優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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アメとムチと無知

過保護の保護者

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side:春斗


事後、優が咲の陰部を洗浄する。
洗われている感覚もないくらいに、咲は深い眠りに落ちていた。

俺は、咲の額の汗を拭って、頭を撫でながら、優に言った。

「ねぇ、優。次は咲に自分で触らせた方がいいと思うんだよね」

優は一瞬手を止めて、驚いてこちらを見る。
しかし、また手を動かしながら、言った。

「……まだ早いだろ。治療2回目だし。子どもだぞ」

洗浄しながら、咲の表情を見た。
子どもと言われて、ぐっすり眠る咲の顔は幼い。

「でも、恥ずかしさはあるみたいだし、気持ちいい感覚もわかってきたと思うんだよね。2回目とは言え、これからずっと続くんだよ」

優は、洗浄を終えると、丁寧に咲の陰部を拭いた。下着とズボンに、咲の細い足を通していく。
俺は咲が起きないのを見ながら、言葉を続けた。

「いっそのこと、咲に好きな人でもできればいいのにねぇ……」

つぶやくように言った言葉に、優が反応して、俺の方を見る。

優、なんだよ、その焦り方……。

おもしろくなってしまって、つい笑ってしまう。
優は自分の反応に、少し動揺しているようだった。
その顔に、悪戯心がくすぐられる。

「パパ。咲はもう思春期よ。今の子は早熟なのよ、咲は知らんけど」

「……パパって言うな」

どこか照れたように、優が目を逸らす。
優はおそらく、まだまだ先だと思っていた、自分の元から咲が離れていくことを考えて、動揺したのだろう。

悪戯心をしまい込んで、本気で思っていたことを優にぶつけた。

「この子が誰かを好きになれば、いろいろ学ぶでしょ。一気に大人になるよ。本当は気持ちいいことだって気づいて、自分で触りたくなる日も来るんじゃない? そうなれば、今みたいにつらくなることも無くなる」


咲が立てている寝息に合わせて、ゆっくりと頭を撫でた。

一緒に暮らして数ヶ月。

少しずつ、咲の中で止まっていた時間の流れを感じる。自分の思うままに、やりたいことを伝えたり、言葉を口にしたりする。嬉しい、楽しいと感じることに精一杯心を傾けて、笑顔を見せる。
……本来、14年間でしてくるはずだった経験を、時間を進めるように、少しずつ成長していることを実感する。

優と俺はその様子を見守っている。少しずつ、でも成長の速度は遅くない。

「……その時の為に、触り方、教えておくのか?」

優は咲に、ズボンを履かせ終えると、咲を布団の中に入れた。優と俺の中では、咲はまだまだ子どもだ。
でも今の咲だけじゃなくて、今後の咲のことも見てあげなければいけない。

起きない咲の寝顔をふたりで眺める。俺は静かに頷きながら言った。

「俺らがやるよりコントロールできるし、咲自身が恥ずかしくない。もちろん、数ヶ月間は見てあげた方がいいかもしれないけれど。介入できるうちに教えてあげるのがいいと思う」

ため息をつくように、優は息を吐き出す。

「……まぁ、早乙女先生にも、教えてあげてもいいって言われてるしな。でもこのことは、慎重になった方がいい」

「……優は、過保護だねぇ」

優は俺の言葉を受け止めて、部屋を出ていった。

ただの過保護じゃないのはわかっている。優は咲の親として、医者として、迷っているようだった。

俺は、もう一度だけ咲の寝顔を見つめる。
この調子だと、朝まで起きないだろう。
部屋を出て、咲の部屋からクマを持って来ると、咲の隣に寝かせた。

「寂しくないようにね」

言いつつ部屋を出る。
リビングのソファに座りながら、優が俺のその様子を見て笑っていた。

「どっちが過保護なんだか」

そう言われて、俺も笑う。
咲が寝てしまった静かなリビングに、俺と優の控えめな笑い声が響いた。

俺はコーヒーを淹れて、冷蔵庫からチョコレートを取り出すと、優に手渡す。

「お疲れ様」

マグカップを2つ、ローテーブルに置いた。リビングのソファに向かい合って座る。
優のコーヒーには、牛乳と砂糖を入少しれた。

「優、好きでしょ、このチョコレート」

「あぁ。ありがとう」

咲が寝たあとに、2人で夜を過ごす。
何をするわけでもない時間。
最近は、お互い忙しくしていたし、咲もいるしで、そんな時間もあまりとれていなかった。

コーヒーを啜りながら目を閉じる。
ほっと、一息付きながら、お互いが咲のことを考えていたと思う。生活の中心になった咲。

これからのこと。



「……海、どこにしような」

思い出したように、優が言った。

『海行きたい……』
ボロボロ泣きながら言っていた咲を思い出して、苦笑した。

「……ちゃんとご褒美あげないとね。車で行くでしょ? 交代で運転なら、行ったことあるところがいいかな」

運転は苦手だ。久しく運転していない。

「あぁ。……1泊するか、近くに宿とって」

「いいね、夏休みっぽい」

2人でスケジュールを詰めて、8月上旬、お盆の前に日程を決めた。旅館を探して、予約をとる。

咲の嬉しそうな顔を想像すると、どちらからともなく笑みがこぼれて、なんとなく2人で笑いあった。



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