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心と体

月影の帰り道1

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side:陽太



のんちゃんに言われて、病院からの帰り道が、今日2度目だと思い出す。日頃から病棟からの呼び出しもあることを考えると、なんということはない。散歩みたいなものだ。

2度目の帰り道は月明かりの下。
のんちゃんは時々、蒼音くんが持たせてくれた袋の中を覗き込み、嬉しそうな顔をしていた。


好物は昔から変わらずか……。


そういえば、吹田先生から連絡を受けた時、俺はあの日のことを思い出していた。




***



「はぁー、もー、のんちゃんどこ行った?」


小児科の午前の外来を終えると、蒼音くんから緊急の連絡が入った。のんちゃんが病室から逃げ出したらしい。
急いでナースステーションに顔を出すと、小児科病棟の看護師たちが困り果てていた。


「小児科病棟、隅々まで探したんですが……どこにもいなくて。プレイルームで遊んでくるって言ったっきり、どこか行ってしまったようで……」


あれはたしか、のんちゃんが5歳の時の夏。

入院していたのんちゃんが、脱走を図ったことがあった。


「まだ遠くには行ってないとは思いますが、万が一外に出てたりなんかしたら……」


看護師の1人が青ざめる。
外に行ってなくても、院内はそれなりに広い。
とんでもないかくれんぼに巻き込まれたと、その場の全員が思っていた。


「とりあえず、手分けして探そう。警備員さんに連絡して、出入口は見張ってもらって。……蒼音くんは?」


話しながら、連絡をくれた蒼音くんがいないことに気づく。


「もう一度、見落としてないか探しに出てます」


「わかった。とりあえず、俺も一緒に探すね」


連日、治療がいやだと泣いていたことを思い出す。その日も午後から喘息の治療だった。

のんちゃんの病室からは、いちばんお気に入りの絵本とうさぎのぬいぐるみも消えていた。

のんちゃんの小さい体は、どんな隙間にも入れるだろう。
そう思って、とにかく、プレイルームのテレビの裏、ベッドの下カーテンの中、ありとあらゆる隙間を探す。
……が、全く見つからない。

捜索し始めて20分が経過したが、誰からも発見の連絡が来ないことがさらに焦りを生んでいた。

と、その時だった。


PHSが鳴る。吹田先生からだった。


「あ、陽太先生? ごめん、いまさ、のんちゃん捕まえたんだけど」


「え! ほんとに?!」


ほっとすると同時に、電話の向こうからのんちゃんが叫ぶ声が聞こえて、思わず笑ってしまう。


『だめーー! よーたせんせにもしもししないでーー!』


「ちょっと、しーっ。暴れない。うるさいよ、のんちゃん。病院では大きい声はダメでしょ。具合悪い人もいるんだから」


吹田先生は電話の向こうにいるのんちゃんに言い聞かせる。大声だけでなく、じたばた暴れているらしい。


「よかった~、元気そうだね? いま手分けして探してたところだったんだよ。どこに居た?」


「2階、中央エレベーターの前。なんだか両手に絵本とぬいぐるみ持って乗ろうとしてる子がいるなぁと思ってさ」


「まじか、どうやって病棟出たんだろ。ありがとう、とりあえず迎えに行くから捕獲しておいてもらえるとありがたい」


「了解~」


PHSを切ると、吹田先生がいるところに急いだ。

すぐさまナースステーションと蒼音くんにのんちゃん確保の連絡を入れると、全員が安堵の表情を浮かべたのだった。




***

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