優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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夏の訪れ

初めての海1

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生理が終わったその次の日が、海に行く日だった。

1泊2日になるらしい。

前日、準備を春ちゃんと進める。出かける準備は、した事がなかった。
小学生の時の修学旅行は、お金がなかったので行けなかったのだ。

その話をしたら、優は深い深い、溜息をついていた。きっと、母親に呆れていたのだと思う。

……だから、今回が初めての旅行だ。
何を準備していいか、わからない。


「咲、とりあえずお着替え入れて」


「次の日の分だけでいいの?」


「海入るなら、短いズボンと半袖、下着ももう1セット予備で入れておこうか」


わたしの部屋に、大きめのリュックを持った春ちゃんがやってくる。
てきぱきと指示を出しながら、春ちゃんはわたしの荷造りを手伝った。


「……これで大丈夫かな。薬は俺が持っていく」


なんだかわくわくしてきてしまって、それだけで気分が上がる。
気持ちを抑えきれなかった。


夕食の時、足をパタパタして春ちゃんに怒られたのは言うまでもない。






当日、3人でトランクに荷物を詰め込む。

最初の運転は優で、後ろにわたしと春ちゃんが乗り込んだ。

車は白の小さめの乗用車。2人が共用していて、運転が苦手な春ちゃんのために、小さい車になっているらしい。


「これは要らんだろ……」


助手席にはクマのぬいぐるみ。
優は呆れて笑いながら言いつつ、クマにもシートベルトをかける。


「咲がどうしても連れていくって」


「家で1人は寂しいかと思って」


春ちゃんとわたしが口々にそう言うと、優もシートベルトをかけながら笑った。


「どうせ1晩だろ……」


そう言いながらも、優は車を発進させた。
降ろされなくて良かったとほっとする。


車は学校とは反対方向に進んで、高速道路に乗った。
知らない景色が窓の外を流れて、わくわくした。

生まれてから半径2キロ圏内でしか生きてこなかったことに気づかされる。

青い空の下、わたしたちを乗せた白い車が快速で走っていく。


途中、パーキングエリアで優と春ちゃんが運転を交代した。


「無理するなよ。2時間くらい、俺が運転するのに」


優が言いながら後部座席に乗り込む。


「いいの。優、昨日、当直明けだったし。俺も運転してみたくなった」



春ちゃんはそう言いながら、バックミラーを合わせた。発進は、優より幾分か慎重で、ゆっくりだった。

高速道路を降りて街を抜けると、海岸へ続く道に出た。いよいよ、窓の外には海が広がる。


「咲、海だよ」


春ちゃんが運転しながらわたしに声をかける。


「うみ……?」


見渡す限り、ずーっと青が広がって、遠くの方で空と交わっている。
水面は太陽を反射して、きらきらと輝いていた。


その光景に息を飲む。


思っていたより、ずっと遠くまで広がっている濃い青に、少しだけ怖さも感じた。離れたところにぽっかりと浮かぶ船が、迷子になったように見える。


駐車場に車を停めて、海の家でパラソルを借りた。砂に足を取られて、上手く歩けない。
転びそうになったところを、優に腕を掴まれ、手を繋がれる。


「ゆっくり歩け」


そう言われて、足元に気を向ける。

浜辺には、家族連れやカップルなど、たくさんの人がいて、夏の海を楽しんでいる。
わたしたち3人は、砂に足を取られながら、人のたくさんいるところを避けて、場所をとった。

春ちゃんが慣れた手つきでパラソルを開いて日陰をつくる。ブルーシートを敷くと、3人で海を見ながら腰掛けた。

波の音、風の音、海から上がってくる、潮の匂い。その全てが初めてで、大きく息を吸い込む。
寄せては引いていく波を見ていた。


「咲、海、入ってみるか?」


優に尋ねられて、ゆっくり頷いた。
砂浜は日陰でも暑くて、少しだけ水に入ってみたい気持ちが出てきていた。
きらきらと光る波に、触れてみたかった。


「日焼け止め、塗ってから行きなね」


春ちゃんはバッグの中のから日焼け止めを取り出して、わたしに手渡す。
手の届かないところは、春ちゃんに塗ってもらった。


「俺はここにいるよ、いってらっしゃい」


そう言うと、春ちゃんは日陰で横になった。


「運転、慣れないから、疲れたんだろ?」


優が心配そうに春ちゃんを見る。


「……少しだけ。預かる命が増えたからね」


「高速、意外とスピード出てたけどな」


「……ふふ、バレてた?」


春ちゃんは、言いながら目の上にタオルをかけた。本格的に寝るらしい。寝る寸前、春ちゃんはわたしに言った。


「咲、深いとこ行かないでね。体育おまけで3の子がちゃんと泳げるとは思えない」


「なっ……!」


横になった春ちゃんに、金槌と言い当てられてむくれる。
確かに泳げないんだけれども。


「冗談抜きで溺れるから、浅瀬で水浴びだな」


大きい波、小さい波と繰り返されるのを見ていると、さらわれる気がして、端から泳ごうとは思えなかったので、それでいいと思った。


優に手を引かれて、ゆっくりと波に近づく。


わたしは初めて、海水に足をつけた。



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