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落とし物に気づくとき
月イチの苦しみ
しおりを挟むside:咲
「んぁっ……あっ、やだ、んっ、ん、あっ……ん」
例によって、優と春ちゃんの寝室にいる。
3人で暮らしていて、唯一嫌いな時間。
それが月一回のこの時間だ。
「咲、嫌ならちゃんと力抜くよ、終わんない」
春ちゃんの声がいつもより冷たい。ここに来るまでに一悶着あったからだ。
力なんて、抜けるはずもない。
治療の時に優しくない春ちゃんは怖くていやだ。
でもこうなってしまったのは、わたしのせいだと認めるのもいやで。
せめてもの抵抗で、気持ちよさに飲まれるのを我慢しながら、必死に息をついて刺激を受け入れることしかできない。
月一回の治療は、どんなに嫌でも回ってくる。
夏休み最後の日。
明日から学校というこの憂鬱な日の夜に、更に気分が下がるような治療が、わたしの気持ちを追い詰めていた。
夕食後から嫌な予感はしていた。
カレンダーを見て、わかっていた。明日から生理が来る、9月1日に丸がついていることくらい。
薬を飲んでいるから、きっかり1ヶ月で確実に生理が来るとわかっているのに、淡い期待をしていた。
ひょっとして、1日早く来ちゃったりするんじゃないかと。そうなったら、治療はしなくてもいいはずだと。
どのタイミングで優と春ちゃんに声をかけられるのか。知らないふりをして過ごしていたら、大丈夫なんじゃないかと思って。
明日から学校だから、早く寝る。
そう言って、歯磨きを済ませて、寝ようとしたとき。案の定、わたしは優と春ちゃんに挟み撃ちにされて、逃げ場を無くした。
「咲から言ってきてくれるの、待ってたんだけどなぁ。月一回のお約束、忘れちゃった?」
春ちゃんに後ろから声をかけられて、俯いて首を横に振った。こんなに嫌な事、忘れるわけないのに、意地悪なことを言う。数日前からこの日が来るのを憂鬱に思いながら過ごしていたのに。
優が、わたしの顔を覗き込んだ。
「咲、このまま寝せるわけにはいかない」
わたしはこのまま寝たい。
そう思って首を横に振ると、優が言葉を重ねる。
「咲が治療から逃げる。逃げたらもっとつらい。早乙女先生のところへ連れていかないといけないくらい、悪化したら。誰がいちばんつらいと思う?」
そんなの……わかってる。
わたしだ。
わたしがつらくならないように、いまここでしなきゃいけないことくらい、わかってる。
でも、怖いし恥ずかしいし、やりたくない。
「……やりたくない」
こんなこと言ったら怒られる。
怒られるのを覚悟で、わたしはそう言葉にした。
これはわたしの意思だ。俯いたまま、小さな声でそう口にしていた。
「一応訊くけど、なんでやりたくないの?」
春ちゃんは、わたしにそう尋ねた。『一応訊く』というフレーズに、春ちゃんの怒りが込められていた。さらに、わたしに選択権がないことを突きつけている。
答えられずに足元を見つめていると、追い打ちをかけるように春ちゃんが言った。
「……じゃあ、やんなくてもいいよ。咲の体が痛くならないためにしてることだから。俺と優は、咲の治療しなかったからって、自分の体の一部が痛むことはない。治療中だって嫌がる咲を見なくて済む。咲がそんなに嫌っていうなら、今月はやらないで苦しめばいいよ」
「春斗」
優が、春ちゃんの名前を呼ぶ。『言い過ぎだ』そう言いたそうな名前の呼び方だった。
春ちゃんを本気で怒らせた。
背中に変な汗が流れ落ちる。
返す言葉がなくて、ぽたぽたと涙が零れた。
早乙女先生の治療のときに、ぎゅっと目をつぶって、わたしの手を握っていた春ちゃんのことを思い出す。
浅はかな考えとわかっていながら「やりたくない」と口にするしかなかった自分と、そこまで言われないと決心がつかない自分が嫌になっていた。
春ちゃんが怒るのは、わたしがこの治療の必要性に気づいた上で、わたしが自分から治療に向き合うことを求めているからだ。
優は、わたしの前にしゃがみこんで、顔を覗いた。どうしようもなくなったわたしの気持ちを救うように、声をかけた。
「咲。咲のことが大事だから、俺も春斗も折れることができないんだ」
「……ちゃんと、する……」
泣きながらそう言うと優に頭を撫でられて、手を引かれた。
「えらい。すぐに終わらせような」
今日は優の方が優しい。
本気で怒っていた春ちゃんと、目を合わせるのが怖くて、ずっと背を向けたまま、顔を上げられなかった。
「咲、しっかり息吐いて」
すぐに終わらせるとはいえ、嫌なことほど時間は長く感じる。一体いつまで続くのか……
容赦なく止まらない刺激、逃れられずにクリトリスを優に触られ続ける。
春ちゃんが後ろからわたしのことを押さえつつ、声をかける。泣いてぐしゃぐしゃになった目を、春ちゃんの胸に顔を押し付けた。
怒られたことを気にしている場合ではなかった。
春ちゃんは、ふっと笑う。
「いいよ。大丈夫」
それだけ言うと、わたしのことを抱きとめた。
もう怒っていない、というよりは、泣きながら必死でもがいているわたしに冷たくできなくなったようだった。
「……咲、もう少し気持ちいいところに集中しろ。変に我慢するな」
優がわたしのクリトリスに触れながら言った。
集中なんてしたら、すぐに意識が飛んでしまう。それが怖くて仕方ない。
息を切らしながら、無理だと伝える。
「む……り、っはぁ、はず、かし……」
優は生理の穴から掬われた液体を、わたしのクリトリスに塗りつける。滑りが良くなった指の動きに、一気に我慢ができなくなっていく。
気持ちいいところと自覚した上に、動かされる指に、感覚がおかしくなる。
「ん、いや、や、め、んぁっ」
やめてって言っても、きっとやまない。だけれど、そう言っていないと、自分を保てなくなる気がして怖かった。
「咲、気持ちいいね」
春ちゃんは、そんなわたしの気持ちを汲んでいるようだった。
春ちゃんの言葉に、気持ちが一気に快楽に傾いていく。やっと優しくなった春ちゃんに、安心して身を預けても良いことを知る。体の力が抜けてから、達するまでにそう時間はかからなかった。
「……ん!あっ……!!」
腰が浮いて、ブルブルと震える。
その瞬間に、刺激が終わる。
何も考えられない。呼吸を整えるために息をするが、なかなか収まらない。
この瞬間が、自分が自分でなくなるような感覚だった。
春ちゃんが頭を撫でる。
ここにいる、大丈夫。そう言ってくれているみたいに。
それが、眠りに落ちても良いという、わたしへの合図だった。
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