優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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本当の話をしよう

初めての夏祭り

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いつもの通学路が、まったく別な表情をしている。
通行止めになって、道路の両脇にズラッと屋台が並んでいた。

チョコバナナ、たこ焼き、クレープ、わたあめ、お好み焼き、かき氷…………それが、道いっぱいに、ずっと続いている。

道には、人も溢れかえっている。
その光景に息を飲んだ。
……これが、お祭りなんだ。
目に映るもの全てが、きらきらと明るくて眩しかった。薄暗くなった夜、屋台の明かりが、わたしと優の横顔を照らす。

「……咲、祭り、初めてか?」

声が出なくて、コクコクと頷く。
夜の街には、いつもの夜にないたくさんの音が響いていた。
思った以上のものに、圧倒される。

「はぐれるなよ。迷子になったら大変だからな」

そう言うと、優は左手をわたしに差し出してきた。

「ほれ、手繋いで」

その大きな手に、戸惑いながら断りを入れる。

「……繋がなくても、いなくならないよ」

なんとなく恥ずかしくなって、優の左手から目をそらした。

「だめだ。昨日足パタパタして飯進まなかったやつは信用ならん。春斗にも頼まれてんだ。絶対咲とはぐれるなって」

「もー、春ちゃんまで……」

どうやら、優の手を握らないと歩き出さないらしい。
渋々と、その大きな手に掴まる。ぎゅっと握りしめると、優しく握り返してきた。
優は、わたしのことを気にしながら、その人混みの中に足を踏み出す。
わたしはとりあえず、お祭りの空気の中に、身を置いてみることにした。

「お祭りって……すごいんだね……」

すれ違う人の顔、その全てが笑っていて、楽しそうだった。

どうして良いかわからず、ただ首を回して周りを眺めるだけだった。でも、それだけでも充分楽しくて、心が踊る。

「咲、なんか食べるか?」

「何食べていいかわからないよ……」

屋台に食べ物が多すぎて、どれを選べばいいかわからなかった。

「じゃあ、たこ焼き」

優はそう即決すると、たこ焼きの屋台を目指してわたしの手を引いた。
何も決められないわたしにとって、それはありがたかった。

「こういう時は、しょっぱいもの、甘いもの、しょっぱいもの、甘いもので食べる」

歩きながら、優が言った。それをきいて、わたしは春ちゃんの怒った顔を目に浮かべる。

「春ちゃんに怒られそう」

笑いながら言うと、優も笑った。
優は、いつも春ちゃんが見せるような、イタズラっぽい顔をしていた。

「……隠し通すぞ。春斗には絶対に見つかるなよ」

次は甘いものか……
そう考えていると、わたあめが目につく。

「優。わたし、わたあめ食べてみたい」

「お、いいぞ。その調子」

2人でゆっくりと屋台を眺めながら、手を繋いで歩く。

食べてみたいものを言ってみると、やってみたいことも見つかって、くじ引きを引かせてもらった。思いがけず大きめのクマのぬいぐるみが当たって、左手で抱き抱えながら歩く。

「持って帰られるか?」

優が片手をわたしに伸ばしてきたが、首を振る。
どうしてもわたしが持っていたかったし、クマのぬいぐるみは優には似合わないと思ったからだった。

「持って帰るよ!今日から一緒に寝るの」

その様子を見て、優は苦笑いを浮かべる。

「まったく……好きなようにしろ」

たこ焼き、わたあめ、焼きそば、チョコバナナ。
たこ焼きとわたあめと焼きそばは、優と半分こ。
優は、春ちゃんの分のビールと焼きそばを買ってから、時計を見た。

「そろそろ、春斗、見回り終わる時間だな。呼び出してみるか」

電話をすると、案外近くに居るみたいで、直ぐに合流できた。

「あれー、見慣れない子がいるなぁ」

春ちゃんは嬉しそうにわたしを見つめて、頭を撫でる。

「優から写真送られて来て、驚いたよ。まぁ、大人っぽくなっちゃって」

「春ちゃん、見てこれ、わたしが当てたの」

わたしも嬉しくなって、クマのぬいぐるみを春ちゃんに見せる。春ちゃんは、ついでにクマのぬいぐるみも撫でながら苦笑する。

「……ずっとこんな調子だ」

優は呆れたように笑っていた。

「それはそれは、お疲れ様だったね。中身は子どもか……咲、くじ運いいんだね」

大きく頷く。子どもと言われてむくれる余裕もないくらいに、楽しかった。
春ちゃんは、わたしからぬいぐるみを受け取ると、わたしの左手を取った。
驚いて、春ちゃんを見上げる。

「うん、家族3人」

春ちゃんは、満足気に頷きながら呟いた。

『家族3人』

そのセリフを噛み締めているようだった。
右手は優と、左手は春ちゃんと。
わたしも、『家族3人』を噛みしめる。

「……これ。お疲れ様」

優は片手をわたしと繋ぎながら、ビールと焼きそばが入った袋を春ちゃんに見せた。

「うわぁ、優。わかってるねぇ」

「春斗、下戸だから1本だけな。これから、花火の穴場に行くぞ」

「穴場?」

「病院の屋上だ」

「それなら、ビールは家までお預けだね」

「ねぇねぇ、ゲコってなあに? カエル?」

「カエルなわけなかろう。酒が弱い人のことだ」

「咲はほんとに……おもしろいねぇ」

「春ちゃん、お酒弱いんだね」

「うん」

話しながら、歩き出す。わたしは優と春ちゃんに手を引かれる。
下駄から響く音が、幸せの音のような気がして、歩くだけで胸がいっぱいになっていた。

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