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緊急入院と夏
アフターケア
しおりを挟むside:のぞみ
「のんちゃーん、ご飯持ってきたよ~」
夕方、ご飯を持ってきたのは蒼音くんだった。
入院初日の今日。初っ端から洗礼を受けるような治療に、泣かずにはいられなかった。
「いらない」
布団を頭から被って、食事を拒否する。
せめてもの反抗に出た。
「えー、どうしたの。どこかつらい?」
そんなわたしをよそに、蒼音くんは心配そうに布団を覗き込む。
「……ぜんぶ」
涙で目もパンパン、ぐしゃぐしゃの目元も見られたけれど、不思議と嫌ではなかった。
「あーらら……そんなに泣いて。つらかったんだね」
蒼音くんがベッドサイドのパイプ椅子に腰掛けて、涙を拭いてくれた。もう今日は、誰かに涙を拭かれてばかりだった。
「でも……わたしのせいなの……自業自得」
「ちゃんと向き合ってて、えらいよ。のんちゃんは」
「先生達、失望させた」
素直に言葉が出てくる。涙も。
蒼音くんと話していると、いつも心のままに話してしまう気がする。
「でもさ、失望した先生が、あんな風に覗きに来るかね」
蒼音くんが病室の入口に目をやっていた。
同じように、入口を見ると……
「うぁ、お、大海せんせ……!」
反射で布団を引っ張りあげて、中へ潜りこんだ。顔を隠す。
まともに、大海先生の顔が見られない。
「うわってなんだよ~、そんな隠れようとしないで。お疲れ様、蒼音くん」
凹んだような声を出す大海先生は、いつもと同じ雰囲気だった。
「お疲れ様です、大海先生。 じゃ、のんちゃん、ちゃんとご飯食べて元気だしてね」
入れ替わるように、大海先生が病室に入ってきた。
蒼音くんが出ていってしまったことが心細い。
「のんちゃん、調子はどうかな? さっきはごめんね。治療のことよく話さずに進めてしまったね」
今度は、大海先生がベッドサイドのパイプ椅子に腰掛けた。
さっきの治療のせいで恥ずかしすぎて布団から顔を出せないし、
「いいんです……わたしが……わるいから」
治療前に吹田先生と大海先生に詰められたことを思い出すと……
どんな顔をして、大海先生と話していいかわからない。
また説教かな、と思いきや……
「のんちゃんも、我慢してたんだよね。つらかった? 治療、怖かったね」
いつもの優しい大海先生だった。
横になっているわたしの背中を撫でてくれる。
……とっても怖かった。あんな大海先生も初めてだったし、あんな恥ずかしい自分だって誰にも見せたことなかった。
治療だということは、またやらなきゃいけない不安だってぶくぶく湧き出て、どうしようも無い。
大海先生、絶対、まだ怒ってると思ったのに……。
さっきあんなに鬼みたいな治療をしていた大海先生とは打って変わって、いつもの、よく知ってる大海先生だったから、余計に涙が出る。
「あとなんかい……」
「ん?」
「あと何回、治療しなきゃいけないですか……」
毎日だったらどうしようかと、心が竦む。
しかし、それは杞憂だった。
「手荒にやったあれは、ホルモン剤の効き次第かな。腹痛がでたら、経血取り除いた方がいいサインだから、教えてくれるかな? つらいかもしれないけど、放っておくともっとつらくなる。薬のことでもうそこは反省したでしょ?」
「……はい」
ああ、でもまたやらなきゃいけないんだ。
少し気分が落ち込んだ。
でも。
「大丈夫。絶対良くなる。っていうか治すからさ。つらいことも一緒に頑張ろ」
大海先生が、ぽん、とひとつ、優しく背中をたたく。
「そしたら、ご飯食べようか。寂しかったら、陽太先生も呼べるけど」
ガバッと勢いよく起き上がる。
こんな涙目のわたしを、陽太先生には見せられないと思って、ぶんぶんと首を振った。
「……!! い、いいです、1人で食べられる……!」
「ふふ、元気だね。じゃあ呼んでおくね」
「いいです……! 本当に……!」
いいと言っているのに、大海先生はPHSを手に取り、
「あ、もしもし陽太先生~。はい、のんちゃんのところに。よろしくです~」
陽太先生に連絡を取ってしまった。
「いいって言ったのにぃ……」
ごしごしと病衣の袖で涙を拭う。もしも本当に陽太先生がここへ来るなら……顔くらいは洗っておきたい。
「陽太先生もいまから夕飯だって。まあ一緒に食べなよ。じゃ、僕はおいとまするね~」
大海先生はひらひらと手を振って、ゆっくりと病室を出て行った。
わたしは大海先生が完全に病室から出ていったのをみはからって、洗面台で顔を洗い、髪をとかした。少しはだけた病衣を整えて、またベッドに戻る。と……少しだけ寝たフリをした。
コンコンコン……
「のんちゃん、元気してた~?」
陽太先生が病室に来たのは、その5分後のことだった。
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