31 / 62
緊急入院と夏
辛い日々の始まり
しおりを挟むside:吹田
やっぱり吐いたか。
PHSが鳴って嫌な予感が的中した。
「のんちゃん、嘔吐ね……すぐ行く」
時刻は18時半。
ちょうど外来が終わり、カルテの整理をしていたところだった。
……それは入院患者の食事の時間でもある。
夕食、吐いたか……。
のんちゃんが入院している病棟へと急ぐ。
のんちゃんには悪いけれど、副作用で吐くとは思っていたが……それにしても早かった。
数日、せめてホルモン剤を投与したばかりの今日くらいは、大丈夫と踏んでいた。
陽太先生が一緒に食事をしていたおかげで、初期対応は早かったけど……
だからこそ、のんちゃんにとってはダメージがデカいだろうな。
病室に向かうと、陽太先生と看護師さんが手当にあたっていた。
「のんちゃん、聞こえる? 吹田です」
「ウゥッ……っはぁ、ハァ、せんせ……」
意識はある。肩で息をして、顔色はすこぶる悪い。唇にチアノーゼが出て、触れた手足は冷たい。
看護師さんから血圧値を聞く。低血圧、おまけに酸素濃度も低め。
「胸の音聴くね」
病衣を少し緩めて、聴診器を滑り込ませる。
酸素濃度低めの割には落ち着いているが、雑音が混じり、喘息の方も出始めてる。
「ごめん、苦しかったね。これはいま打ってるホルモン剤の副作用だから、薬に体が慣れたら少し楽になるよ」
ホルモン剤を中止することはできない。これより弱い薬は用意できないくらい、大海先生がスタートとして設定した数値は慎重で、少ない。
……それにしてもかわいそうなので、制吐剤をオーダーする。
併用すれば、明日からぎりぎり食事がとれるかな、という算段だが果たして……。
「きもち……わるい……」
「嘔吐、多量だね」
吐物と食事量を見て、食べたものはほぼ全量吐いていることを確認する。
「まだ出る?」
陽太先生がのんちゃんの背中をさすりながら聞くと、のんちゃんは力なく首を振った。
「食べてる途中から顔面蒼白、食べたものほとんど戻したと思う。吹田先生が来る少し前から、サチュレーション下がってきた」
陽太先生が、のんちゃんの口元を拭きながら、そう説明する。
「のんちゃん、飲み物も無理そう?」
のんちゃんは、目をぎゅっとつむって頷いた。
ポロポロとこぼれる涙を、これ以上出すまいとするかのように、目を開けなかった。
苦しいはずなのに、抑えて肩で息をするだけだった。
んー、制吐剤使っても使わなくても、明日はショックで食事量が減少するだろうな……。
まあまだ入院初日だ、まだゆっくりやればいい。
これ以上、陽太先生に弱さを見せるのは、のんちゃん的につらそうだった。
「陽太先生、代わるよ、ありがとう。のんちゃん、気持ち悪いの楽になる点滴と、お鼻に酸素していくね。今夜はつけてて」
……あー、のんちゃん、心折れたかな。
のんちゃんが治療を頑張れるかどうかは、メンタル面のケアでも左右される。そこも組んでの陽太先生との夕食だったわけだが……これが裏目に出るか……?
必要な処置を施しつつ、そんなことも考える。
陽太先生は心配した顔でモニターを確認したあと、のんちゃんの病室から離れた。
11
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる