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夏の訪れ
初めての海2
しおりを挟む「わっ、あっ? 冷たい……気持ちいい……」
透明で綺麗な波が、勝手に足に当たっては引いていく。最初は少し怖かった。
引いた波が、砂ごと海へと戻っていく。
優は、わたしの手をそっと繋いでいた。
波はじゃぶじゃぶとわたしの両足に当たっては砕けていく。それが楽しくて、ずっと見つめていた。
わたしは優の手を離れて、ゆっくりと膝下に海水が来るところまで入って行った。
波が引いたタイミングで、バランスを崩して水中に尻もちを着く。
「おっ、わっわっ」
転ぶと思ったのは一瞬だった。
痛いと思った感覚はなくて、それよりも派手な水しぶきが上がる。
「咲……!」
優が少し焦った様子で近づいて来る。
腰から下が冷たくて、でも、なんか笑ってしまった。
「大丈夫、思ったより痛くないんだねぇ」
優が手を差し出す。
「あー。これは着替えだなぁ。ほら、掴まって」
優の手に掴まって立ち上がろうとして、腰を浮かしたとき、また砂に足を取られた。
わたしの全体重が優の左手にかかった状態で、バランスを崩す。
そのタイミングを見計らったように、優の膝上まで来た少し大きな波。
「わっ、あっ!!」
「お……?!」
予想外のことに、今度は優もバランスが取れなくなって、2人で大きな水しぶきを上げた。
どうしようもなくなって、状況がわかってから、2人で声を上げて笑う。
「咲~! 派手にやってくれたなぁ」
「ごめんごめん。優もずぶ濡れだ」
「誰のせいだよ、ったく~! こら!」
優が素早く立ち上がると、わたしに水をかける。
「ひぇっ! やめてよ~!!」
言いつつ笑ってしまう。
「どうせ着替えあるだろ」
わたしも優に向けて、手を大きく動かして水をかけた。
「あっ、こら咲! ……もう手加減なしだぞ」
優は言いながら、水しぶきを避けて笑っていた。今までに無いくらい、無邪気な顔をして。
わたしもそれに負けないくらい大きな声を出して笑う。
お互いの顔めがけて、水を掛け合う。
なんとなくその時、わたしたちは兄妹なんだと思った。
真夏の空の下、きらきらと輝く水しぶきが眩しくて、海が楽しくて、優が笑っているのが嬉しくて。しばらくそうして2人で遊んでいた。
岸に上がって、春ちゃんがいるパラソルまで2人で戻ると、春ちゃんまで大声で笑いだした。
「ははっ!! なんだってずぶ濡れで。派手な水浴びだったねぇ」
全身ぐっしょり濡れた、わたしと優を見ていた。
「咲が悪い」
「優が最初に水かけた!」
同時に言うわたしたちは、春ちゃんの前で子どもだった。
「遠くで見てたけど、最初にコケてたのは咲だったね」
「春ちゃん、寝てなかったの?!」
「はしゃいで楽しそうだったから、ちらっとね」
濡れた体を拭くように、春ちゃんからタオルを渡される。
わたしと優は体を拭いてから、日陰に腰掛けた。
暖かい風が、わたしたちの体を撫でて、なんとなく濡れていたところは、すぐに乾いてしまう。
「寒くないか?」
優に訊かれて、頷く。
海に入ってみると、最初にあった怖さみたいなものは少なくなっていた。遠くの船を眺める。
ぼーっとしていると、春ちゃんに写真を撮られた。気づいたらスマホを向けられていて、驚いて春ちゃんの方を見ると、いたずらっぽく笑っている。
「家族3人、初旅行。こんなにはしゃいで濡れて帰ってくるとは思わなかったからさ」
春ちゃんはそう言いつつもう1枚わたしのことを写す。さっきよりも照れた表情になってしまって、恥ずかしい。
「3人で撮ろう」
意外にも、そう提案してきたのは優だった。
「えー、おっさんの自撮りは厳しいよ」
春ちゃんが苦笑いを浮かべたので、わたしが言った。
「おっさんじゃないよ、ママ」
「ママって」
春ちゃんが吹き出す。
「じゃあわたしがカメラ持つ」
春ちゃんからカメラを受け取ると、内カメラにした。真ん中にしたわたしに、2人がぎゅっと近寄る。
なんだかそれがうれしくて、笑ってしまった。
掛け声なしにシャッターを切ったら、両脇からブーイングが来て、それもまたおもしろくて笑った。
その後も、何度か海に入ったり、砂浜で貝殻を拾ったりして過ごした。たくさん遊んで、気づけば夕方も近い。
「そろそろ、移動しようか」
3人で砂浜を歩いた。
車に乗り込んで、そう遠くない旅館まで移動する。
チェックインした時には、すっかり西に日が傾いていた。
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