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緊急入院と夏
辛い日々の始まり
しおりを挟むside:吹田
やっぱり吐いたか。
PHSが鳴って嫌な予感が的中した。
「のんちゃん、嘔吐ね……すぐ行く」
時刻は18時半。
ちょうど外来が終わり、カルテの整理をしていたところだった。
……それは入院患者の食事の時間でもある。
夕食、吐いたか……。
のんちゃんが入院している病棟へと急ぐ。
のんちゃんには悪いけれど、副作用で吐くとは思っていたが……それにしても早かった。
数日、せめてホルモン剤を投与したばかりの今日くらいは、大丈夫と踏んでいた。
陽太先生が一緒に食事をしていたおかげで、初期対応は早かったけど……
だからこそ、のんちゃんにとってはダメージがデカいだろうな。
病室に向かうと、陽太先生と看護師さんが手当にあたっていた。
「のんちゃん、聞こえる? 吹田です」
「ウゥッ……っはぁ、ハァ、せんせ……」
意識はある。肩で息をして、顔色はすこぶる悪い。唇にチアノーゼが出て、触れた手足は冷たい。
看護師さんから血圧値を聞く。低血圧、おまけに酸素濃度も低め。
「胸の音聴くね」
病衣を少し緩めて、聴診器を滑り込ませる。
酸素濃度低めの割には落ち着いているが、雑音が混じり、喘息の方も出始めてる。
「ごめん、苦しかったね。これはいま打ってるホルモン剤の副作用だから、薬に体が慣れたら少し楽になるよ」
ホルモン剤を中止することはできない。これより弱い薬は用意できないくらい、大海先生がスタートとして設定した数値は慎重で、少ない。
……それにしてもかわいそうなので、制吐剤をオーダーする。
併用すれば、明日からぎりぎり食事がとれるかな、という算段だが果たして……。
「きもち……わるい……」
「嘔吐、多量だね」
吐物と食事量を見て、食べたものはほぼ全量吐いていることを確認する。
「まだ出る?」
陽太先生がのんちゃんの背中をさすりながら聞くと、のんちゃんは力なく首を振った。
「食べてる途中から顔面蒼白、食べたものほとんど戻したと思う。吹田先生が来る少し前から、サチュレーション下がってきた」
陽太先生が、のんちゃんの口元を拭きながら、そう説明する。
「のんちゃん、飲み物も無理そう?」
のんちゃんは、目をぎゅっとつむって頷いた。
ポロポロとこぼれる涙を、これ以上出すまいとするかのように、目を開けなかった。
苦しいはずなのに、抑えて肩で息をするだけだった。
んー、制吐剤使っても使わなくても、明日はショックで食事量が減少するだろうな……。
まあまだ入院初日だ、まだゆっくりやればいい。
これ以上、陽太先生に弱さを見せるのは、のんちゃん的につらそうだった。
「陽太先生、代わるよ、ありがとう。のんちゃん、気持ち悪いの楽になる点滴と、お鼻に酸素していくね。今夜はつけてて」
……あー、のんちゃん、心折れたかな。
のんちゃんが治療を頑張れるかどうかは、メンタル面のケアでも左右される。そこも組んでの陽太先生との夕食だったわけだが……これが裏目に出るか……?
必要な処置を施しつつ、そんなことも考える。
陽太先生は心配した顔でモニターを確認したあと、のんちゃんの病室から離れた。
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