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入院
リハビリ
しおりを挟む数日間、寝たり起きたりを繰り返して、少しずつ体力が回復してきた。
口から栄養を摂るのが始まったのは、ベッド上で体を起こせるようになってからだった。
最初は手が上手く動かなくて、スプーンを使うのすらままならず、看護師さんに一緒に手を支えてもらいながらお粥を食べた。
井田先生がちょうどお見舞いに来ていた時は、先生が面倒を見てくれた。
1口1口がゆっくりにしかできなくて、もどかしくなると、食べるのを辞めたくなって、スプーンを置く。
案外、そういう時が井田先生は厳しかった。
「白河さん、これ一応リハビリなんだから、もう少し頑張ろう。自分であと5口ね。はい、支えるから」
井田先生はわたしにスプーンを持たせる。
もう嫌になって首を横に振ると、井田先生は声色を変えてわたしに向き合った。
「食事って大事なの。食べないと治らないよ。体は使わないと使えなくなる。君が思う以上に、君のことを心配している人はいっぱいいる。ちゃんとしな」
手が震えて、載せたお粥が掬ったところからこぼれ落ちて、口に来る頃には半分くらいになってしまう。
なんとか口元まで5往復させると、スプーンを置いた。
その様子を見兼ねて、先生はスプーンとお粥の入ったお椀を手に取ると、わたしの口元まで運んだ。
「半分くらいまで食べないと、薬飲めないし効かないんだ。じゃなきゃ点滴に逆戻り。ちゃんと食べるよ」
井田先生に申し訳ないし、悔しいし、こんな自分の体が嫌だし、情けないし、こんな体にしたあの男が憎いし、なんかもうグチャグチャな感情になって、泣きながら食べる日もあった。
泣いても、決まりの量を食べるまで、井田先生はやめない。
でも終わったら必ず頭を撫でて、
「えらい、頑張ったね」
と笑ってくれる。
その甲斐あってか、予定より早いスピードで体は回復していった。
日に日に自力で食べられる量も増える。
看護師さんにつきそってもらって、トイレにも行けるようになって、管を入れていたつらい日々が終わってほっとした。
澤北先生の回診の度に声も出るようになっていった。
ふと気になり、わたしは先生にきいた。
「……わたし、いつまでここにいて大丈夫なんですか?」
できるだけ地獄に帰るのは避けたくて、そんなきき方になってしまった。澤北先生は少し苦笑いを浮べながら言った。
「君の帰る家は、前の家ではなくなるだろう。あそこには危なくて帰せない……残念か?」
首をぶんぶんと横に振る。
もうあの家に帰らなくて良いことにとてもほっとしていた。次の家のことも心配だが、もう理不尽に暴力が振るわれることがないと思うと、住めるならどこだっていいとさえ思っていた。
「もう少し体力が回復して、新しい家に帰れるようになったら、言うから。ここで過ごすことに、心配はいらない」
少し笑いながら、澤北先生はわたしの事を見つめる。何となく、その笑顔が井田先生に似ていて、本当に仲がいいんだなぁと思っていた。
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