優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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本当の話をしよう

3人の帰り道

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side:優


3人で夜道を歩く。
いや、歩いているのは正確には2人だけで、1人は俺の背中に乗っている。
俺と春斗は病院から家までの道のりをゆっくりと辿った。祭りの賑やかさから離れて、虫の声が聞こえるくらいの静けさが、辺りを覆っていた。

「咲、寝ちゃったね」

春斗が俺の背中を覗き込んだ。耳を傾けると、咲の規則正しい寝息が聞こえる。
春斗は咲がくじ引きで当てたクマと、俺が買ってきた差し入れの袋を持って、歩いている。

「疲れたんだろ。初めてばっかりで」

「昨日からずっと楽しみにしてたしね」

屋上で、もう歩けないだろうと背中を貸したとき、咲は素直に身を預けてきた。
背中に預けられた体重は、やっぱりまだまだ軽い。
手を繋ぐのは躊躇っていたのに、直ぐに背中にしがみついたのは、疲れて電池切れだったからのようだ。

「あの話……咲にして、良かったか?」

俺は、春斗に尋ねる。
春斗は頷いて前を見据えながら穏やかに言った。

「良かったと思う。咲はきっと、選ばれてここに来たね」

「……そうだな」

偶然が重なって、咲はいまここにいる。
だけれど、なんとなくそれは必然だったとも思う。
咲は、咲自身が助かるために。俺と春斗は咲に助けられるために。

そのために、咲と、俺と春斗は出会ったんだと、思わざるを得ない。

「優、家に帰って咲寝かせたら、1杯付き合ってよ。久しぶりに。ビール、優の分もあるんでしょ?」

春斗がそう言ってにっこりと笑った。

「ああ。構わん。……そういえば、早乙女先生が咲の着付けのお礼に、今度飲みに付き合えって」

俺は、今日早乙女先生から言われたことを伝えた。春斗は昔のことを思い出したのか、おかしそうに苦笑いを浮かべる。

「あの人、相変わらずお酒好きだね」

「春斗、辞めて以来ほとんど会ってなかっただろ? 」

「まぁ、婦人科は用事ないしね……辞めた病院に行くのもなんとなく気まずかったし」

「会えて嬉しかったんだよ、筋がいい後輩だったから」

笑っていた春斗の顔が、少しだけ真顔に戻った。
少しだけ真剣な目をして言う。

「うん。いまはお母さんの先輩、今度子育て相談でもしてみるか……」

咲が屋上で言ったことを思い出す。

「……咲、春斗のこと、完全に母親だと思ってるな」

「いいよ、それならそれで。母に性別関係なし。咲が幸せなら。あの子が結婚するまで務めきる」

「ずいぶん先の話だな」

突然出てきた『結婚』というワードに面を食らう。少なからず、なんとなく嫌だと思っている自分を自覚して、ばつが悪い。

「バージンロードは3人で歩くよ。どんな輩に咲を受け渡すことになるか、わからないからね」

「輩って……」

俺が吹き出すと、春斗も笑った。
春斗も同じような気持ちでいたことに、ほっとする。
背中に眠る咲の体温を感じながら、始まったばかりの日々の終わりを考えて、少しだけ寂しくなっていた。


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