優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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夏の訪れ

幸せの夕食

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夕食の会場は個室で、畳の上に3人分のお膳が用意されていた。

優の向かいに春ちゃん、春ちゃんの隣にわたしが座る。

仲居さんは、料理の説明を一通りした後に、最後に食前酒の説明を終えて、部屋を出ていく。

わたしのお膳には、食前酒の代わりにぶどうジュースがのっているらしい。


わたしと優は、完全に料理に気を取られていた。


気がつけば、春ちゃんは食前酒を手にしていて、それを素早く口元まで持っていく。
そのあまりにも綺麗に流れる動作に、優もわたしも止める隙がない。


「あ、待て、春斗!」


「春ちゃん、ストップ!!」


わたしが春ちゃんの左腕を掴むも、食前酒はお猪口のサイズで、一口でなくなる。
春ちゃんはイタズラっぽく笑って言った。


「飲んじゃった」


「飲んじゃったってお前……!」


「だってこうでもしないと、優が飲ませてくれないじゃん。意外と大丈夫だよ」


「大丈夫なわけなかろうが……もう赤くなってるし」



言いつつ優が、溜息をつく。わたしは春ちゃんの赤く染る頬に触れた。


「春ちゃん、ほっぺ、りんごみたいだね」


ほんのり温かくなっていく。春ちゃんはわたしの方を見て、


「へへ」


っと笑った。その笑顔が少年みたいで、少しかわいい。


「へへっじゃないんだよ、ったく、目を離せばこれだから……」


優が声に怒気を含ませる。


「だって優ばっか飲むのずるい」


わたしは2人が言い合うのを見て笑ってしまっていた。春ちゃんは量はあまり飲めないけれど、お酒は好きらしい。


「春ちゃん、今日は飲んだら? いつも頑張ってるし」


わたしは、風呂上がりの春ちゃんが畳に寝っ転がっていたのを思い出していた。
旅行だし、春ちゃんは働き者だ。
いつもはお酒も我慢してくれているのかもしれない。

そう思ったら、春ちゃんのことを庇わずには居られなかった。


「咲~! 大好き! 良い子に育ったね……」


春ちゃんはわたしに抱きつく。
さっきよりお酒が回ったようで、体温が高い。暑苦しくて苦笑いしていると、優にとっては火に油だったようだ。


「咲! 甘やかすな! 大変なんだぞ、春斗の下戸具合は……!」


「ね、少しずつ飲むから。日本酒とか」


「あほ! 当たり前だ、日本酒をがばがば飲むやつがおるか!」


結局、旅行というのもあって、最終的には優が折れた。
3人で乾杯をして、食事に手をつけ始める。

春ちゃんは食べながら飲むと、少しは酔うのが遅くなるようだった。
わたしはお酌の係を引き受けて、2人の間をとっくりを持って、行ったり来たりを繰り返す。
優に言われて、春ちゃんには少なめに注ぐと、駄々を捏ねられた。


「えー!咲、少ない…………」


「だめっ! 優に怒られちゃうよ」


いつもと立場が逆転して、おもしろい。
ちょびちょびと注いでいると、春ちゃんが耳打ちしてきた。


「お願い、もう少し。後で売店でアイス買ってあげる」


そう言われて、気持ち多めに注ぐと、優が呆れたように笑っていた。


「よく釣れるのはわかるが、もので釣るな!」


「よく釣れるって!」


わたしは頬を膨らませる。
それを見た春ちゃんは笑いながら、わたしに同意を求める。


「ひどいよねぇー?」


「ねー!」


わたしと春ちゃんが仲良く顔を見合わせているのを見て、優も笑っていた。


「ねー!じゃない、釣ろうとした春斗が悪い」


そうしてわいわいしながら、3人でゆっくりご飯を食べる。

優もそこそこに飲んでいて、ご飯を食べ終わる頃には2人ともできあがっていた。

売店に寄って、約束通り、春ちゃんにアイスを買ってもらう。春ちゃんは、わたしと優の目を盗むのに長けていて、気がつけば売店でお酒を買って部屋に戻ってきていた。


優はその様子に、呆れながら諦める。


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