優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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本当の話をしよう

夏休みの前に。

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春斗は下戸だ。
ビールはひとくちで既に顔が赤くなっていたし、酔うと面倒だ。
春斗は自分でそれをわかった上で、飲みたいと言っているし、俺は酒を買ってきた。
日々の労いも込めて、2人で乾杯をする。咲がこの家に来てから、2人で酒を飲むのは初めてだった。

春斗は頬を赤くして、ビールを煽る。
一段と、酔うのが早い。

「もうそんくらいにしとけ。寝るぞ」

とはいったものの、春斗が手に持つビールは1缶も空いていない。今日は半分でギブアップのようだ。


「まだ飲めるよ~」

机に突っ伏しながら、春斗は言った。
疲れていると、酔いが回るのも早い。これで、春斗の疲れの度合いが分かる。
1缶も飲めずにくたばるのは、研修医時代の時以来だった。最近は、相当疲れていると見た。

無理してんだな……。

俺は春斗の右手からビールの缶を奪い取って、飲み干した。

「あ?! ねー、なんで……そういうことする?」

春斗が睨む。

「もう少し疲れてない時を選んで飲め」

「ビール買ってきたの優じゃんか……」

春斗はまた、机に突っ伏す。
目をつぶって、つぶやくように言った。
その様子を見て、声をかける。

「寝るぞ」

春斗の腕を掴むとゆっくりと立ち上がった。
春斗は覚束無い足取りで、寝室に入ってベッドに転がりこむ。なんとか春斗を布団に入れてから、俺も横になった。春斗に背を向けて寝ていると、いきなり後ろから抱きつかれた。

「離れろって……」

春斗は酒に酔うとくっついてくる。
酔った春斗の体は、体温が高くて熱い。
ウンザリしながら、諦め気味に、半分くらい受け入れていた。
……その酒を買ってきたのは、俺だったから。

「キスしてあげようか?」

……おまけに悪ノリもすごい。
耳元で囁かれて、首を振る。耳がこそばゆいのが悔しい。
もう絶対、酒なんか買って来ないと心に誓う。

「お前、よくあの量でこんな酔い方……」

言いかけると、ぬるっと伸びた春斗の手が変なところに当たりそうになり、身をよじった。
不覚にもドキッとしそうになり、少し焦っていた。

「やっ…………ばかばか、やめろ。夫婦の夜の営みまで再現しようとすんな」

「冗談」

呆れながら笑うと、春斗も笑った。
変にドキドキしそうになる心臓を落ち着かせようと、そっと深く息をした。
正気が戻ったかと思ったが、春斗の絡ませた腕と密着した体は離れない。

「春斗、酔っても絶対、咲に手出すなよ?」

予防線を張るために言うと、意外なまでに正気な応えが返ってきた。

「ばか、出すわけない。犯罪だ。その前に咲は娘だよ。……俺らがやってる事って、子育てなわけだし。まだ中学生。甘えるのも足りてないから、愛着形成に至ってはまだまだ幼児よ……」

祭りできらきらと目を輝かせて、はしゃいでいた姿を思い出す。
瞼の裏に、鮮明にその様子が浮かんでは、楽しそうな顔が頭から離れない。
目に映るもの全てが新鮮な様子だった咲は、小さな子どものようだった。手を繋いでいないと、人混みに流されてしまいそうなくらい。

その想像を打ち消すように、春斗が言った。


……楽しいことばかりではいられない、現実を見せてくる。


「……優、忘れてない? 咲、早乙女先生の治療から1ヶ月だよ。生理来るよ、今週末には」

まだまだ幼児。そう評された咲でも、体は大人になりかけている。

そろそろ、早乙女先生に言われたことをやらなきゃいけない日が来る。

もう1ヶ月か……。
わかってはいたが……。
ため息をひとつ。

「気が重いな」

「大暴れ間違いなしだね」

そう言うと、春斗は腕を離して、俺に背を向けてため息をついた。
これに関しては、春斗も気が重いようだった。

今日が咲にとって楽しかっただけに、再発防止のための治療を毎月突きつけるとなると、それなりにきつい。

「毎月のことになるからな、上手く話さなきゃだな……初回は手荒になるかもしれないけれど。慣れてもらわんと」

「きついねぇ…… まぁ、頑張りますか」


考えながら目を閉じる。
ここでした応急処置の治療も、早乙女先生の治療も、抵抗のしようがすごかった。
中身はまだまだ子どもとはいえ、それなりの恥ずかしさだってある。



夏休み前のつらい治療。

頑張ったら、夏休みはどこか連れて行くか……。
密かにそんなことを考えながら、眠りについた。

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