は寝てるだけだとかだよな…?」
「俺も、そうであってほしいと願うよ。
こんな剣と魔法の世界でくらい、夢みたいな奇跡くらい起こってくれても良いだろうってどうにかして救えないかってずっとずっと考えてる…。
でも…ライトニングクォーツの雷ですらその命を取り替えせなかった…。
ならばもう、諦めるしか…ないんだ。」
誰もが唇を噛み締め少女の死を悲しんだ。
身内や友人の死を何度か経験したことのある一人の青年でも苦しかった。
幼い3人の少女には、仲間の死は再び胸に重く突き刺さるのであった。
誰もがその姿と放たれる覇気に恐れを抱き、そして動けなくなっていた。
「大賢者様のあの姿…。
魔族とも魔神とも違う…。
完全に人の域を超えて神に至っていますわ…。
これが…大賢者様の…この現代に降り立った新たな異世界人のお力…。
素晴らしいですわ…。」
「ひぇぇ…。やっぱさっさと負けを認めて配下に降っておいて正解だったな…。
あんなんと本気でやりあったら俺様は生きていられる自信がないぞ…。」
魔王の一柱たる2人の魔族でも立っているのがやっとの神々しく荒々しい覇気。
戦士たちもその姿の前で動けなくなっていた。
「悪いがこの姿に変身するのは初めてなんだ。
加減は出来ないと思う。だが…、お前も加減せずにこれだけのことをしたんだ。
それだけの覚悟くらいは…出来てるんだろう?」
イフリートは再び動き出し黒く禍々しいその拳を大賢者めがけて振りかざした。
大賢者はそれを交わすでもなく右手で受け止めた。
そして、受け止めた相手の腕は、触れたそばから真っ赤な雷に轟音と共に貫かれ消えていった。
「ナニガオコッタ…!イマノチカラハ…!」
イフリートは消えていった腕を再生させようとするがその腕はまるで元に戻る気配を見せない。
そればかりか、傷口にわずかに残った稲光は今もイフリートの炎を打ち消していっている。
「イフリートのあの力と姿…。まるで邪神に魅入れられたような…。
ですが、大賢者様のあの雷が邪神の力を飲み込み浄化していってるのでしょうか…。
ひとまず、この戦いは今からは一方的な蹂躙になるでしょうね。
今のイフリートが邪神とかしているならば、異世界の神である火雷神となっているあのお方には敵わないでしょう。」
大賢者はイフリートへ静かに怒りを燃やしていく。
「どうした?威勢がないじゃないか。怖いのか?
死ぬのが。怖いのか?消えるのが。」
「チョウシニ…ノルナァァァアッ!!」
イフリートは大賢者めがけて黒い火球になり突進してくる。
「調子に乗ってたのは…お前だろ?」
大賢者は火球を一蹴する。
たった一発の軽い蹴りでイフリートを覆っていた黒い炎は軽く消しとばされてしまう。
「さぁ、どうする?お前の炎は俺の雷にも炎にも敵わないぞ?」
大賢者が掌をイフリートにむけて構え、真っ赤な雷を纏った炎の球をイフリート向けて放つ。
炎の球はイフリートに着弾すると轟音を立てながら、その全身を連鎖的な雷で覆い、飲み込んでいく。
「ガッアァァァァァッ!!ナンだ!コノ雷はっ…!抗エナイ…!俺の炎ガ喰われテイク…!!」
「そもそもだな。火雷神は水の神としての側面も持つんだ。今のただ地獄の業火に自ら焼かれ、そして邪神となっているお前が敵う道理があるわけがないだろう?
最後くらいは、かっこよく決めて終わらせてやる。
紅蓮雷蛇キック…!」
一瞬の刹那に、真っ赤な雷の閃光と共に瞬間的に三連撃のハイキックが放たれる。
一撃目の蹴りがイフリートの全身の地獄の業火を消しとばし、
二撃目の蹴りがイフリートの魔神としての力を蹴りとばし、
三撃目の蹴りがイフリートの力を完全に消しとばし岩壁へと叩きつけた。
「うがぁあっ!!っ…はぁっ…!」
壁に叩きつけられイフリートは完全に力を失い、ゴリゴリのマッチョからか弱そうな少女の姿へと変貌していた。
「なんだ…?それがお前の本当の姿か?
力を失えば可愛らしいものだな…?」
「やめて…もう許して…殺さないで…助けて…。
私が悪かった…。もうわかったから…。」
大賢者は手のひらに紅蓮の雷を纏った火球を生成し、それを拳に纏い振りかざす。
「もういい!やめろ大賢者!!」
大賢者は勇者の声で我に返り拳を収めた。
「私はもう大丈夫だ。もうこれ以上怒る必要も、イフリートを殴る必要もない…。
これ以上…殴ったら…君の方が悪者になってしまう。だから…もうその姿を解くんだ。」
「……。わかった。」
いつもの元気はなく、弱々しく呟かれたその言葉に大賢者は変身を解きただの人間の姿に戻る。
それでも尚、収まりきらない怒りを持って少女の姿になったイフリートを睨みつける。
「ヒッ!ごめんなさい…ごめんなさい…。」
このイフリートをもう一度蹴り飛ばしたい。
頭を地面に叩きつけてやりたい。
そんな怒りの炎がまだ心の中で燃えている。
大切な人を1人奪われそうになった。
その怒りはそう簡単に収められるものではない。
「イフリート…。貴女ほどの者が邪神に魅入られ利用されるなんて…。
一体、何があったのです?
貴女は馬鹿で好戦的な性格ではありましたが、このようなことをする子ではない筈です。」
「わか…らない…。思い出せないんだ…。
何がきっかけだったかはわからない。
だが、胸に怒りの感情が湧き上がってきて、気がついたら人間を業火で焼きつくしたいくらいに怒りの衝動で狩られて…。俺は…。
そうだ…。皇女殿下と魔王様が危ない…!
