ほしとたいようの診察室

おにぎりマーケット

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回想、はじめまして

はじまり

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16年前。





side 優




のんちゃんが、初めて病院に来た日。
それは、とても暑い夏の日のことだった。


「優先生、救急外来から電話で、小児科で診てほしい子がいると。患者は4歳4ヶ月、女児。バイタルは……」


その1本の内線から、全てが始まった。


「了解。処置室空いてるから、運び込んでもらって。輸液とモニターの準備。それから……」



38.5度の発熱。診察中に熱性痙攣(ねつせいけいれん)を起こして、小児科の医師に声がかかった、というところか。

日曜日は小児科外来を休診にしていたが、当直明けで仕事を山ほど抱えていた俺は、まだ医局に残っていた。

すぐさま、運び込まれた子どもの対応にあたる。救急外来から回されたカルテに、詳細が載っていた。



星川のぞみ。4歳4ヶ月。
早産児、喘息の既往あり。



熱性痙攣は、乳幼児期によく起こるもので、珍しいことではない。

しかし、その裏に重篤な病気が隠れている可能性がないとは言い切れない。


「痙攣、1度止まって、小児の処置室に運ぶ途中に、もう一度起きているそうです。意識障害出てます」


2年目の看護師、叶恵さんとともに処置室へ急ぐ。


「まずいな、急ごう。脳症じゃないといいが」  





処置室に運ばれてきた女の子はぐったりとし、付き添いの母親らしき人物は、目に涙を溜めていた。

4歳にしては、小さく華奢な体。
それでも目一杯肩で息をして、苦しそうな女の子が、そこにはいた。


「のぞみ!! しっかりして!! ねえ!!」



……おそらく、この子にとって、痙攣は初めてのことなのだろう。


「こんにちは、のぞみちゃんの保護者の方ですね? 小児科医の澤北です。のぞみちゃん、痙攣は初めてでしたか?」


「はい…… 昨日の夕方から、熱があって」


「何度くらい?」


「37度8分……夜ご飯が食べられなくて、飲み物を少し。夜中は……」



母親から状態を聞いているうちに、少女の体がガクガクと震え出す。


またか。


「のぞみ!!!」


母親が悲痛な叫びをあげる。

震えながら、嘔吐。血圧低下、サチュレーションも下がる。

まずい。


「叶恵さん、挿管の準備して。輸液全開で」


「わかりました」


「のぞみちゃん、ごめんな、ちょっと体触るよ」




挿管のために触れた体は、湯のように熱い。

刻一刻とサチュレーションが下がり、85%を下回った。
モニターの警告音が大きくなり、母親がパニックを起こしかけていた。



熱性痙攣で……ここまでなるか?



既往には喘息。……それ以外にも、なにか病気が隠れているだろうが、いまは状態を安定させることが先決だ。


必要な処置を淡々とこなしていくことで、状態はなんとか安定したが。
容体に余裕があるとは言えない。全身管理が必要だった。


一瞬にして、身体中、管だらけになった我が子を母親は悲痛な面持ちで見つめていた。


これから検査をして原因を特定するとともに、治療が必要であれば入院しなくてはならないことを手短に母親へ伝える。




母親は力なく頷き、ぽつぽつと話した。





『ようやく、上手にお話しするようになって』


『幼稚園に通えて』


『外で走り回るのが大好きな子なんです』


『……なんとか、また、のぞみが元気になるように……お願いします』







……


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