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落とし物に気づくとき
春斗の反省
しおりを挟むside:春斗
治療後、咲の寝顔を眺めながら、優と2人で話をする。
「ちょっと今回は、自分で触らせるのは無理だったな……」
前回、次からは自分で触り方を教えようという話はしていたが、そこに達することはなかった。
「あぁ、もう治療受けずに寝ようとしてたしな」
優が呆れたように笑う。
穏やかに眠る咲の顔を見ていたら、ふつふつと割り切れない気持ちが湧いて出た。
感情のいちばん醜い泥沼から、罪悪感が顔を出す。
「……咲に、少し厳しくしすぎた」
そう口にすることで、無意識に自身の罪を軽くしようとしていたのかもしれない。
優はそんな俺を擁護することなく、客観的に自分の意見をぶつけてくる。
「反省しろ。『苦しめばいい』なんて。発破かけるにしても言い過ぎだ。見捨てられたと思ったら、咲は心閉ざすぞ」
優は俺の方を見て、咎めるように言った。
反省してないはずがなかった。自分で出した言葉は、自分がいちばん分かっている。
口にした瞬間から、ずっと後悔していた。
「ごめん」
思ったより冷静じゃなくなっていた。
早く、咲がこの治療を受け入れて、自分でできるようになっていけば、俺は治療に携わることがなくなる。
でもそれは、咲のためじゃなくて、自分のためだったことに、終わってから気づかされる。
俺が、咲の嫌がる顔や苦しむ顔を見たくないから。だから、早くひとりでできるようになることを望んだ。
咲の、まだまだ未熟な心を置いてけぼりにしてしまったことは、反省してもしきれない。
咲はきっと、俺の言葉に傷ついた。
もう傷つけなくていいように、優と俺で保護したのに。その矛盾した自分の行為を振り返って。吐きそうになる。
そんな俺の内心を、知ってか知らずか、優が救うように声をかけた。
「……咲が治療のこと受け入れて、自分から受けるって言ってきたら、触り方、教えてもいいんじゃないか? 必要な治療だって理解はしてるだろうから」
頷いて、咲の頭に手を伸ばす。
「……うん。……ごめんね、咲」
寝ている咲の頭を撫でた。
謝罪の気持ちは、それだけでは到底伝えきれない。でもそうせずにはいられなかった。
起きたら1番に謝る、そう心に誓う。
「明らかに、春斗が優しくなってから、咲は安心してたしな」
優はすこし寂しそうな笑みを浮かべながら、咲と、咲の頭を撫でる俺を見た。
俺に向き直ると、静かに低い声で言う。
優の目を、しっかりと見返した。
「……春斗、焦るなよ。もう医者じゃない春斗を巻き込んで、悪いと思ってる。でも咲にとって春斗は精神的支柱だ。家で治療を続けるには、必要不可欠なんだ。すまんな」
優は、わかっている。
俺が咲の治療に関わることが、つらくなってきていることを。家での治療も、咲の前では平気なふりをしている。
でも、早乙女先生のところで機械を使った時、つらくなって思わず目を閉じたこと。咲には見られていたかもしれない。
あの子は敏い。大人の機微も敏感に察する。
「俺は、大丈夫」
他の誰でもない、自分に言い聞かせるように呟く。咲の寝顔を見ながら、心の中で何度も咲に謝った。
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