俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶

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エルの正体。

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オレの名前はエーレンフリート=シャルフェンブルク。
このシャルフェンブルク帝国の皇位継承第一位であり、
現皇帝の第一子で、シャルフェンブルク帝国の王太子だ。

王族の証である、紅い髪と紅い瞳。
生まれたときから、この帝国の未来の皇帝になることは決まっていた。

それについて不満に思ったことはないし、
王太子教育もそれほど苦ではなかった。
むしろ優秀な指導者たちに導かれ、
知識や技術が向上していくのは楽しくもあった。

だが、一つだけやってみたいことがあった。

それは

「同世代の中で、普通の人間として過ごすこと。」

この帝国では貴族や平民の身分は存在するものの、
身分差によって住む世界が違う、ということはあまりない。
強ければどんな身分でもどんな若者でも騎士団の団長になったりする。
逆に公爵家の息子であろうと、一番過酷な辺境の地で平の騎士団員として
任務に就くこともある。

ただし、王族は別だ。
この帝国で王族は崇拝される存在なのだ。

王族の子供は同世代の貴族の子供たちとすら関わりをほとんどもたず、
限られた大人の中だけで過ごす。
だからオレは同世代の子供たちと話す機会もなかったのだ。

だから、オレは皇帝である父上にお願いしたのだ。

対外的にはどっしりとした威圧感や抱擁力などを全面的に出している皇帝をやっているが、
実際はかなりフランクで、オレの意思も尊重してくれる人だ。
(まあ実際、そこが人間のデカい人であるのだが。)

「いいじゃないか、外でいろんな世界を見て来い。いろんな人間を見て来い。」

13歳から18歳までの6年間、魔法騎士学院で過ごす。
ただし、特徴的な髪の色と瞳の色は魔法で変えて、身分を隠すこと。
護衛はつけない。
せっかく魔法騎士学院に入学するのだから、自分の身くらいは自分で守れるようになれ。
空いた時間や夜は王太子としての仕事をこなすこと。

父上はこんな条件でオレの願いをかなえてくれた。

魔法騎士学院に入学した初日、
なんとなく隣にいたヤツに話しかけたら、
なんとオレの専属護衛騎士になるのが夢だという。
そのためにこの魔法騎士学院に入ったという。

オレのことを知りもしないのに、
そんなことを夢にしているなんて、
興味をもたないほうがおかしいだろう。

オレはすっかりラルフに興味津々になった。

本格的に授業がはじまってしばらくして、
オレはラルフが本来持つ才能を活かしきれていないのに気づいた。
明らかに剣術の才能があるのに、
今まで少しもやったことがないという。

もったいない!!

オレは入学前から王宮で剣術は一通り習得してきていたから、
ラルフと特訓することにした。
するとやはりラルフはめきめきと剣術が上達し、
オレもつられて上達していった。

そして、二人で特訓する日々が楽しくて楽しくてしょうがなくなっていた。

ラルフの真面目で、
ときに真面目すぎて堅物レベルになって、
何事にも全力で挑む姿がまぶしかった。

普段から、満面の笑み、みたいなのはしないラルフだが、
時折オレを見下ろしてふっと笑うラルフの顔がとても好きだ。

そう、オレはラルフが好きだ。
いつの間にか、ラルフのことが好きで好きでたまらなくなっていた。

そしてラルフもオレのことが好きなんだろう。

身体の異変は病気じゃないか、とか、闇魔法をかけられているんじゃないか、とか
なぜそれが「好き」という気持ちだと気づかないのか。
そしてどうしてオレに言うのか。
ド天然にもほどがあるだろう!
まあそこがラルフのいいところでもあるから、しょうがない。

しかし、オレの気持ちはラルフには隠し通さなけらばならない。

なぜなら、オレはラルフを裏切り続けているから。

ラルフが幼少期からかなえたいと思っている夢は
オレの専属護衛騎士になることなのだ。

その王太子本人がラルフをだまして、自分の正体を黙っているのだ。

エルとして、偽りの人間として、ラルフに接しているのだ。

許されることではない。

しかし、同じ学院の仲間として、親友として、相棒として過ごせる時間も
卒業とともに終わりを迎える。

オレはいつでもラルフに自分の正体を明かしてもよかったんだ。
別に正体がバレたら退学、という条件でもなかったのだから。
でもどうしても言えなかった。

なんで今までずっと嘘をついていた、と、ラルフに嫌われたくなかった。
どうしてだましていたんだ、と、ラルフに幻滅されたくなかった。
いつまでもラルフの親友であり、相棒である、ただのエルのままでいたかった。

そしてずるずると今まできてしまった。
だが、ずっと逃げ続けるわけにもいかない。

そんなとき、
ゲーゲンバウアー家のレグルスが銀鷲騎士団の団長に就任することになり、
ゲーゲンバウアー家が謁見するすることが決まった。
ラルフも来るだろう。

オレは腹をくくった。

王族として、王太子として、ラルフの前に立つ。
ラルフに、オレが王太子だと、明かす。

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