優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

文字の大きさ
48 / 59
夏の訪れ

幸福な時間

しおりを挟む

部屋に戻ると布団が敷かれていたので、窓辺のソファに3人で腰掛けた。

優と春ちゃんはお酒を飲み直す。
わたしは2人の横でアイスを楽しむことにした。

いつもなら、「こんな時間にアイスを食べて……!」とお小言の1つや2つを言いそうな春ちゃんも、今日はノーマークだ。

旅行はこういうところが特別なんだと楽しくなる。



「咲、今日、楽しかった?」


「うん」


春ちゃんに訊かれて、スプーンを口に運びながら頷く。思ったより満足そうな顔でアイスを食べていたらしい。

春ちゃんと優が、わたしの頭を順番に撫でた。
2人に撫でられるのがうれしくて、少し恥ずかしくて、顔が熱くなる。

その様子を見た春ちゃんが、ポツっとつぶやいた。


「あーあ。うちの娘も、いつか結婚して家を出て行っちゃうのかなぁ」


その早すぎる心配に、わたしは吹き出して笑った。アイスが変なところに入っていきそうになって、むせる。


「変なこと言うな! 咲、大丈夫か?! 」


優が背中をさすりながら少し焦った様子で言う。


「春ちゃん……、結婚って、わたしまだ14だよ……」


春ちゃんはもう、わたしがお嫁に行く未来を見据えていることに気付かされる。
春ちゃんは、鮮明にそのことをイメージしたらしい。鼻をすすり始めたので、驚いた。


「春斗……泣いてんのか……?」


「ごめん、想像したら泣けてきた」


わたしは慌ててティッシュを探して春ちゃんに手渡す。さっきからずっと熱い春ちゃんの体温に、酔うと涙のツボが変になることを察した。


「春ちゃん、飲み過ぎだよ。拭いてあげようか?」


「ありがとう、咲、優しいね」


酔っているとはいえ、初めてみた春ちゃんの涙が、わたしの程遠い未来の結婚のことで、少し嬉しかった。

春ちゃんは、ティッシュで目元を拭ったあとに、わたしのことをじっと見つめた。


「最初はさ、優の妹とか、生徒としての方が強かったんだけど。最近ね、娘としてしか、考えられないんだよ。俺、血の繋がった子どもとか、いたことないけどさ」


潤んだ目で笑う。わたしは、アイスで冷えた手で、春ちゃんの赤くなった頬に触れた。


「咲の手、気持ちいいね」


春ちゃんが、わたしの手を包むように触れる。


「いつだか、バージンロードは3人で歩くって決めたもんね」


言いつつ春ちゃんが優の方を見る。振り向くと、優まで目元を抑えていて、わたしたち2人は目を見開く。


「いや、優も泣いてるの?!」


「うるせぇー!」


春ちゃんと優がわいわいしている間に、わたしは春ちゃんのスマホでカメラを起動した。泣いてる2人にカメラを向けて、ボタンを押す。

笑い泣きの2人が向かい合ってソファに腰掛ける様子が、すごくよく撮れてしまった。



「「咲!!」」



2人同時に名前を呼ばれて、布団に潜る。

わたしが潜って寝ている布団に、優と春ちゃんが両側からせめてくる。
わたしはきゃっきゃと笑いながら、2人に抱きつかれた。優も春ちゃんも、酔っていていつもより温かい。

ひとしきり3人ではしゃいでいると、春ちゃんが言った。


「咲。咲がうちに来てくれてよかった。ありがとう」


わたしはお風呂で考えていたことを思い出していた。
 
こんなに幸せにしてもらって、わたしになにができるだろう。

ずっと考えていたことに、答えのようなものが少しだけ見えた。

そんなことで良いのかな……少しだけ躊躇われるけれど、今のわたしにできることはただ1つだ。


「優、春ちゃん、ありがとう。これからも一緒にいさせてね」


わたしは、ゆっくりと目を閉じた。


「当たり前だ」


「うん、飽きるまで一緒にいるよ」


2人にぎゅっと抱きしめられながら、その温かさに頬が緩む。


わたしは心地良さに身を委ねた瞬間から、ゆっくりとゆっくりと、眠りに落ちていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...