魔王様にも俺と同じように、どす黒いなにかが纏わりついていた…。
アレが俺と同じなら、魔王様も俺と同じように黒い力に飲み込まれて…暴走する…!」
黒い力…。かつて次元龍の力をその身に降ろし纏った際に大賢者の身にも宿りその身を奪い取ろうとした邪神の力…。
それがもし、大魔王の体にも取り付き、その身を奪い取ろうとしているのだとしたら…。
そのような考えが大賢者の頭によぎる。
「俺が次元龍の力を使った時に感じたあの感じか?自分の意思だけどまるで何かに誘導されて力をあえて暴走させられていくようなあの感覚…。
体が黒く染まっていくあの感覚…。
アレを魔王が取り込んで行ったりなんかしよう者なら、確かに危険だな…,。」
「もし、そんな事が起これば災厄級の大自体ね…。この世が終わるレベルよ…。
そうなればもう、皇女殿下の命がなんて言ってられる自体じゃなくなる…。
とりあえず、次はこのまま魔王様の元へ向かわないとって所よね?」
イフリートはまだ意気消沈したまま自分の犯した罪に頭を抱えている。
「クソ…俺は一体どうしちまってたんだ…。
大賢者と戦ってるうちに完全に自分の意識とか力も全て飲み込まれて奪われていた…。
なぁ、大賢者…。お前は何をしたんだ?
最後の三発の蹴りで俺に何をした?」
「滅却だよ。神の雷を以ってイフリートの持つ力を全て奪い取って消滅させた。
今の君はロウソクの炎一つ灯せない、ただのか弱い女の子に成り下がっている筈だ。」
イフリートは指先に力を込めるが、確かに何も起こる様子はない。
「無理だよ。俺は君の力を完全に消滅させたんだ。無意識ではあったけど、そうでもしないと君はまた邪神にその身体を奪われる危険があったからかもだね。
なんにせよ…、勇者ちゃんをこんな状態にしたのは君の本心ではなかった…。
そういうことで良いのかな?」
「あぁ…。完全にそうとは言い切れないが…。
俺は…取り返しのつかないことをした…。
人間と友好を深めたい魔王様の意思に背き…人を殺めてしまった…。」
「大丈夫だ。勇者は死んでいない。生きてるよ。」
大賢者は落ち込むイフリートの頭を撫で、勇者の方へと振り返る。
「賢者様…。」
「勇者…さっきから息をしてないの…。」
「ついさっきまで、力なくではあったけど喋ってたのに…。」
胸を強く貫くような悪寒が走る。
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どちらも確認できなかった。
「嘘だろ…?さっきまで話してたじゃないか…。
何がどうなってる…?助かるんじゃなかったのか…?」
「……。言いづらいんだけど、貴方があの力を発現させた時、あの場にいた誰もが息もできなくらいの恐怖に飲まれて動きを止めたわ…。
その時、回復の手も戦いが終わるまで止めてしまった…。
無論、その時点で勇者の息はあったしまだ生きてはいた。
傷も塞がってはいたけれど…。
勇者の生命力は…もう…。」
大賢者は無言でライトニングクォーツを起動し、その雷を調節し勇者の心臓を電気ショックで動かす。
何度も何度も。
「何でだ…。こいつを初めて使った時は、死にかけの冒険者だって助けられたのに…。
この力を使えば…助けられるんじゃないのかよ…!」
「もう、やめよう…。勇者は死んだの…。
たった今、私たちの目の前で最後に貴方の勇姿を焼き付けながら…。
きっと、彼女のその目に映った貴方の姿はとてもカッコよかったと思うわ…。
彼女も1人の冒険者として、そして勇者として盛大かつ懸命に戦ったわ…。
ここはそれに敬意を評してゆっくり休ませてあげましょう?ね?」
言葉ではそう言いつつも誰も納得は出来ていなかった。
その怒りをぶつける矛先も、勇者自らダメだと言い放たれた。
ならば今、この溢れる想いはどうすれば良い?
この、無力感を、怒りを、悲しみを、青年と少女たちはどうぶつければいい?
彼らは皆、声を上げて泣いた。
人の死というものは慣れるものではない。
人の死というものは簡単に受け入れられるものでもない。
それでも受け入れなければならないなら、誰もがこうするしかないのだと。
そう、自分たちに言い聞かせるように彼らは泣いた。
「亡骸はここに置いていきましょう…。
今は一刻も早く魔王の元へ向かわないと…。
私たちには今、立ち止まっている暇はないわ。
イフリート。
酷なお願いかもだけど、彼女の遺体を私たちがここに戻るまでしっかりと守ってて。
それが今のあなたに出来る唯一の償いよ。」
「あぁ…。わかった。引き受けよう。」
そういうとイフリートは勇者の遺体を抱え、ゆっくりと寝かせるとその側に座り込んだ。
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ご命令とあらば…如何様にでも…。」
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そう言うとケルベロスは魔獣の姿へと変身して皆を背中に乗せる。
「そうだ…。リヴァイアさん。
ベヒーモスに伝えといてもらえるかな…。
勇者が死んだって…。
ベヒーさん、勇者ちゃんと仲よかったから…。教えておいてあげないと…。」
「かしこまりました。我が大賢者様…。」
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「泣いて差し上げないのですか?ベヒーモス様にとっては可愛い可愛い愛弟子のような子だったのでしょう…?」
「そう…ですね。この後で盛大に泣いてあげるとしましょうか。ですが、その前に…。
大賢者様。急ぎ魔王様の元へと向かってください。
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「俺も、そうであってほしいと願うよ。
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――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
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そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
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