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本当の話をしよう
浴衣
しおりを挟む「はい、咲ちゃん制服脱いで~。脱いだらそのカゴに入れてね」
優との約束通り、婦人科の早乙女先生のところへ行くと、浴衣を持った先生にそう言われた。
「……?! さ、早乙女先生、なんかそれ嫌です、治療の時みたいで、嫌です……!!」
一気に頬を赤らめる。
先日の治療の恥ずかしさを思い出して、キョロキョロしてしまう。あの足がぱっかり開かれる椅子に座らされるんじゃないかと、警戒心を強めた。
「冗談冗談、カーテン閉めとくから、浴衣羽織ったら言って。帯つけてあげる」
言われた通りにすると、早乙女先生が慣れた手つきでわたしの胸の下辺りに帯を巻き付けた。
下駄に履き替えて、髪をお団子にしてもらう。
「はぇ~! 思ったより大人っぽいよ~。澤北、定時で上がらなかったら、許さないね」
早乙女先生はイタズラっぽく笑った。
「あ、ありがとうございます……!」
わたしは、自分の浴衣姿が初めてで、自分の全身を見回す。紺色に白の花柄の浴衣と、赤い帯。
髪の毛は、いつもみたいに下ろさず、後ろに1つにまとまっていて、首筋がスースーと落ち着かなかった。
時刻は午後7時20分。
診察室をノックする音が聞こえて、扉が空いた。
振り返ると、優が立っていた。少しだけ息が上がっている。どうやら、急いで来てくれたみたいだ。
驚いた表情で止まる優。
一瞬、時が止まったかのようだった。
「どうよ、澤北、君のところのお嬢は」
得意げに、早乙女先生が言う。
「……似合ってますね」
感心したように、優が言葉にした。
「まぁ、浴衣選んだの澤北だけどね。小児科にこんなのあったとは。よく見つけたね」
優が選んでくれたんだ……。
ちゃんと似合う柄と色を、優が選んでくれた。
そのことがすごく嬉しくなって、もじもじと俯いてしまった。
「数年前に院内の夏祭りやった時、何着か用意してたの思い出したんです。早乙女先生、着付、ありがとうございました」
「今度、飲み付き合いなさいよ。井田も一緒にね」
早乙女先生はそう言うと、にっこり笑った。
「わかりました」
「写真、撮ってあげるから、井田に送り付けなさい。あいつ、仕事とはいえこんなかわいい子置いて、後悔させてやる」
そう言いながら、早乙女先生は優からスマホを受け取ると、わたしのことをパシャパシャと撮る。
なんだか恥ずかしくなって、耳まで真っ赤になってしまった。
……本当は、優と春ちゃんと3人で歩きたかった。
仕事とは分かっているけれど、仕方ないとも言いきれなくて、寂しい。
「……3人で歩きたかったなぁ」
呟くわたしの頭を、優がそっと撫でた。
早乙女先生は、思いついたように天井を指さして言った。
「……じゃあ、終わってからここの屋上、行くといいよ。毎年花火が綺麗に見える、穴場よ。今年はあんた達3人に譲ってあげる」
「花火……!」
花火は3人で見られるかもしれない。
そう思ったら、落ち込んだ気持ちが少し元気になった。
「それじゃ、楽しんできてね。わたしはこれからが忙しいからね。さーて、今日は何人産まれるかねぇ」
早乙女先生は今日は当直らしい。
そう言って、大きく伸びをしながら、診察室を出ていった。
診察室に、2人、取り残される。
優は、わたしのことを見つめて言った。
「咲、遅くなって悪かったな。行くか」
「うん!!」
優の後に続いて、歩き出す。
「ほ、はわわわ……」
初めての下駄は少し歩きにくくて、戸惑う。
すぐ脱げてしまいそうで、変なところに力が入った。
「ゆっくり歩けよ」
言いつつ優は、いつもよりゆっくりと、その歩みを進めてくれた。
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